朱の日常
「しっかしよぉ、こんなんで本当に強くなれんのか?」
休息は大事だ。身体を作るのも、勉強するのも詰め込み過ぎは身体に毒。
それは魔法の修行でも変わらない。キツい修行をしたら、それに見合った休憩を取り、体調を常に整えているのも重要な訓練の一つでもある。
そんな修行のあいまの休憩中。また性懲りもなく、ゼネバがそんな事を愚痴っていた。
「こんなん、とは何?」
「だってよ〜。地味じゃねぇか。そら朱莉の言ってることが理屈ではわかるぜ?ただ、それを続けても実感が無きゃモチベーションも保たないぜ」
「ふむ、一理あるわね」
確かに修行や訓練、勉強。とにかく継続して努力する、ということはとてつもなく大変だ。
ただ惰性で続けてもあまり意味はないし、明確な目標があれば良いけれど、それだってあまりにも普段の進歩が無ければ、モチベーションの維持というのは難しい。
継続は才能でもあるし、周りの環境でもある。やれ、やれと押し付けてばかりじゃ、やる気も無くなってくるし、自分の成長が見れなきゃ成果を感じられずに辞めたくもなってくる。
私は真白に追い付きたい一心で修行したけど、コイツらはそうじゃないしね。
半分くらいは嫌々やっているのも事実だ。
「そうね、じゃあゼネバ。アンタアソコに火球をぶち込んでみなさい」
「ん?あそこに?ちと遠過ぎねぇか」
私が指差したのは、ここから離れた崖の上にある瓦礫の山だ。
恐らくは崖のさらに上にある岩肌から崩れ落ちて来たものが溜まったんでしょうね。
的にするのには分かりやすくてちょうどいいけど、ここからは少し離れている。
いくらドラゴンのブレスでも射程内に収められるドラゴンは稀だと思うわ。
「放射するブレスじゃないわ。火球を打ち込め、って言ったの。黙って試してみなさい」
「ブレスじゃない?そんなんやったことねぇのによ……」
渋々起き上がって、攻撃態勢に入るゼネバ。1発で上手く行くかはゼネバ次第だけど、多分上手くいくでしょ。
直感タイプの良い才能を持ってる奴だからね。
そう評価して、見守っているなかで放たれた火球は見事に瓦礫に当たり、炸裂した。
「良い威力じゃない。初めてでこれなら上出来だわ」
「すごーい!!」
最初の1発でこれだけの威力なら既に実戦級だ。あとは瞬時に判断して放てるかの戦いの勘と経験の話になる。
手放しで賞賛する私と、無邪気に笑うメルとは裏腹にドラゴン達はポカンとしている。
どうやらできるとは誰もが思っていなかったらしい。
まぁ、ドラゴンの攻撃と言えばブレスだ。しかも放射するタイプの。
特に炎属性のドラゴンの里であるここのドラゴン達はブレスイコール火炎放射みたいな認識もあるんでしょうね。
実際、威力とかを考えるとその方が強いし、使い勝手も良い。何より固定の形を持たず、質量もない炎はとにかく周囲を広範囲に燃やす事に向いている。
これが水とか風のブレスだとまた話が別なんだけれどね。
「なんだコレ?!」
「自分でやっておいてそれはないでしょ。そもそも火球の魔法を維持する訓練をしてたんだから、出来るのは当たり前でしょうが」
ドラゴン達は本能的に自分達の向いているブレスの形を理解しているのだと思う。
炎なら放射、水なら圧縮、風なら拡散って具合にね。
ドラゴン達の属性とやらがどのくらいあるのかは知らないけど、炎は放射という固定観念を取り払うのもこの修行でやりたいことの一つだ。
魔法ってのは不定形なクセに、明確なカタチが出来ると威力が上がる変な特性がある。
ただ適当にやるだけでもある程度になってしまうのが厄介なポイントだ。極める必要性が低くなるからね。
「あんなちっこい火の玉一つ作る練習で、こんなになんのかよ」
「ただ適当にぶっ放すだけなら誰でも出来るのよ。簡単な分、粗雑で威力も散漫する。応用を効かせれば、こういう事も出来るわ」
そう言って、手のひらで炎を圧縮させて、さっきの瓦礫目掛けて放つ。
形としては熱線だ。レーザービームほど細くて速くは無いけれど、炎を圧縮して放っている分火力は数段上がる。
結果は見ての通り。瓦礫は消し炭どころか、残った残骸が赤熱して熔けている。
炎だって応用すれば幅を持つことが出来るのよ。




