竜を操る者
飛び出して来たメルに私どころかショルシエまで虚を突かれる。
一瞬の隙で『炎王剣 イクスキャリバー』を振るい、攻撃魔法を破壊。さらにはメルが放った渾身の火炎弾がショルシエの顔面を焼いた。
「ママー!!」
「メル!!アンタ何でここに?!」
「ママ助けに来た!!」
ヴァンとゼネバは何をやっているんだと怒りそうになったところで、メルの言葉に力が抜ける。
子供っていうのは突拍子もないことをするもんね。確かに助かったけど、後でちゃんと注意しないと。
「……子竜如きが!!邪魔をしてくれたな!!」
火炎弾を顔面に受け、流石に怯んだショルシエが怒りの形相で復活する。
私との戦いに水を差された、というよりは自分の遥かに格下なメルに良いようにされたことが余程頭に来ているらしい。
そのおかげか、さっきまでの身体の痛みは引いている。私の中にある『獣の力』とやらのコントロールはそれなりに集中力を使うみたいね。
メルからの不意打ちにキレたショルシエはそっちの方は疎かになってるみたい。
「メル、隠れてなさい!!」
「手伝えることあったら手伝う!!」
「ええ、お願い!!」
ここはダメと言うより本人の意思を尊重して、良いと言うまでは出ないこと、にしておいた方が良い。
メルが背中に隠れたのを感じながら、放たれた魔法を次々と破壊する。
デタラメな威力だわ。何が何でも殺すって感じ。相変わらずプライドを傷付けられるのだけは我慢ならないらしい。
「どけ!!小娘!!」
「退くわけないでしょ!!」
はらわた煮えくり返ってとはこの事ね。魔力が漏れ出ることも気にせずに魔法を撃ちまくってくる。
それを全部叩き斬って炎の斬撃を飛ばして、攻勢が一回逆転。
今度は逆にショルシエが私の斬撃を魔力や魔法で吹き飛ばしている。
攻撃が雑で単調になったのはどちらも同じだ。私はメルがいるから近づけないし、ショルシエは頭に血が昇っている。
「ならば2人仲良く殺してやろう!!」
「……っぅ!?」
「ママっ?!」
これなら均衡は保てるかと思ったけど、少し時間が経って頭が冷えたのかまた私の中にある『獣の力』に干渉して来た。
痛みを耐えようにも、内から湧き上がって来るモノに抵抗は難しい。
また膝をつきそうになって、メルが心配そうに声を上げる。
何とかしなきゃと思うけど、この場で何とかするのは難しい。せめて、もう少しでも良いから時間があれば良いのに。
「死ねぇっ!!」
せめてメルだけでもと背中にいるメルを抱きしめて攻撃に備える。
今度こそここまでかと思った私のことを助けたのはまた幼いドラゴンでしかないはずのメルだった。
「ママを、いじめるなぁっ!!」
「ーーッ!?!?」
怒りの感情を子供ながらにそのまま出したような声が、大気を震わせるほどのビリビリとした威圧感を放つ。
とても子供が放つそれじゃない。再び驚いた私と、メルが放った威圧をモロに受けたショルシエはほとんど反射だろう。
飛び退くようにその場から一気に距離を取り、目を白黒とさせていた。
この場にいる誰もが、何が起きたのかを理解していない。そんな状況で先に動けたのは、ドッグファイト慣れをしている私だった。
「『固有魔法』……!!」
「しまっ――」
「『星を斬る剣』!!」
太陽に届きそうなほどの巨剣が辺り一帯の森を根こそぎ燃やし斬りながらショルシエに襲い掛かる。
結果なんて考えている余地は無い。
『星を斬る剣』は一瞬の抵抗感を感じた後、完璧に振り抜かれた。
「リオ!!」
「ガウッ!!」
攻撃の衝撃で辺りに爆炎が吹き荒れる中、『獅子竜王』の状態も『魔法具解放』の状態も解除して、リオの背中に乗ってその場から離脱する。
追撃は無い。恐らく、痛み分けといったところかしらね。あのショルシエ相手にそれが出来たのなら十分と思うしかない。
「ママ、大丈夫?」
「大丈夫。ありがとうねリオ」
戦いの時間は短いものだったけど情報も手に入った。ただ新しい疑問の方がきっと重要な話になって来ると思う。
『獣の力』もそうだし、何より個人的に気になるのは……。
「メル、貴女一体……」
「んん?」
「……何でもないわ。早く帰りましょう」
「うん!!」
ショルシエさえも威圧した、メルは一体何者なのか。私が一番気になるのはそこだった。




