竜を操る者
「何があったの!!」
ヴィーゼの街の入り口にある立派な門は跡形もなく崩れ、黒コゲになっている。
幸い、鎮火は既に済んでいるようだからこれ以上の延焼は無いんでしょうけど、街道が重なる大きな街であるヴィーゼの街だ。
その門を破壊されたとなれば、その被害の大きさは誰だって想像出来る。
「ア、アカリさんだ……!!」
「おい!!誰かエースさん呼んで来い!!」
私がヴィーゼの街に着いて、崩れた門の処理をしている人達に声をかけると、作業していた人達がホッとしたような表情をしてから、街を取り仕切るリーダーであるエースさんを呼ぶ。
門の奥に見える街の様子も酷い。倒壊した建物と燃えたのか、黒焦げになっている物も多い。
怪我人も相当な数がいるのだろう。路上では治療を待つ人が寝かされている姿も見えた。
「ちょっと何があったのかだけでも教えてよ。盗賊達どころの騒ぎじゃないでしょこれは」
「えっと、何から話せばいいのか……」
魔車を降り、作業の手を止めている人に詰め寄るけど、その人も正確な状況を把握しきれていないみたいだ。
何もわからないまま、襲われた。そんなところかしら。
「アカリ殿、詳しくは私が」
他に事情を知ってそうな人を探そうと思っているとエースさんか姿を見せる。
怪我をしたのか、治療の痕が見える。エースさんの家や職場は街の中でも奥まったところにある。
それを考えると被害は街の中心部にまで至っているみたいね。
「まずは移動しましょう。ここでは撤去作業の邪魔となりますので」
「魔車で行ける?」
「瓦礫がありますので難しいかと……」
場所を移して、腰を据えて話そうってことね。確かにこのままだと瓦礫の撤去作業の邪魔だ。
それはそれとして移動は速い方が良いし、話をしながらでも移動したい。
魔車での移動は可能かと聞くと、街中は瓦礫だらけでダメなようだ。
街中の交通網もほとんど機能してないとなると、本当に大損害を受けたのね。
「場所は?」
「役場にしましょう。騒がしいですが、話をするには1番良いです」
「わかったわ」
「え?」
話を聞く場所を聞いて、エースさんを肩に担ぐ。
魔車はそのまま置いておいて、中にいるリオ、ヴァン、ゼネバに目配せをすると身体を大きくしたリオが2人を背に、メルを口に咥えて、その場から跳び上がった。
「うおおおおっ?!?!」
担がれているエースさんから悲鳴にも似た雄叫びが上がるけどお構いなし。
そのまま無事な建物の屋根に着地すると、役場まで一直線に駆け抜ける。
パルクール、だっけ?街中の障害物の中を駆け抜けて行くあれね。
魔法少女だと当たり前の移動法だけどね。あんまり大人が情けない声を出すんじゃないわよ。
「よっと。着いたわよ」
「……ひ、酷い目にあった」
人聞きの悪いことは言わないでよ。魔車が使えないならこれが1番早いんだから。
ちんたらしてる暇は無いわ。話を聞かないことにはどうにも出来ないんだし。
さっさとエースさんを引っ張って役場の中に入る。
役場の中は避難所も兼ねているようで、不安そうな子供達や老人、母親達が肩を寄せ合っていた。
「アカリ殿、こっちです」
やっと復活したエースさんについて行き、階段を登って1番大きな部屋に入る。
市長室とでもいったところか、エースさんの仕事場に入りソファーに座ると早速話を始める。
「まず、状況は先程見ていただいた通りです。ヴィーゼの街はその機能をほぼ止めざるを得ない状況になっています」
「街の被害は見て分かる。人の被害は?」
「軽傷、重傷問わず、怪我人は数え切れません。行方不明者は50人を超え、死者も現時点でわかってるだけで13人います」
街の被害もそうだけど、人的被害も相当なものだ。死者はこのぶんだと30人を超えると思う。
……真白なら、この人数の8割を減らすでしょうね。それだけ卓越した治療魔法と医療への知識と技術がある。
戦うだけしか出来ない私には、怪我人や死傷者に関してはどうすることも出来ない。
「……何があったか、詳しく教えて」
「はい。昨夜のことになりますーー」
せめて出来るのは、これをした何かを取り除くこと。
そのために、私は敵が何なのかを知る必要がある。エースさんからの話を聞きながら、敵の検討つけていくことにした私は黙って昨晩起こったという出来事について、耳を傾けた。




