世界の穴
良い時間になるまで話し合ったウチらは翌日、朝になる少し前から行動を始める。
妖精界は昼夜の切り替えがハッキリしてるからこの辺やりづらさがあるな。朝になったらいきなり明るくなるし、夜になると急に暗くなる。時間を把握しておくことが妖精界では人間界では思っている以上に重要だ。
「さてと、改めてだがアイツらなんだと思う?」
「分類的には魔物、だと思います。妖精や魔族ではありません」
暗闇の中、昨晩世界の穴近辺から一時撤退する時に付けていた目印を頼りに進んだウチらは夜明けと共に世界の穴近辺の茂みの中から状況を再確認していた。
やっぱり、いるのはデッカい身体を持つ魔物達だ。
望遠鏡の役割を担う魔法陣を使い、拡大した風景には13年前の大爆発でペンペン草も生えなくなったって言われてるところを我が物顔で闊歩する魔物。
昨日見た時は遠巻き過ぎて、詳しい見た目とか大きさがわからなかったが、こうして確認すると魔物は一種どころじゃねぇな。
むしろ同じ種類が1匹もいねぇ。みんながみんな全く別の見た目をしている。
群れる生き物ってのは基本同種でしか集まらねぇだろ?
少なくとも人間界ではそうだ。野生化で競合する別種の生き物と一緒に群れるのはあんまり聞いたことがねぇ。
だって、ライオンとハイエナは一緒に群れねぇだろ?
象とシマウマも同じ場所に偶然いることはあるかも知れねぇが、一緒にいるってのは聞いたことがない。
だから、ここを住処や縄張りにしてるのなら同じ種類の生き物じゃねぇとおかしい。
それは多分妖精界でも変わらねぇ。
「ですが、あのような生き物は初めて見ます。知識には自信があるのですが、まるでちぐはくで……」
「どんなとこがだ?」
「例えばこの魔物です。身体は肉食の魔物の特徴があるのですが、足先は草食性の魔物の特徴です。こちらの魔物は水棲の特徴を持っていますが、この付近に水辺はありません。生息域から外れているはずです」
例としてサフィーは2体の魔物を見せる。
一体は肉食獣じみた風貌をした魔物、もう一体は敢えて近い生き物を上げるならカバか?
どちらも2m規模の体長を持つ大型の魔物だ。その2体とも、普通ではない部分があると言い、その部分を拡大する。
確かに特に肉食獣じみた見た目の魔物の脚の先は何でか蹄みたいになっている。
肉食なら狩りをするために鋭い爪になってるはずだ。速く走るためだけの蹄は不相応だ。
魔物は魔獣と似ていて、魔法は使えねぇしな。
魔法を使う種もいないわけじゃねぇらしいが、そういう種は限定的って話だし、そういう点はやっぱ似てる。
カバみてぇな方はウチにはわかる部分は少ねえが、確かに陸上だけで過ごすにはちと重過ぎな肉のつき方だ。
肉食の魔物から守るための脂肪にしても有りすぎだろ。陸上ってよりは水中に棲んでるってのはわかる気がする。
「他の魔物達もそうです。身体が継ぎ接ぎされているようにも感じますし、不自然に思います。それにこれだけの種がいるのに縄張り争いのようなこともせずに穴の周辺にとどまっていますし……」
「餌があるようには見えねぇしな。魔物は食事するんだろ?」
「食事が不要なのは妖精だけですね。魔族と魔物も魔力を栄養の一つとしますが、最低限の食事は必要です」
見れば見るほど臭いぜ。間違いなくショルシエが何かやったんだろうな。
不自然な場所に不自然な数の魔物。
まるで見回りをするみてぇにのそのそと歩き回っているだけだ。
それに継ぎ接ぎの魔物ってのは心当たりもあるしな。
3年前の戦い。『ノーブル』の本拠地乗り込むウチらに最初に襲い掛かって来たのは、人間と魔獣を混ぜ合わせた趣味の悪い合成魔獣、人造魔獣達だった。
生き物を弄くり回す技術をショルシエは人間界にいた3年前から持っている。
ってのを考えるとあの魔物達はショルシエが作った合成魔物ってところか。
「とりあえず数を数えて個体ごとに写真撮るか。気長にやっぞ」
「写真、ですか?」
「あー、そういや見せた事が無かったか。これ、スマホ。ウチらの世界で1番使われてる機械だよ」
そんな目をキラキラさせて見んなよ。後で触らせてやっから。
電波ねーから殆どただの板だけどな。
ったく、サフィーもそういうところは案外子供だな。




