敵
駆けだしながら武器である銃のトリガーを引いて次々と弾丸を浴びせる。ファルベガはそれをスライムみたいな魔法を使って薙ぎ払う。
反撃にそのスライムみたいな魔法を鞭みたいにしならせて私に襲い掛かって来る。
「はぁっ!!」
私は銃口から弾丸を放たずに、レーザーみたいに照射させてスライムみたいな魔法を切る。
切られた魔法は戻ろうとするけど、一瞬の隙間を縫って飛び込んで攻撃を回避。そのままレーザーをファルベガ目掛けて撃ち込んで、もう一度駆け出す。
思い付きでやったけど、良い感じだ。魔法はイメージ。怯んだ方が負ける。
「面白い魔法を使うのね。光属性、かしら?」
「そっちこそ何その魔法。水じゃないよね」
お互い、一癖ある魔法を使う。私は銃から放つ光の弾丸を中心に放つ魔法の形を変える。ファルベガはそれこそ何の魔法なのか、私には分からない。
水の方にも見えるけど、多分そうじゃない。もっと別の魔法だ。まだまだ魔法には詳しくない私には判別がつかないけど、普通の魔法じゃないことをは肌で感じられる。
同時にわかったこともある。二人とも、魔法としては変化球の魔法だ。癖のある魔法、技術っていうのは初見で見破られにくいし、攻略もしづらいと思う。
ただし、逆を言えばそういう戦法を取らないと戦えないってことでもある。正攻法でまともに戦えないから、無理矢理な方法で戦う術を得ている。
そういう戦い方は総じて直接的な攻撃能力は低い。
ちょっと前、テレビのインタビューでその変化球な魔法の使い手筆頭のアリウムフルールさんが言ってたからね。
戦い方としては、私も変化球を使うけど私の方が正攻法だ。攻撃能力には分があると考えられることから察するに、ここは一気に攻め立てる!!
「ふふ、生き勇むのは良いけど、何か忘れてない?」
「ガアアァッ!!」
「っう!!」
勢いよく攻めようとしたところで、さっきまで大人しくしていたはずの魔物が動き出す。
咄嗟に銃口を魔物の方に向けて牽制。怯んだところで距離を取って態勢を立て直す。
「悪いわね。生憎、正々堂々なんて馬鹿正直な真似をするつもりはないの」
「くっ……」
そりゃそうだ。悪い人が正々堂々としてたら悪いことなんてそもそもしない。
正々堂々とせずに、法や道徳から外れたことばかりをするから悪人なんだ。
強制的に2対1の状況はどう考えても不利だし、勝てる見込みは少ない。
せめてこの街の警備隊みたいな人達が来てくれればいいんだけど、街は街で混乱が広がってる。すぐに来るのは難しいだろうな。
「あら、逃げないのね。正義のヒーロー様は」
「……別に正義のヒーローなんかじゃないよ。たまたまいたから戦ってるだけ」
鼻で笑うように小馬鹿にした口調で煽って来るファルベガだけど、残念ながら私は正義の味方でも無償のヒーローでもない。
何もなければ戦わずにいた。
友達が危ない目にあってるかもしれないから、たまたまここに来ただけだ。
そうじゃなかったら普通に避難してたし。
そういえば気が付いたらクスィー君の姿がない。一体何処に行ってしまったのか。
魔物がいたから隠れたのだとしたら、それで良いんだけど。
「グルァッ!!」
「うわっ?!」
「グルルルルっ」
「このっ、どけっ!!」
少しだけ、考えが別の方向に逸れる。それを狙ってすぐに魔物が飛びかかって来て、前足で地面に押さえつけられる。
噛みつこうとして来たところを思いっきり銃で撃ちまくって、顔に光の弾丸を当てると流石にこれは効いたらしい。
悲鳴をあげながら後退りをしたので、押さえつけていた前脚を蹴り上げて体勢を崩して顎に向けてアッパー。
ひっくり返って柔らかいお腹に照準を向けたところで、ファルベガにこれを妨害される。
「戦闘中によそ見なんて余裕ね」
「君みたいに暴れるだけの単純な頭じゃなくてさ。考えることが多いんだよ」
嫌味を言われたので嫌味で返す。あんまりしたことないことだけど、ファルベガに対してはやたらとスラスラ出て来る。
それだけ毛嫌いしてるってことかな。少なくとも、仲良くなれそうにはないよ。
「粋がるのだけは立派ね」
「卑怯者よりはマシ」
ああ言えばこう言う。言葉の応酬もそこそこに戦いは続く。なんとか活路を見出さないと、せめて2対1の状況だけは変えたい。
そう思いながら、銃を構えた。




