世界の穴
人間界全体と協力するなんてことは出来なくても、レジスタンスと魔法少女協会がより綿密に同盟関係になれば旧ミルディース王国領内の状況は改善に向かうだろうし、帝国との力関係でも進展があるだろう。
むやみに人間界の技術を持ち込むつもりは毛頭ないけれど、ショルシエに対してそんな悠長なことも言ってられないのも事実。
増援、物資、戦略の幅。あらゆる分野で人間界の技術というのは非常に強力な武器になる。かつて魔獣が人間界で猛威を振るい、人間を絶滅に追いやった時のように、ね。
「このっ!!」
素早い動きと魔力の爪を使った高速格闘戦を戦いの主体とするジィオ。弱くは無い。むしろ非常に強力で、油断をすれば負けるのだけれど、油断をする理由もなければ、彼女と私の相性はすこぶる悪い。
それもジィオが不利で私が有利という形でだ。高速格闘戦を得意とするジィオは近づければ勝ちだけど、近づけなければ何も出来ない。
クルボレレ程の圧倒的な速度があれば、私もギリギリの戦いにならざるを得ないし、むしろ不利にまでなるけれど、ジィオの速度はそれほどではない。
クルボレレに比べて攻撃性能に振ってる分、速力は落ちているようだ。
その辺り、分身体としての性能がモノを言うのかもね。尾の数という指標がある意味私達を戦わせやすく、判断させやすくしていた。
「エナも出させたら?まだ2人の方が勝機があると思うけど?」
「誰が格下に頼るもんですか!!」
トゥランの街でエナと戦い、ジィオとベンデと初めて会った時はエナとジィオに実力の差はそれほど無いと言っていたと思うけどね。
尾の数というのは彼女達にとって絶対的な指標であり、尾の数が少ない者に負けるなんて屈辱以外の何物でもない、ということか。
ショルシエの分身らしい考えだ。徹底した個人主義、実力主義は競争させるのには良いかもだけど、組織やグループとしては欠陥じゃないかしら。
まぁ、そんなことを言ったところで彼女達は変わらないし変われないだろう、と思いつつ障壁を操ってジィオの動きを阻害しまくる。
直接叩くのは後だ。せめてもう一人、エナが出て来てから実行に移したい。
私達が実行したい作戦は、何も世界の穴まで一点突破して最短距離を作るわけではない。それは副産物であり、それ以上の狙いがある。
ポイントは私の魔法具『イキシア』の能力だ。『イキシア』はどんなに離れていても、電波が無くても私からの通信は必ず繋がるというもの。
絶対に繋がるスマートフォン。それが『イキシア』という魔法具の能力。以前は世界の穴が閉ざされていたためにその能力を全て発揮することが出来ず、パッシオには一方的な連絡しか出来なかったけど、世界の穴が開いた今なら妖精界にいながら人間界の人達と連絡を取る事が出来る。
あの穴の向こうがわ、人間界側では用意可能な最大火力が配置されている。ジィオ一人ではなく、分身体二人くらいは仕留めたい。
一人では割に合わない。エナがいるだろうことはジィオの言葉から分かっている。さぁ、出て来なさい。
「いつまでだらだら戦ってるのよ。たった一人に!!」
「うっさいわね!!雑魚は出てくんな!!邪魔だ!!」
来た。時間をかけていれば我慢できずにのこのこ出て来ると思っていたわ。プライドの高い貴女達だもの、身内が手こずってるのを見せ付けられたら我慢できないでしょう!!
「退避―ッ!!」
イキシアで合図を送り、魔物達を掃討していた面々に大声で退避行動を取るように大声で伝える。
何かと驚くエナとジィオ。障壁を張り、その場に身を屈めた私のところに次々と飛んで来たのは対魔獣用の砲弾だった。
合図に少し遅れて放たれただろう対魔獣用の砲弾の数々が一斉に辺りを襲う。狙いなんてついていない。この攻撃をしているのはあくまで人間界側にいる艦艇などであるハズで、私達が見えているハズも無い。
合図があったら集中砲火。伝えてあるのはそれだけだ。だが、対魔力、対魔獣用に開発された砲弾はショルシエの分身達にも効果的なはず。
凄まじい砲撃とそれが着弾、爆発する音が鳴りやむまで、私達はジッと待ち続けるのだった。




