竜を操る者
あまりの痛みと突然さに思わず片膝を付く。全身を稲妻のように走り続ける痛みは一瞬では終わってない。
うずくまってしまいそうになるほどのそれを歯を食いしばって耐える。痛みなら慣れている。何をしたのかは分からないけど、それで屈するような雑魚じゃないわよ私は。
「ほう、耐えるか。バハムートに与えた『獣の力』は微量な上に混ざりもの故の抵抗力ということかな?」
「……っ!!何をしたのか、知らないけどっ。この程度で、負ける程ヤワじゃないわよ……っ!!」
膝をつく私と、堂々と警戒もせずに近付いて来る。それを見ても何かをする余裕が無いほどの痛みが続いているけど、私は気合だけで立ち上がる。
剣も握ったまま。振るえば確実にダメージを与えられる。舐め腐ってるコイツに刺し違えてでも致命傷を与えてやるわ。
「流石の胆力だ。これ以上近付いたら、命を棄ててでも私を殺すつもりか」
「わかってるじゃない。アンタを殺せるなら、くれてやるわ」
生憎、私は逆境で強くなるタイプだ。ここ一番のタフネスで負ける気は無い。どんなに厳しい状況でもショルシエを殺せるなら、命くらいくれてやるわ。
真白が聞いたらグーパンチが飛んでくるようなセリフだけどね。
「王の器か。流石は『天幻魔竜 バハムート』の魔力を取り込んでいるだけはある。まぁ、貴様を追い詰めている原因でもあるがな」
「アンタとバハムートが関係あるってわけ?」
「あぁ、人間界にいたS級魔獣とは『獣の力』を微量ながら取り込んだ連中のことだ。実験的に行った事だが、中々良い成果が出た。私の分身体達もそこから着想を得た技から生まれたモノだよ」
新しい情報が聞ければ聞けるほど、コイツが全ての元凶なのだと改めて理解させられる。
旧ミルディース王国が滅んだ事も、真白の両親が亡くなったことも、世界に穴が開いたことも、妖精界から流れ込んできた魔力が魔獣を生み出したことも、S級魔獣って言う最悪の怪物が生まれたことも。
ありとあらゆる災厄、災害の後ろに必ずコイツの陰がある。コイツさえいなければ、ただただ幸せに生きていられた人達が沢山いたはずだ。
理解すればするほど、コイツの悪性には反吐が出る。まるで当たり前のことのように他者を嘲笑い、蹂躙し、愉しむ。
こんなクソ野郎のことを許すわけにはいかない。
「アンタはその『獣の力』ってのを操れて、私は『天幻魔竜 バハムート』の魔力を取り込んでいるから、私の身体に干渉出来る、ってとこか。ホント、クソみたいな話だわ」
「理解が早いじゃないか。そういう事だ。貴様は確かに強い。だが、その力があだになったな」
余裕の姿勢を崩さないショルシエを見て、私はむしろニッと笑う。
『天幻魔竜 バハムート』にショルシエが操る『獣の力』とやらがあったとしてもきっとそれは微量だと言っている。
S級魔獣についてショルシエは実験だと言っていた。どんな結果が得られるかも分からない実験にいきなり大量にぶち込むワケもない。
むしろ本人からすれば微量とされる『獣の力』とやらで『天幻魔竜 バハムート』や『大海巨鯨 リヴァイアタン』、『人滅獣忌 白面金毛の九尾』みたいな超強力なバケモノを生み出せるのだとしたらヤバい以外の何物でもないけど。
だとしても、私が変わる必要はない。いつも通り、理不尽も不条理も焼き尽くして飲み込んで行けば良いだけだ!!
「ああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
目一杯、空気を吸い込んで出せる限りの咆哮を腹の中から出す。身体中を襲う痛みなんて知った事か。『獣の力』がなんだ。
それすら自分のモノにしてやれば解決する。
「バカめ、無駄な事だ!!」
「っう!!」
咆哮と共に噴き上がる炎が獅子と竜をかたどり、何かに牙を剥く。やってやろうと意気込んだところだったが、それは間に合いそうにない。
万事休すかと、一瞬でもマイナスの思考になった私のもとに飛び込んできたのはショルシエが放った魔法、では無かった。
「――ママを、イジメるなぁっ!!」




