親父
「大丈夫?!」
「大将……!!」
死を覚悟したその瞬間。颯爽と現れたのはスバルだ。特徴的なスーツと顔を覆うマスク越しに見える表情は純粋に俺を心配していた。
一体どうやって、俺が巻き込まれてることを知ったのか。いや、違ぇな。大将のことだ、事件が起きてると知って飛んで来たに違いねぇ。
そこに偶然俺がいたってのが正しいだろう。
「グルルル……っ!!」
「あんなんじゃ全然効いてないか。立てる?」
「あぁ……」
「悪いけど離れて。まだ戦うの上手じゃないから、さ!!」
光の弾丸を撃ち込まれても親父はピンピンしてる。それを見て、スバルはすぐに戦闘態勢に入る。
俺に短く逃げるように言うと、俺から気を逸らすために光の弾丸を撃ち続けながら走り始めた。
情けねぇ。歳下だろう女の子に助けられるなんてな。戦う力を持ってるスバルと俺とじゃこんなにも差があるのか。
「こいつ、硬い!!」
「グルルル……。ガァッ!!」
「おっと!!」
だが、スバルでも一筋縄ではいかなさそうだ。光の弾丸は親父の背負う甲羅みてぇな堅い外殻に阻まれていてほとんどダメージが入ってるように思えない。
パワーがあれば無理矢理にでもブチ抜けるのかもしれねぇが、スバルはそういうタイプじゃないみてぇだな。
それでも、上手いもんだぜ。喧嘩もしたことなさそうな顔をしておきながらよく相手の動きを見極めている。
喧嘩殺法の経験則で言えば、荒事で勝つのに必要なのはとにかく一撃を貰わないこと。
殴り殴られなんてのをやってる奴より、避けて防いで確実に1発かますヤツの方が当たり前に強い。
特にタイマンなら尚更だ。最初に一撃入れた方が圧倒的に有利になる。
そういう意味では、防御力のある親父と回避の上手いスバルではイイ感じの拮抗具合ってとこだ。
まだまだ戦うのがヘタクソだと本人は言うが、二度目でそれだけ動けてるなら才能あると思うぜ。
戦う才能なんて、人によっちゃいらねぇもんだけどな。
「何もして来なかった俺に出来るのなんて、こんなもんか」
それでもスバルはそれで活路を拓ける。それだけの力と才能とガッツがある。
今までの人生を無為に生きて来た俺と言えば、命張って逃げ回るのが精一杯。
偉そうに息巻いていたが、ここらが限界。最初から分かってた事だ。
最後の最後はもっと出来る誰かに託すしかない。街を暴れ回ることしかして来なかった俺にはそれ以上の事は出来ねぇ。
「グルァッ!!」
「うぐっ!?」
何とかその場から離れて、物陰からスバルと親父のことを覗き見しながら1人で情けなくいじけていると、鈍い音とスバルの苦しむような声が聞こえて来る。
見れば、スバルが親父に吹き飛ばされて地面に転がっているところだった。
少し目を離した隙に何があったのか理解が及ばない中、視線を向け続けていると笑い声と共にあの女が姿を見せる。
「何だか思ったより進みが悪いと思ったら、お邪魔虫がいたなんてね」
「お邪魔虫って、君、誰なのさ。初対面で失礼じゃない?」
親父にビーストメモリーを使った張本人。ファルベガだ。
魔法の足場で宙を悠々自適に歩きながら、カッコつけて姿を見せて来た奴にスバルも警戒心を剥き出しにする。
「邪魔は邪魔よ。でもそうね、自己紹介くらいしておきましょう。私はファルベガ。貴女の名前を伺っても?」
「……ルミナスメモリー」
お互い名乗り、視線を交わす。何も見えないがその視線が交差するところではバチバチと火花が鳴っているのがわかるぜ。
敵意剥き出し。隠すことなくスバルがそれを出すのも珍しいと短い付き合いで思う。
「そう。じゃあルミナスと呼ばせてもらうわ。それで、ルミナス、貴女はどうして私の邪魔をするのかしら?」
「逆に聞きたいね。ファルベガは何でこんなことをするの?誰かを傷付けて楽しい?私には理解出来ないよ。誰かを助けるんじゃなくて、誰かを傷付けることを率先してやるなんて」
「さぁね。別にサディストではないもの。でも、私は目的のためなら誰が傷付こうが構わない。無償で誰かを助けてくれる、ヒーローなんて都合の良い存在はいないのよ」
少しの沈黙が訪れる。互いの主張は笑っちまうくらいに噛み合ってない。
その沈黙は理解しようとする努力か、突っぱねて自分を守るための時間か。
「そっか、じゃあ」
「ええ、だから」
「「私達は敵だ」」
銃口と魔法を突きつけ合って始まった戦いは俺がやってたのがままごとだと思い知らされるくらい苛烈だった。




