竜を操る者
エースとの話もそこそこに捕まえた帝国兵にも話を聞く必要があるから、そっちの拘置所にも顔を出す。
尋問くらいしないと口を割らないでしょうけど。役職の無い一般兵でも兵士は兵士。軍人としての基本的な訓練くらいは受けているハズ。
尋問を受けても口を割るかはどれだけ帝国に信奉しているか、ね。
「……アンタか」
「さっきぶり。調子はどうかしら?」
「別に。良いも悪いも無いだろ、この状況で」
牢屋越しにあえて気軽に声をかけると割と調子のいい返事がかえって来る。思っているよりは現実を直視したうえで、肝が据わった受け答えが出来るのは性格か、訓練の賜物か。
少なくとも個人的には悪印象は無い。自分の立場を弁えているし、誇りも失っていないとても冷静な対応だと思う。
「でもまあ、感謝してるよ。アンタだろ、ここの看守に口添えしてくれたのは。おかげで理不尽にボコられずに済んだ」
「貴重な情報源だからね。個人的な恨みつらみで厄介ごとの種を作られても困るし」
帝国兵は旧ミルディース王国の住民からすれば、仇敵とも言える憎むべき相手の象徴みたいなものだ。
放っておけば、住人たちからリンチに遭う事は必至。それをしないようにキツく言いつけておいた事が功を制したみたいね。
「それに、私は旧ミルディース王国の住人じゃないしね。帝国に思うところはあるけど、私と私の仲間にとっては帝国の中にいるたった一人に因縁があるしね」
「ふーん?帝国じゃなくて、帝国の中にアンタの敵がいるのか。どんな奴なんだよ」
「何、知りたいの?」
「まぁ、個人的に。アンタみたいな如何にも善人に恨まれるようなヤツ、知っといた方が良いだろ」
良い性格してるわコイツ。敵地のど真ん中にいてこのふてぶてしさ。呆れを通り越して感心するわよ。
思わず笑った私に対して、一緒に来たエースさんは逆に物凄い形相で牢屋の中にいる帝国兵を睨みつけている。
まぁ、一般人からしたら仇敵の帝国兵。さらにはこのヴィーゼの街を襲ったかも知れない相手だ。
私が抑えているから無傷で済んでいるけど、そうじゃなかったらどうなっているか。きっとコイツは感覚的にそれを理解しているのね。
一体、生き延びるためには誰に味方すべきか。野生の勘が鋭いタイプはこういう時長生きする。
「アンタに取引を持ち掛けてあげる」
「へぇ、俺みたいなヒラの兵士に?」
「そうよ。アンタの身の安全は私が保証してあげる。その代わりに、アンタが持ってる情報を洗いざらい吐きなさい」
悪くない条件のハズだ。この後、尋問なり拷問なりが待っているのは自明。いつ帝国に変えれるかも分からないし、そもそもに生きて返してくれるかさえ怪しい敵陣のど真ん中。
自分の周りすべてが敵の中で、自分を庇護する存在があるというのは大きなメリットでしょう。特にコイツみたいな生き抜くことを最優先にしているタイプはね。
「しかしアカリ殿、この帝国兵は……」
「帝国兵でも、この街を襲わせたかもしれない存在とは別と考えるべきよ。恐らくコイツの上官、かしらね」
帝国そのものに強い恨みがあるエースさん。それに旧ミルディース王国の住人であるこの街の人々はコイツに強い拒絶反応を示すでしょうけど、コイツには色々使い道がある。
ここで住人達の鬱憤を晴らさせるために使い潰すには勿体ないと私は思う。どうせ使うなら、友好的に使わないと。
「……なんかあったワケ?さっきからやたらピリついてるけどさ。街もスゲーことになってたし」
「アンタが知ってる事全部話すって言うならこっちも全部教えてあげるけど?」
「……絶対に俺が死なない保証がねぇだろ」
確かに、それもそうね。と帝国兵の言い分にも納得する。私の実力を見せておく必要があるわね。
何か、丁度いいのがあれば良いんだけどと思ったところでゼネバとヴァンが拘置所に駆け込んで来る。
情報収集を頼んでいたけど、何かあったのかしら。
「スカーと思わしきドラゴンを目撃したと、他のドラゴンから情報提供がありました」
そっと耳打ちしてきたヴァンの内容は非常に都合の良い話だった。




