朱の日常
「貴様、我をバカだと……!!」
うっかり口を滑らせた。あまりにも下らなさすぎるしレベルが低すぎてつい口に出てしまった。
おかげで火にガソリンをくべてしまったらしい。スカーの怒りは怒髪天を突き破って口から炎が漏れ出している。
「事実じゃない。レベル低すぎ。図体だけは大人のガキの相手をしている暇は無いわ」
「貴様ぁ、消し炭にしてくれる!!」
「やれるもんならやってみたら?その程度の弱火で私に勝てるのなら、ね」
路線変更だ。穏便に済ませようと思っていたけど、手違いでこうなった以上、適度にボコボコにするのが妥当になってしまった。
隣からジトリとした視線が二つほど向けられている。悪かったわよ。諫めた張本人が一番デカい挑発行為をしたのは間違いなく私が悪いわ。
さっさと終わらせて、修行の続きをしないとね。せっかくだから、実戦ってものを間近で感じてもらう機会という事にしよう。それが良いわ。
「リオ、流れ弾の処理を頼むわ。ヴァンとゼネバ、アンタ達はドラゴン達をまとめて、よぉく観察するのよ。実戦での戦い方ってのをね」
「メルは?!」
「貴女はリオの背中でお留守番よ」
「えー」
えー、じゃないわよ。全く、危ないってことをわかってるのかしらね。危機感が無いというか、無鉄砲な節があるからそこは本当に気を付けないと。
何でもかんでケンカを売られてたら、こっちの身が持たないし、何よりメルが危ないからね。
「メル殿、困らせてはいけませんよ」
「そうだぜ。怪我をしたら困るのはお前だぜ」
「はーい」
ヴァンとゼネバに宥められて、ようやく諦めたらしい。良かった良かった。
そう思って、視線を戻したところで炎が視界を覆う。『炎剣 デュランダル』を間髪入れずに抜刀。炎を斬り裂いて視界を確保すると、薙ぎ払われた尻尾が飛んで来たので蹴り飛ばす。
「危ないわね。後ろの子達に何かあったらどうするつもり?」
「知るか。雑魚など我の考慮に入っておらん」
「そ、じゃあアンタに手加減しなくても同じよね?」
自分本位なドラゴンだ。ある意味らしいと言えばらしいが、プライドというよりは驕りだろう。
誇り(プライド)と呼ぶには程度が低すぎるわ。自分だけが良ければそれで良いという考えは好きではないというのもあるし、稚拙ね。
そういうのは身を滅ぼすって事を教えてあげるわ。学ぶのは今からだって遅くないのよ?ま、それを受け入れられるかは本人の器量次第だけど。
飛び上がろうとしたスカーに、炎の斬撃を飛ばして出鼻を挫く。別に空中戦でも良いけど、対ドラゴンでは飛ばさせないというのが定石の一つ。
身体の重いドラゴンは飛ぶのに時間が掛かるけど、飛び始めたら厄介だ。地上で仕留めるのが一番確実なのよね。
「――ふっ!!」
「ぬぅん!!」
二度三度と斬撃を飛ばし、牽制したところで懐に潜り込む。近接戦闘に持ち込むのもドラゴンと戦う上で定石だ。
身体の大きなドラゴンは、機敏さには欠ける。身体の小さな方が多少は有効な手段と言えるだろう。
ただし、強靭で凶悪な爪と牙、そして尾の攻撃能力はその辺の魔獣より遥かに上だし、頑強な外殻は半端な攻撃じゃかすり傷にもならない。
あくまで、ドラゴンの猛攻を掻い潜りながら、外殻を無視できるほどの攻撃が出来る事が前提条件だ。
ドラゴンの攻撃と防御、そのどちらも対処できるだけの実力者だけがドラゴンを倒す可能性を持てる。
だからドラゴンは強いのだ。そんな実力者、その辺に簡単にいる訳も無いんだから。
切り込む私に爪で応戦するスカー。ガチガチと音を立てて鍔競り合いになると苛立つスカーの表情がよく分かった。
「弱っちぃわね。大口叩いてる割にこの程度?」
「なんだと……!!」
「雑魚だって言ってんのよ!!」
『炎剣 デュランダル』の刃を爆発させ、爪を強制的に引き剥がす。斬ろうと思えば斬れるけど、別に傷を付けたいわけじゃないし徹底的実力差を分からせるだけで十分だ。
体勢を立て直すスカーを剣を担いで余裕の表情をわざと見せる。アンタ程度ならこれだけ余裕を見せていても勝てるんだぞ、というアピールだ。
「こちとら魔法少女きってのドラゴンスレイヤーでもあるのよ?半端にやってると死ぬわよ」
「貴様ぁ!!」
この程度なら多少本気を出されても問題ないだろう。思ったよりも大したことなかったわね。
所詮は口と態度だけはデカいチンピラのおっさんか。どの世界にもいるもんなのね。




