友達
「遅いなぁ……」
トゥランの街の中央部にある噴水のある広場でリベルタさんのことを待っていた私だけど、すっかり待ちぼうけとなっていた。
時間はとっくの昔に夕飯時。当たり前に昼から夜に空は変わってしまっている。
義理堅いリベルタさんのことだから、約束を破るとは思えないし、逃げ出すなんてそれこそ無い。
あの人はそういう人じゃないし、たぶん約束を破る人が大嫌いなタイプだ。
そういうことを考えるとリベルタさんの用事とやらに何か問題が起きていて、そのせいで遅れてしまっていると考えるのが自然かな。
「とはいえ、流石に暇だなぁ。ピリアもいないし、チナちゃんは遊び疲れて寝ちゃったし」
さっきまで一緒に遊んでいたピリアとスクィー君とは別れてしまったし、唯一の話し相手のチナちゃんは私の服のポケットの中で寝てしまっている。
収まりが良いのか、安心しているのか一向に起きる気配はない。起こすつもりもないけどさ。
「あと1時間待って来なかったら、ホテルに駆け込もうかな」
チェックイン自体は夜でも出来るらしいし、ピリアは手頃で良いホテルまで教えてくれた。
ツンデレだよねぇ、ホント。根はお節介焼きなのにさ、なぁんであんなに人と距離取るんだろ。
本当は人が大好きな性格のはずだ。素直ではないけど、自分から自分のアイデンティティを潰すほどの何かがあるのか。
考えれば考えるほど、疑念は尽きない。スクィー君がいるから、何とかなるとは思うけどね。
まだ来ないリベルタさんも心配だし。どうしたものかな。
「ねぇねぇ、商業ビルの近くにおっきな魔物出たんだってさ」
噴水の縁に座って待っている私の近くを二人組の妖精の女の子達が通り過ぎる。
お喋りな子と強気そうな子だ。そんな二人のお喋りの内容が偶然耳に入って来て、暇な私はなんとなーく聞き耳を立てる。
聞くに、トゥランの街中に魔物が出たという話だった。こんな大都会のど真ん中に魔物?と私も首をひねる。
東京のど真ん中にライオンが現れたくらいの突拍子もない話だと思う。仮に事実だとしたらとんでもない大事件だ。
「えー、魔物?トゥランに?まーた、偽情報?」
「違うってば。今回こそ知りたてほやほやだって。さっき、血相を変えて逃げて来る人が何ん人も――」
「ギャオオオオオオォォォッ!!」
「「きゃあああああっ?!」」
勝気そうな女の子が噂話を受け流そうとしてるのをお喋り好きな女の子は楽しそうにしながらその話題を続けようとした時、本当に魔物の咆哮が街中から聞こえて来た。
驚いて一目散に逃げだす女の子達。ついでにポケットの中で寝ていたチナちゃんも飛び起きて、私の肩まで駆け上って来て、心配そうに鼻をすんすんさせている。
他の人達もなんだなんだと辺りを見回して、何が起こったのかを必死に把握しようとしている。もちろん私もだ。
「に、逃げろォッ!!でっかい魔物が出たぞ!!」
そんな中で息も絶え絶えに走って来た男性が大声で私達に警告をする。やっぱり、本当に大きな魔物が出たんだ。
こんな大都会でだ。これは大事件だ。
「今すぐ近くの建物の中に避難してください!!」
「慌てないで!!この辺りにはまだ来ていません!!確実に、怪我の無いようにお願いします!!」
にわかに慌ただしくなる私達に遅れてやって来た警備の人達だと思う。制服に身を包んだ人達が人員の誘導を始めた。
私も邪魔にならないように避難をしないと。そう思って誘導の指示に従おうとしたところで足元から小さな影が私に飛び付いて来た。
「ちゅちゅ!!」
「スクィー君?!どうしたの?ピリアは?」
「ちゅう!!ちゅう!!」
「ちちちっ?!ちっ!」
必死に何かを訴えようとしているスクィー君だけど、生憎君の言葉はわからない。チナちゃんが代わりに聞いてくれて、驚いたような反応をすると、二人揃って街中の方を指差す。
そう、別れたピリアが忠告してくれた方向、そしてピリアがその足で向かった方向から魔物の咆哮が今も聞こえてきている。
「ピリア!!」
「あ、ちょっと君?!」
人の流れに逆らって、私は街中へと駆け出す。友達が大変な目に遭っているかもしれない。それだけを考えて、何かあったらそれだけで嫌だと思って。
「力を貸して!!リュミー!!」
【思い出チェンジャー!!『光』!!】
親友に呼びかけ、思い出チェンジャーにメモリーを挿し込む。戦う力ならここにある。スクィー君が来たって事はピリアに何かがあったって事なんだから。
友達は守る。今度こそ、必ず!!
【希望の光で未来を照らせぇっ!!】
「『思い出チェンジ』!!」
変身をした私は地面を蹴ってひとっ跳び。大きな魔物が暴れているという現場に急いだ。




