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第75話 因縁の魔法対決

 ユールは右手から炎を放とうとする。


「無駄だ!」


 モルテラが反射魔法でそれを跳ね返そうとするが――


「そこっ!」


 ユールはすかさず左手から雷を放ち、モルテラに直撃させる。


「ぐっ! 炎は囮か……。器用な真似をする……」


 しかし、決定打には至らない。モルテラも高い魔法耐性を持っている。


「やるな……ユール」


 モルテラが舌打ちする。


「モルテラさんこそ、この魔力の練られ具合、瞑想を欠かしていないようですね」


「当然だ。瞑想を怠る魔法使いは大成できん」


 ユールは基礎を重んじているモルテラに、敵とはいえ嬉しさを感じてしまう。


「今だから言うが、お前をフラットの町なんて中途半端な田舎町に追放した理由を教えてやろう」


「……!」


 ユールも耳を傾ける。


「私はお前を買っていた。お前のようなタイプは下手に逆境に送り込んでしまうとかえって伸びると踏んでいた。だからフラットの町ならばお前の才能を腐らせることができると思ったんだが……」


 ユールには『魔法相談役』という何をしていいのかも分からない役職と、毎月の収入が与えられた。

 こんな環境に置かれては、日々の修行も忘れ、ぬるま湯にすっかり浸かってしまうことも十分あり得た。

 しかし、ユールは自分には何をできるか考え、フラットの町の住民と交流をし、時には戦いもして、自己を研鑽していった。

 もちろんこれはユールだけの力ではなく、彼を支えたエミリーやガイエン、みんなの力があったからである。ユールもそのことはよく分かっている。

 ユールは腐るどころか、モルテラにとっては最悪のタイミングで、より大きくなって帰ってきてしまった。


「やはりあの時、多少強引に事を動かしてでも、お前のことは処刑に持っていくべきだったよ」


 ユールを消しておくべきだったと反省しつつ、モルテラが戦いを再開する。

 再び、二人が魔法をぶつけ合う。


火炎柱ブレイズピラー!」


 ユールが強烈な火炎を繰り出せば、


水要塞ウォーターフォートレス!」


 モルテラは水の巨大な障壁を生み出し、ガードする。


大地の手(アースハンド)!」


 モルテラの呪文で床が盛り上がり、手となって襲い掛かる。


風刃ウインドカッター!」


 ユールはその手を風で切り裂く。


 魔法の応酬が続き、お互い呼吸が荒くなる。

 息を弾ませながら、ユールはモルテラに尋ねる。


「モルテラさん……あなたほどの魔法使いがなぜ、クーデターなんてことを……」


「ついでだ、教えてやろう」


 自分とここまでやり合えるユールに褒美を与えたい気持ちになったのか、モルテラが語り始める。


「ユール、お前は田舎の村出身だったな。私も似たようなものでな。田舎の町で、貧しいが幸せな生活ってやつをしていたよ」


 モルテラは続ける。


「ある時、町に王都からの役人が来ることになった。町の番兵だった父は護衛もかねて、途中まで迎えに行くことになった。だが、その際に役人を狙った賊が襲撃して、役人は助かったが、父はその戦いに巻き込まれて死んだよ」


 ユールは黙って聞いている。


「町に来た王都の役人は、父の死を全く悼まなかった。それどころか散々に横柄に振舞い、王都に帰っていったよ。私は子供心に『ああ、これが王都と地方の“格差”か』と思ったものさ」


 ユールは思い出す。フラットの町にやってきた役人の横柄な振る舞いや、王都出身の領主オズウェルの暴政を。


「だが、さすがに遺族年金は手に入ってな。おかげで私は魔法学校に通うことができ、魔法を学び、宮廷魔術師になることができたよ。だが、そこで出会ったのがこのバカだった」


 モルテラは倒れているマリシャスを見やる。


「こんな何も持たないバカが、王子というだけでちやほやされ、いい気になっている。私の中で、幼い頃に抱いた気持ちがみるみる再燃していった。と同時に思いついたんだ。こいつを利用すれば、私が国を支配することも可能ではないかと」


 そしてモルテラは邪魔なユールを排除し、マリシャスに取り入り、戦力を集め、クーデターに打って出た。


「どうだ、ユール。お前だって初めて王都に出てきた時は、自分の故郷と王都との格差を感じただろう? フラットの町も王都から軽視されていたはずだ」


 ユールとしては図星だった。

 王都に来た当初は、地方出身ということでバカにされたこともあった。宮廷魔術師になってからもそうだ。

 だからこそ、貴族でありながら自分と対等に接してくれるエミリーという女性がありがたかった。ガイエンも「恥じる必要はない」と教えてくれた。


「どうだ、ユール……私とこの国を変えよう。私もこの通り血を流すような革命は望んでいないし、二人でこの国をよりよいものにするんだ。リティシアを、誰もが住みやすい格差のない最高の国にするんだ」


 ユールは黙っている。

 ティカも心配そうに「兄ちゃん……」とつぶやく。希少種族である彼も、モルテラの考えを否定できない部分もあった。


「その手には乗りません」


 ユールはきっぱりと言った。


「そうやっておだてるような美辞麗句を並べて、マリシャス様にも取り入ったんでしょうが、そうはいきません。あなたは格差をなくしたいんじゃなく、自分が上に立ちたいだけに過ぎない。禁術などを学び、散々利用したマリシャス様を“バカ”と切って捨てたところからもそれがうかがえる」


 モルテラの表情が変わる。


「確かに僕も王国の在り方には思うところがあります。だけど、それでも、皆が平和に暮らし、ガイエンさんが守ってきたこの王国に混乱をもたらすことは許せない! 僕があなたと手を組むことはあり得ない!」


 ユールにはっきりと断られ、モルテラの表情がますます歪む。


「ユール……だったらもういい。お前はここで死ね! 大爆発キングエクスプロード!」


 ユールの近くで凝縮された魔力が爆発を起こす。


「ぐっ……!」


 マリシャスの時のように無効化することもできず、かろうじてかわしたユールだったが――


火炎砲フレイムキャノン!」


 強烈な業火がユールを襲う。シールドを張り、威力を軽減する。


 モルテラに生半可な魔法は通用しない。

 何か――彼を驚かせる一手が欲しい。

 ユールはぼそりとつぶやいた。


「魔法を……貸してもらうよ」


 そして――


氷炎乱舞ブルレドダンス!」


 イグニスとネージュが生み出した合体魔法。冷気と熱気が螺旋状に飛んでいく。

 初めて見る魔法に、モルテラは一瞬目を丸くする。


「なんだこれは!?」


 だが――


「こけ脅しがッ!」


 さすがのモルテラも魔力を放出し、すぐさま相殺する。

 だが、その隙にユールは間合いを狭めていた。


「!?」


 まず、右手で炎を出し、モルテラの目をくらます。

 そして、本命の練り上げた雷魔法を叩き込む。

 ガイエンとの決闘でも使った戦術は――


「ぐをわあああああっ!?」


 見事にモルテラに炸裂した。

 合体魔法に驚き、精神が乱れていたこともあり、まともに直撃している。


「ぐ、ぐぐ……!」


「今のは……効いたはず!」


「おのれえ……ユール……!」


 モルテラにはまだ何か手があるようだ。ユールは警戒を解かない。

 だが、予想外のところから攻撃が来た。背中を斬られたのだ。


「うぐ……!?」


 ユールが後ろを向くと、そこには甲冑があった。剣を握り締め、中身はないのに動いている。


「こ、これは……!?」


「私は部屋の中の甲冑にも、念のため命を吹き込んでいたんだよ……」


 無生物に命を吹き込む禁術。今まで木の人形兵士ばかり相手にしていたので、甲冑が動くことは想定していなかった。


「ユール兄ちゃん!」ティカが叫ぶ。


「純粋な魔法勝負はお前の勝ちだった……だが、やはり最後に勝つのは私だ!」


 モルテラが高らかに宣言した。

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