戦火の臭い
「分かった。街の防衛に関しては任せても良いかい?僕らは情報の収集と各地に散らばっているらしい小規模な転移魔法陣の捜索と破壊を優先する」
「正面衝突する帝国兵に対する戦力はあるのよね?」
「人員は足りる。今は部隊編成と現地での作戦を練っている。その辺りはカレジがやっているよ」
指揮系統の分担は組織を運用する上で重要な項目のひとつだ。
各指揮官が専門の部隊や得意とする分野を請け負い、1番上はそれを許可したり是正したり。
正常な状態の組織とはそうやって運用される。
と言ってもレジスタンスはそこまで熟成された組織ではまだ無いし、パッシオとカレジという二枚看板で運営されている組織だ。
そこに私達魔法少女が加わるカタチとなると、どうしてもそっち側の指揮をするのは私になる。
将来あれこれやるために表立って指揮をしたり、指導したり、裏で根回ししたりは既にやっているけど、こっちに来てもそれは変わらないらしい。
最近は私自身が動くより、私が誰かを動かす事が多くなって来た。
それが良いのか悪いのか。まだ分かっていないけれど一つわかっている事があるとすれば、一人でやるよりも遥かに大きな事をやれるという点だ。
かつての独りよがりで空回りしていた頃とは違うと、それだけはわかる。
だからこそ気を引き締めて挑まなければ。誰かの命と生活が私達の背中にのしかかっているのだから。
「真白、君がいてくれて良かったよ。やっぱり、僕は君がいないとダメダメらしい」
「何言ってるのよ。団長様がそんな弱気でいるもんじゃないわ。もっと背筋を伸ばしなさいっ」
「あいたっ?!」
にへらっと笑うパッシオの顔を見て頬が緩みそうになったのをすぐに持ち直して、弱音を吐くパッシオの背中を思いっきり叩く。
この調子なら部下達が心配するのもわかるわ。疲労が溜まって精神的にキている人によくあるような、自分を卑下にするような言葉だから。
「私の隣にいる貴方がしゃきっとしてないと、私までだらしなく見られるでしょ」
「……そうだね。うん、そうだ。ありがとう、少し疲れてるみたいだ」
そういう時の叱咤激励は人によってあまり良くないけど、パッシオは効く方だと思っている。
誰かのために、を考えられるからこそ頑張り過ぎる。でも頑張り過ぎるとその誰かのためにを続けられなくなってくるし、逆に心配をかけてしまう。
お互いのことをよく監視しなきゃいけない間柄なのだ、私達は。
夢中になって、没頭すると自分の限界を猛スピードで超えてしまう。そんな人種なのよ、2人揃ってね。
「でも、真白は普段からだらしないと思う」
「は?」
「なんでもありません」
部屋の汚さは大して変わらないでしょうに良く言うわ。仕事や作業に集中し過ぎて、片付けや掃除がないがしろになりがちなのも一緒。
全く、似た者同士とはこのことね。
「そのための私達ですよ」
「そーそー。お二人とも、少しくらい肩の力を抜きましょうよ」
「お茶とお茶菓子を持ってきました!!」
そんなやりとりをしていると、部屋から離れていた美弥子さんと、私の直属の部下になったグリエとマーチェがお茶を抱えて現れる。
美弥子さんの使い魔、狼雷と雷燕もちゃっかりついて来ているあたりおこぼれをねらっているようだ。
「これから大仕事なんだけどね」
「その前にひと息つきましょ。グリエの言う通り、少しくらいは肩の力を抜いたってバチは当たらないわ」
こうして私達のことを心配して、あれこれ世話を焼いてもらえて、それを受け入れられるなら大丈夫だ。
本当に余裕が無くなるとその気遣いすら煩わしく感じてしまう。
心と身体に余裕がある状態を維持するのも私達の仕事なのだから。
「プロフェッショナルは身体を壊さない。パッシオもお義母さんに習ったでしょ?」
「確かに、あの人はその辺うるさい人だった」
そのプロフェッショナル中のプロフェッショナルから、私達は教えを受けている。
それを破ればどうなるかも、私達はよーくわかっているしね。




