竜を操る者
「『炎王剣 イクスキャリバー』」
『獅子王』や『獅子竜王』といった強化フォームに比べると私の『魔法具解放』の姿は地味だと思う。
どちらかと言えば、『獅子』のメモリーだけを使った時の姿に近い。『獅子王』や『獅子竜王』みたいな強力なフォームになればなるほど、私の姿や装備はどんどんと豪華になっていった。
これが『魔法具解放』をするところっと変わって過度な装飾を取り払った、実戦重視の装備にでもなった、というべきかな。
剣も二刀流でも無ければ、大剣でもない。朱色と紫、そして金色の装飾が施された綺麗だけれど、見せびらかすわけじゃない。
実用性を損なわない、良い剣だと思う。少なくとも私はこの『炎王剣 イクスキャリバー』を気に入っている。
「……くくく、はははははっ!!なんだよ、大見得切っておいてミスったのか?さっきまでの方がご立派だったクセに、剣の数も大きさも、魔力だって減ってるじゃねぇか。ザマァねぇなぁ!!」
「……」
そんな一転して地味な、シンプルな姿に変わった私の姿を見て、ボルザは私が失敗したと思ったらしい。
バカにするようにゲラゲラと笑っているけど、バカはアンタよ。これを見て強化魔法の失敗だなんて思える、その程度しか感知出来ないのなら、才能無いわ。
「アンタ、本当に今のところ勝つ見込みがあると思ってるの?」
「あ?魔法をミスって魔力を無駄遣いしてるヤツに――」
「言っておくけど、加減出来ないから。最初の一撃だけ外してあげるわ。警告はそれでお終い。間違って当たらないでよね」
『炎王剣 イクスキャリバー』を軽く構え、軽く軽く。努めてゆっくりと見えるように振る。
子供のチャンバラでもこんな遅い太刀筋は中々見られないと思う。そのくらい、加減をしてなお。
「……は?」
切っ先から迸った炎が森も地面も、なんなら背後に広がる山の峰まで焼き斬って見せれば、流石のバカでも状況くらいは理解出来るでしょ。
「言ったでしょ、加減は出来ないって」
「は?いや、んな馬鹿げた魔法があるわけ……」
「次は当てるわ。死にたくなければ、投降をおススメするけど?」
と思ったけど、馬鹿は状況の理解も追いつかなかったらしい。何かの間違い。そんなの有り得ないと現実逃避を始めたから、『炎王剣 イクスキャリバー』をもう一度構える。
脅しじゃない。次は本気で振る。そうなったらどうなるのかくらいは想像ついてよね。
「は、はははは……」
ガタガタと震え始めて、ようやく自分が何を相手にしていたのか分かり始めたみたいね。後ずさりしたと思うと何歩か下がって座り込む。
顔を青くして震える様子は尻尾を丸めて怯える動物ね。全く、調子に乗るからそんな目に遭うのよ。
「スカーにかけた『隷属紋』を解除しなさい。しなきゃ……」
「や、やる!!分かった!!」
「そ、じゃあ早くしなさい」
『炎王剣 イクスキャリバー』を構えようとする私に食い気味で『隷属紋』の解除を了承したボルザ。
とりあえず、これで目下の面倒は解決。かしらね。スカーにも色々支払わせる代償はあるだろうけど、一番の原因は排除出来た。
あとは、コイツをさっさと縛り上げて……。
「成程、見事な魔法だ。極限まで鍛え上げた炎の魔力を剣一本に凝縮させることでたったひと振りでもこの威力。素直に感嘆するよ。流石の私でも、同じことを知ろと言われれば無理だと答える」
事態の収束を感じていたところに、拍手と聞き覚えのある声が耳に届く。
まさか、小物を突いたらとんだ大ボスが釣れるだなんてね。願ったり叶ったりというべきか、藪蛇というべきか、迷うところね。
「まさか、こんな小物のためにアンタが出て来るの?ショルシエ」
『災厄の魔女 ショルシエ』。まさかの私達最大最強の敵の出現に、圧倒的優位だった雰囲気は一変。肌がヒリつくような緊張感が襲い掛かって来る。
「意外か?私が直々に出て来るのが」
「えぇ。アンタは自分が労力を割くのを極端に嫌うでしょ?高みの見物こそがアンタの趣味だと思ってたわ」
にんまりとした笑みを浮かべて、転移魔法と思われる穴から身を乗り出したショルシエに私は一瞬も目を離さずに『炎王剣 イクスキャリバー』を構えるのだった。
最近仕事が忙しくて更新が安定しないの申し訳ないです。




