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第79話 魔術師のプロポーズ

 宮廷魔術師ではなく自由魔術師として、王都に舞い戻ったユール。

 しかし、すぐにさまざまな地域に旅立つわけにはいかない。

 クーデターの影響で宮廷魔術師という制度も混乱しているので、それを落ち着かせてから旅立たねばならない。

 取り急ぎ必要なのは、ユールとモルテラの穴を埋める魔術師の採用である。


 今や王国所属の魔術師としては実質トップといえる位置になったので、ユールも後任の採用はきちんとやり遂げたいという思いがあった。


 宮廷魔術師の採用には実技試験や面接試験が行われる。


 城内の応接室にて、ユールは先輩である宮廷魔術師と共に、魔法使いたちに面接をする。

 さっそく質問を開始する。


「宮廷魔術師を志した理由を教えて下さい」


 ユールより年下であろう青年魔法使いが答える。


「私は……ユールさんに憧れてまして!」


「え、僕に!?」


「はいっ! だから私もユールさんに近づきたくて……」


「いやぁ、どうも……」


 下を向いてはにかむユールを、先輩が肘でつつく。


「照れてどうする」


 ユールの眼鏡にかなう魔法使いが数多く応募してきたので、選考には苦労したが、ユールとモルテラが抜けたことでレベルが大きく下がってしまうということはなさそうだ。


 ユールが宮廷魔術師を代表して、国王リチャードに上奏する。


「新しく宮廷魔術師になるメンバーを選出し終えました」


「うむ、ご苦労だった」


 リチャードは書面を受け取り、満足そうにうなずく。


「それでは準備の後、私は王国の各地に旅立とうと思います」


「王国の問題点などはどんどん挙げて欲しい。頼んだぞ」


「はいっ!」


 ユールは魔術師として、王都でやるべき仕事をやり終えた。



***



 その夜、ユールはエミリーと共に王都を散歩していた。

 わずかな外灯と星明かりが、二人をうっすらと照らし出す。


「今日は星が綺麗だね」


「ホント。空気が澄んでるのかも」


 しばらく二人で夜道を歩く。


「お父さんはどうしてる?」


「騎士団長に復職して、バリバリやってるわ。ユールに触発されたのか、前以上に張り切ってるみたい。少しは年も考えて欲しいわ」


「アハハ、お父さんはまだまだ強くなるだろうね。城内の戦いでも恐ろしく強い傭兵を倒したって聞いたし」


「ホントよね。我が父ながらとんでもない人だわ」


 50近い年齢でなお成長するガイエンに、呆れるエミリーと笑うユール。


「頑張ってよ、ユール。あなたはそんなお父様を超えなきゃならないんだから」


「うん、頑張るよ」


 エミリーの目から見ても、もはやユールの顔にガイエンに対する気後れのようなものは感じなかった。ユールとて、モルテラという強敵を打ち倒しているのだ。

 やがて、ユールが立ち止まった。


「エミリーさん」


「ん?」


「君が僕についてきてくれるって言ってくれた時、嬉しかった」


「ありがとう」


「だからこれからも、ずっとずっとついてきて欲しい。僕と一緒にいて欲しい」


「……!」


 今しかない――

 ユールは深呼吸をして、告げる。


「大変な人生になると思う。苦労させてしまうと思う。だけど、必ず幸せにします。僕と……結婚して下さい!」


 エミリーはにっこりと笑う。


「喜んで。どんな人生になろうと、ついていくわ。エミリーさんはしつこいからね。覚悟しといて!」


「うん……覚悟しておく!」


 若き魔術師と若き薬師は、ここに結ばれることができた。

 さっそくエミリーは頭を切り替える。


「さて、結婚するとして今は国も混乱してるし急いで式を挙げる必要はないよね。ユールのご両親にもいずれ挨拶に行くとして……。真っ先にやっておくことがあるわね」


「うん……あるね」


 真っ先にやっておくべきこと、それは――


「お父さんへの挨拶!」

「お父様への挨拶!」

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