朱の日常
偶然立ち寄ったヴィーゼの街。私とメル、ヴァン、ゼネバの四人は着いて早々に街が盗賊団に襲われるという騒動に巻き込まれる。
巻き込まれる、といっても私一人で解決したんだけどね。目立ち過ぎちゃったもんだから、ちょーっと動きにくくなっちゃったけど、まぁ誤差よ誤差。
竜の里ではドラゴン達の指導も継続的に行っている。
特に意欲のあるヴァンとゼネバ。まだ子供のメルを連れて、竜の里とヴィーゼの街を行ったり来たりしているのが最近の私達のルーティーンだ。
旧王都に行くのも良いんだけどね。私がうっかりスマホを壊してしまったせいで、真白の『繋がりの力』での通話も出来ない状態になってしまった。
そうなるとマトモなお金も伝手も無い状態で旧王都に長い間滞在することになりかねない。
聞けば、旧王都は絶賛復興の真っただ中にあって、観光客用の宿泊施設は殆ど機能していない状態。
仮に外から来た人間がどうするかと言えば、高いお金を払って残存する高級ホテルに泊まるか、野宿だ。
さっきも言った通り、私達はこの世界のお金というのを全く持っていなかったし、旧王都にいれば皆と合流出来る可能性は高くなっても、長期滞在やすれ違いになってしまう可能性がある。
そこで、私がとった方法はこのヴィーゼの街とその周辺で大きく名を挙げること。
妖精界でも、領土内が荒れてしまった旧ミルディース王国でも、人の噂や評判というのは回るものだ。
それを商売としている人も当然いるし、大きな事件や出来事はそれこそ勝手に広まる。
尾ヒレがついてしまうことが確実だろうけど、突然現れた超強力な炎魔法を使う謎の人物がいる。
なぁんて噂が流れたら、私の仲間なら一瞬で気が付いてくれるはずよ。
私自身も竜の里でドラゴン達を鍛えなきゃいけないって事情もあるし、いくら竜の翼を使えばヴィーゼの街と竜の里の行き来はすぐに終わるとは言え、それ以上離れるとなると少々面倒だ。
だからここでしっかり名前を売って、ここに来る商人の人達に噂を流してもらう。その噂を流すための業績作りも、ヴィーゼの街を仕切る妖精、エースからの依頼や盗賊団を追いかけまわしてボコボコにすることで可能。
「ヴァン、ビビり過ぎ。ゼネバは集中力が無くなって来てるわよ、シャキッとしなさい」
「か、簡単に言いますけど……!!」
「正直、かっなりキツイんだが?!」
ま、散々御託を並べたけど、運よく都合の良さそうな状況が出来上がったから、皆に見つけてもらうまではヴィーゼの街と竜の里で暇を潰していよう、ってこと。
今は竜の里の外れでヴァンとゼネバ。そしてそれ以外の若い竜達を連れて、森の中に修行に来ていた。
「アンタ達がちょっとでもミスったら、森は大火事になるわよ」
「鬼畜め!!」
「あぁん?」
「すんませんでしたっ!!」
この期に及んで文句を言うバカがいるので睨んで黙らせる。ゼネバって言うんだけどね。
やっている修業は魔法をを操作すること。それも周囲の障害物に当てずに、だ。
これも魔法のコントロールの修行だ。魔法をその場で維持する修行を来たばかりの頃に始めたが、コツを掴んできたドラゴン達の鼻っ柱をへし折るために、少し早めに一つ上の難易度の修行に来た。
コイツらすぐに調子に乗るからね。少し出来るようになったら自分に修行など要らないとか言わせないための措置だ。
当然ながら、激ムズよ。特に強すぎる魔力を持つドラゴンにとって、こういう細かいコントロールってのは至難の業。本来必要もないしね。
ただ、ここまでへたれたドラゴン達を叩き直すにはこのくらいの事をした方が良い。無駄に高かったプライドをベコベコのボコボコにして、一から叩き直すくらいの方が丁度いいのよ。
「ママ~!!出来た!!」
「凄いじゃない。メルは本当に天才かもね」
「やったー!!」
挙句、まだまだ子供メルが自分達の出来ない事をいとも簡単にやってのけているサマを真横で見せ付けられているのだ。
自分よりも弱いはずのメルが出来る事が、自分に出来ないなんてドラゴン達のプライドは許さない。
しかもメルはドラゴンだ。ベースが人間の私だから出来る事だという言い訳も効かないから、ドラゴン達は必死になってやってるってわけ。




