獣を語るモノども
「まったく、どうでもいい仕事ばかりを増やしてくれる」
どしゃりと肩に担いだ2人の少女。エナとジィオを地面に無造作に放り投げると4本尾の分身体であるカトルは呆れたように溜め息を吐いた。
彼にとって、いやショルシエや帝国側全体からしてもエナとジィオの戦略は杜撰そのものだった。
まるで児戯だとカトルは嘲笑いながら、近くにある倒れた樹木に腰掛けた。
「同じ分身体とも思いたくない体たらくだ。足止めの一つすら出来ないなんてね」
カトル自身、クルボレレと相打つ程度には強い。少なくとも3年前、人間界で暴れ回った分身体。
三本尾のトゥリアよりは高い戦闘能力を保有している。
彼としては自分の実力云々に文句を言われる前に、事前に伝えられていた情報より、魔法少女達が遥かに強くなっていることこそに文句を言いたかった。
自分を役立たず呼ばわりしたベンデですら、魔法少女1人に完全に足止めされた。
相性もあるだろうが、複数人の魔法少女を相手にすれば、自分達はまず敵わない。
だと言うのに、のこのこと魔法少女とレジスタンスの前に姿を見せたエナとジィオに対して、カトルは軽蔑と嘲笑を向けていた。
所詮は大した尾も与えられなかった絞りカスのような存在だ。戦闘能力も知性も低くて当然。
負けるのも道理だろう。
とは言え、バカでも頭数にはなる。いなくなられるのは問題だろうとカトルは仕方なく彼女達を回収していた。
あの弾丸の中を潜り抜けるのはカトルからしても相当なリスクがある。
が、彼の得意な魔法により、他の者達よりはそういった場面は有利に動ける。
それがエナとジィオをあの場から回収出来た真相だった。
「それは貴方も同じなんじゃない?カトル」
「余計なお世話だよファルベガ。尾持ちですらない君が僕に意見するつもりかい?」
森の中で横たわるエナとジィオ、そしてカトルのところに更に現れたのはファルベガ。
真白達が妖精界に来てすぐの頃、トピ族を操り、周辺の村や町を襲わせていた自称『妖精界のお姫様』を一瞥したカトルはふんっと鼻を鳴らして文句を言う。
「獣のクセに良く喋るわね。ご主人様に言い付けるわよ?」
「……ちっ。治療してやれ」
「そのために呼ばれたんだから分かってるわ」
口喧嘩に負けたカトルが舌打ちをしてからアゴをしゃくって地面に転がる2人を指すと、ファルベガは満足そうに笑いながらエナとジィオの治療を始める。
その手際は真白ほどでは無いが慣れた手付きだ。治癒魔法で手早く治療していく様子は彼女が日頃から治癒魔法を使い、またその才能を持っていることを感じさせる。
「それで?あんなあっさりと渡しても良かったの?世界の穴ってやつ」
「どうしようもないさ。ベンデのバカもあの場所の重要性をまるで理解していない。尾を多く持つと油断ばっかり出て来てしょうがない」
バカばかりだと笑い飛ばすカトルとそれを見てふーんと相槌を打つファルベガ。
ピーキーな性格の2人だが、案外気が合うようで2人がそれぞれ他の誰かと接する時のような苛烈さは見えない。
むしろ冷静に状況を見極めようとしている辺りはカトルは他の分身体とは少し違う性格を見せていた。
「それ、ご主人様のこともバカにしてない?」
「はっ、ゲームと称して自分が不利になるような状況を作るような変態と同じにしないでくれよ。君もそうだろ?『ご主人様』だなんてカケラも思ってないクセに」
「さぁ、どうでしょう?」
腹を探り合う2人。だが、それは2人にとってはじゃれ合いのようなもので特別重要ではない。
「まぁ良いさ。ぼくの邪魔さえしなければね」
「そのまま返すわ。私の邪魔だけはしないでちょうだい」
ただし、やはりショルシエの分身と手を結んだ者。一筋縄ではいかず、それでいて利己的な判断基準を持ち合わせているようだ。
あくまで陣営が同じで味方ではない。邪魔をすれば容赦はしない。
そういうスタンスを崩さないのはとことんらしさがある。
魔女の陣営も一枚岩では決してない。それがどのような結末を生み出すのか。
恐らく『災厄の魔女』はそれすらも楽しんでいるのだろう。




