竜を操る者
ヴィーゼ街へ戻り、復興作業を手伝う。こちとら女でも力には自信がある。
単純なパワーならアズールに負けるけど、それでも丸太3本くらいなら余裕で担げるわ。
「そのデカいのは私が持って行くから、アンタ達は細かいの持って行きなさい」
「わかりました!!」
倒壊した家屋のなかでも特に大きな柱や家財道具などを肩に担いで、指定された廃棄場へ持ち込む。
流石に大き過ぎるものは適当な大きさに斬ってから持っていってるわ。
それでも一般人の数倍のペースで持っていってるのかしらね。
「スゲェなぁ……。あんなほっそい身体でどうやって持ってんだよ……」
「おい、失礼だろ。女性だぞ」
「いや、男女関係なく憧れるだろ。どんだけ鍛えたらあんなスゲェ人になれんのかなってさ」
後ろで作業を手伝っている若い男の子達がヒソヒソと小声で話しているのを耳にしながら、廃材を運ぶ。
他にも何人かの人達が声をかけてくれる。ここ最近出入りしてたからね。顔を覚えてくれている人もそれなりに多いみたいだ。
「メルちゃん、火付けてもらっていい?」
「任せて!!」
「おぉ、上手だねぇ」
「でしょ!!」
メルは炊き出しをしている魔族のおばさまがたのお手伝いだ。
出来ることは火をつけることや物を運んだりする程度だろうけど、誰かの助けになりたいというメルの気持ちを尊重して、出来ることを任せることにした。
ヴァンやゼネバには情報の収集を頼んでいる。夜に行われた強襲とは言え、ヴィーゼの街は大きく活気のある街だ。
夜でもそれなりに人の活動はあるし、街明かりや月明かりもある。
エースさん達がまだ集めきれていない情報や、今ある情報の確実性を上げるために2人には頑張ってもらっている。
「そろそろ夜になるぞー!!作業切り上げの準備をしとけよー!!」
復興作業とは言え、人が作業するには体力の限界がある。
夜は見通しが自然と悪くなるし、要らないトラブルや怪我を避ける意味もあって、夜は普通に作業を止める。ま、当たり前だけどね。
復興作業も魔法でちょちょいとやれたら良いんだけどね。知っての通り、魔法はそこまで万能じゃない。
私もそこそこに切り上げようと手を止め、おばさま達のところにいるメルを回収する。
「ばいばーい」
「またおいでね」
「お手伝いありがとうね」
無邪気に手を振るメルと、良くしてくれたおばさま達にお礼を言って離れたところで、ヴァンとゼネバも戻って来る。
ナイスタイミングね。ご飯でも食べながら集めてもらった情報の整理でもしましょうか。
敢えて街の外に張った自分達のテントに戻って食事の準備だ。
壊れた門や塀の代わりに見張りをしていた人たちがついでに置いておいた魔車と荷物を見張ってくれていたので、荷物を盗られる心配がないのもありがたい。
夜になる前に薪をくべ、料理の準備を済ませる。
「メル、火を付けて」
「はーい!!」
ポンっと出した火の玉が薪に火を付け、良い感じに燃えたところでグルンと空が回って昼と夜が入れ替わった。
グッドタイミング。焚き火が付いてれば、料理に困る事も無いわ。
「うわっちちちっ!!ちっくしょー。上手くいかねーなぁ」
「ヘタクソね。もっと火力を絞らないと腕ごと焼くわよ」
「わーってるつーの!!」
ヴァンとゼネバには周辺の明かりとして松明を用意してもらってる。ヴァンは上手くやっているけど、ゼネバは雑だからまだヘタクソね。
メルみたいに最適な量の魔力で火を付けるってのが火を操るドラゴンには難しいってのは皮肉なもんね。
「で?何か収穫はあったの?」
「あまり有益と言えるものは。ただ、聞けば聞くほどドラゴンである可能性が100%に近づいて来てると思います」
「デケェ身体に太い尻尾と翼膜の翼。咆哮に炎とまぁファイアドレイクだとしか思えねぇぜ。やっぱスカーか?」
「まだ本人を見てないからわからないわ。ただ、その辺の魔物程度の話ではないのは確実ね」
巨体と言うだけで強く、そして長く生きた魔物だと言うことは簡単に想像がつく。
そんな魔物がこの辺にいたという話は聞いてない。それだけの巨体、街から監視されててもおかしくない。
そうじゃないとすれば、どこからかやって来たという事になる。それがスカーなのかはまだわからない。
私達の思い当たる容疑者というだけだ。
「一つ気になることはあったな」
「気になること?」
「ハイ、ドラゴンのそばに人影を見たという人が何人かいるのです」
人影ねぇ。いきなりきな臭くなって来たじゃない。




