親父
「時間はあまり無い。今日の夜になった瞬間が決行の合図だ。ギリギリまで君を待って良かった」
「さんきゅー、ギルのオッサン」
親父も止める、暗殺も止める。軋轢と憎しみで生まれるロクでもない連鎖はここで止めるべきだ。そんなことをしたら、それこそトゥランは滅茶苦茶になる。
俺達の故郷がそんなことで失われて良いわけがねぇ。原因の一つに俺達が関わっているのならなおさらだ。
「どうすりゃいい?
「ここにいるのは私の部下で、暗殺に反対している者達だ。私達で暗殺の実行犯を阻止する。リベルタ君は親父さんを足止めして欲しい。君は役場に向かうんだ。足は用意してある」
ギルのおっさんが指差すところにはおっさんの部下が押して持って来たらしい一人乗り用の小型魔車。しかも俺が使っていた物が用意されていた。
根城にしてた倉庫が更地にされて、まさか残っているとは思っていなかった愛車に思わず声が漏れる。
「壊される前にギリギリね。名目は証拠品だけど、所有者は君だから返すよ」
「良いのかよ。改造しまくりだぜ?」
「今のトゥランに法は無いよ。人に迷惑をかけすぎなきゃいいんじゃないかな」
すぐに跨って発進用の魔法を起動させる。調子は良好、快調に飛ばせるだろうぜ。メンテもしてくれたのか?ありがてぇ話だぜ。
アクセルを全開にして、その場から一気に加速する。時間的にそろそろ夜になる急がねぇとな!!
爆音を鳴らして大通りに飛び出すと、そのまま容赦なく駆け抜ける。暴走族で磨いた操縦テクは伊達じゃねぇぜ。
行き交う魔車と魔車の間をハイスピードで潜り抜けて、目的の役場まで最速で向かう。
「止まりなさい!!」
「わりぃな!!こちとら親父に用事があるんだ!!」
役場について愛車でそのまま入口まで突っ込む。こういうこったろギルのオッサン。暗殺出来ないくらい現場を引っ掻き回せば、アンタ達もやりやすくなるはずだ。
警備を振り切り、小型魔車に乗ったまま建物の中を進んで行く。階段だろうがなんだろうがお構いなしだ。どんな手段をとっても、止めなきゃならねぇ。
「オラァッ!!」
「――ッ?!」
最後に親父が仕事をしている部屋のドアを突き破って、行軍はお終いだ。ここからは話し合おうや、クソ親父。
「……何をしに来た」
「もろもろやんなきゃなんねぇ事をさ。クソ親父」
ドアをぶち破って現れた俺に、最初は驚いたような顔をするがすぐに憎しみが籠ったような視線をぶつけて来る。
相変わらず息子に向ける目じゃねぇだろうがよ。散々やってるのは分かるが、お前にも原因の一端は間違いなくあるんだぜ。
「息子?お前のようなゴミが?」
「いい加減自分の不出来を認めろよクソ親父。どんだけ理由を並べても、テメェの息子は俺だ」
「私が不出来?面白いことを言う。ゴミの詰まった頭では私とお前の差も理解出来んか?」
「大差変わらねぇだろうが、嫌われ者同士がよ。蛙の子は蛙なんだよ。テメェも、俺も立場が違うだけのはみ出しもんだ」
俺も親父も、嫌われ者の憎まれ者だ。差なんて精々、社会的地位の差くらいじゃねぇか?
どっちにしたってロクでもねぇのは変わらねぇんだ。
自分のプライドを傷つけられるのをとにかく嫌う親父はそれだけで鬼のような形相になる。
キレるの早すぎだろ。沸点の低さどうなってんだよ。
鼻で笑うと更に怒りのボルテージが上がったらしい。バキリと握っていたペンをへし折るとそれを俺に投げつけて来る。
「誰に向かって口を聞いている!!私はトゥランの長だぞ!!」
「ただの街のトップ程度でふんぞり返ってるのが器の小ささが見え見えなんだよ。テメェは王様にでもなったつもりか」
「王不在のこの場所で、トップに立ってる私が王同然だ!!私が旧ミルディース王国の経済を立て直したようなものなのだからな!!」
「あぁ、そうかい」
権力と金に溺れるってのは、こんなにも醜いもんなのか。親父を止めるとは思っていたが、辟易として来るぜ。
暗殺も止める、親父も止める。それは変わらないがアンタが今の立場から転落していくのを止めようとは思わない。
それは俺の役割ではないだろが、もうアンタは上に立つ器じゃねぇよ。




