痛み分け、一応の解決
「全く、無茶をなさいます。ここからでもわかるほどの激しい戦いでしたよ?」
「無茶をしなきゃどうにも出来ない相手よ。結局はマトモな成果は得られなかったしね」
ヴィーゼの街に戻って、流石に疲れた私は次の日まで爆睡してからエースさんと再び顔を合わせていた。
勿論、何があったのかの説明やら得た情報の共有やらだ。
結局、ボルザには逃げられた。というよりはショルシエによって回収されたでしょうね。
あるいは運悪く死んでるか。生憎途中から完全に眼中に無かったから、どうなったのかを全く把握していない。
それはショルシエも同じだろう。アレだけ激しく戦ったのだ。それにあっちはそもそも周囲の被害を考えるようなヤツではない。
「それにしても、帝国に魔女とは……。思ったよりも大きな敵が出てきましたね」
「恐らく、レジスタンスの抵抗から真っ正面から戦うんじゃなくて、裏を掻く方法に変化させたんでしょうね。可能なら転移魔法陣を探した方が良いわ。潰せれば潰せるだけ良い」
「そうですね。レジスタンスにも協力を仰ぎます。他の街にも通達を出しましょう」
それが良いわね。転移魔法陣が一個だけだとは思えない。仮に一つだけだったとしても、楽観視して探さないなんてことは有り得ないし。
旧ミルディース王国の領内の至る所に隠されているとさえ想定すべき案件だ。
「ザッツ、アンタは何か知ってる?」
「……幾つか任務で使った覚えはある。ただ、場所が何処かは俺みたいな下っ端には伝えられてない。この前見つかった崖の下と、滝壺の裏、洞窟の中、後は……、確かどっかの都市の路地にも行った事がある」
「本当の事ね?」
「……アンタ相手に嘘をつこうとは思わねぇよ」
ソファーに座る私の横で立っているザッツに転移魔法陣について訊ねると素直な返事が返って来た。
ザッツは私の庇護下に入る代わりに持ち得る帝国の情報を洗いざらい吐く事を了承した。
彼曰く、「魔女と真っ向からやり合うバケモノに歯向かうつもりは無い」らしいわ。
全く、酷い言い草ね。それで大人しくなってくれるなら、越したことはないんだけど。
「その情報も共有しましょう。各街に速やかに伝達します」
「えぇ、頼んだわ。それとこの街を襲ったドラゴンについてだけど……」
「先程、竜の里からの使者の方が伺われました。……信じ難い話ではありますが、ドラゴンは実在する。そしてアカリさんもドラゴンであると」
「私については少し違うんだけどね。ドラゴンの力を使えるちょっと変わったヤツだと思ってくれれば正解よ」
スカーの処遇については里の方から内密に連絡があったみたいだ。
里の中の誰かが人化して訪れたのかしらね。その辺りは里に戻った時に聞くか。
ともかく、竜の里は今回の件をかなり重く見ている。上位者であるドラゴンが、操られたとは言え無関係な人々の営みを破壊したのだ。
相応の償いをすべきと言うトロイデさんの判断のようね。『隷属紋』は解除されているハズだから、スカーは里に連れ戻されたか何かして、今頃何かしらの罰を受けているのかも知れない。
「メルもドラゴンだよ!!」
「私もです」
「当然、俺もな」
「……どうりで子供の割には大人びた方々なハズです」
メル、ヴァン、ゼネバもドラゴンであることを自白して、エースさんは納得したように笑う。
まさか頼っていた人とその子供だと思っていた人達が丸ごとドラゴンだと白状されたら、笑うしかないのもわからなくはない。
「にゃーう」
「リオはドラゴンじゃないよ、だって」
「そりゃ見ればわかんだろ」
リオはリオでその辺のドラゴンより普通に強いでしょうが。全く、お喋りな子達ばかりね。
「里のバカが迷惑をかけたわ。私も無関係とは言い難いし、街の復興を手伝う」
「むしろ助かります。アカリさんのお陰で進展した事がたくさんありますから」
「あ、でも賠償に関しては使者と協議してもらえると助かるわね。政治についてはからっきしなの」
「それは勿論ですよ」
エースさんと街の復興や里が行うだろう賠償についての話も軽く取りまとめ、他にも意見交換や情報の検討などを進める。
こうして話せば話すほど、エースさんは優秀なリーダーだ。若いながらに街を取り仕切る様子は舌を巻くわね。
真白なんかはアレコレ無理難題を振りそうなくらいだ。と、何気なく思ったところで旧王都にいるかも知れない真白に手紙を出した事を思い出す。
それについての返事が何かあったかを訊ねると小包みを手渡された。
小包みに記された文字は間違いなく真白の文字。あっちは順調に進んでたみたいね。
「お、良いの送ってくれるじゃない」
「なんだ、それ?」
「見せて見せてー!!」
「だーめ。次壊したら何言われるかわからないんだから」
中身を開けると中には連絡用のスマホが入っていた。コレで真白達とも連絡が取れる。
試しに電話帳に入っていた真白の連絡先に繋がるわけもないと思いながらかけてみて。
【遅い!!!!】
耳をつんざく親友の怒声が私の鼓膜を襲うのだった。




