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第71話 救出部隊と囮部隊、二つの戦い

 城内に入ったユールたちは、地下牢に向かっていた。

 重要人物を閉じ込めている可能性があるのは、やはり地下牢である可能性が高い。


 途中、幾人かの見張りと出くわすが、ユールとガイエンの敵ではなかった。


雷撃サンダークラッシュ!」


「うぎゃああっ!?」

「ぐえっ!?」

「うごあっ!」


 ユールの電撃魔法で、敵を失神させる。


「しばらくの間眠っていてもらうぞ」


 ガイエンも剣の刃の中心部分、フラーによる打撃で、敵を失神させていく。


「ぐはっ!」

「ぎゃっ!」

「ぐええっ……!」


 二人の強さにティカは戦慄する。


「いやー、すごいね。二人とも……オイラも多少は戦うことになると思ってたけど、出番全然ないや」


 ユールがティカに振り返って微笑む。


「二人だったら、真正面から攻め込んでてももしかしたらクーデターした連中に勝てたんじゃない?」


 ティカの言葉に、二人は――


「かもね」


「かもしれんな」


 この返事に、ティカは「この二人こそ王国最強のコンビだ」としみじみ思うのだった。


「おっと話してる暇はないぞ。地下牢に急ぐのだ!」


「はい!」


 いくらかの妨害を突破し、地下牢に到着する。


 そこには国王派の兵士や、反抗したであろう使用人たち、さらには宮廷魔術師も捕えられていた。


「皆さん、助けに来ました!」ユールが呼びかける。


「憔悴しきっておるな……」ガイエンは顔を曇らせる。


「すぐ出してあげるからね!」


 ティカが牢屋の鍵を開ける。


 解放はしたものの、彼らはろくに食事も与えられておらず、戦力になりそうにない。

 そして、目当ての国王リチャードと第一王子リオンはいなかった。彼らを救出しなければ意味がないのだ。


 ユールは、比較的体力の残っていた一人の宮廷魔術師に尋ねる。


「ユール、か……久しぶりだな」


「クーデターはやはりモルテラさんが?」


「ああ、その通りだ……。奴はこの一年で恐ろしいほど力を伸ばしていた……」


「……!」


「それにモルテラの他に気をつけねばならないのがもう一人いる」


「誰です?」


「ジャウォックという傭兵だ。マリシャスの護衛として雇われていたのだが、この男が恐ろしい強さだ。並みの兵士ではとても太刀打ちできない……」


「ジャウォック……」


「レスターも言っていた男だな。そいつが敵の最大戦力と見てよいな」とガイエン。


「そうですね」


 宮廷魔術師は国王らの居場所にも心当たりがあった。


「おそらく、城内の第一応接室に捕われているはず……控えの間もあり、そこは貴人を幽閉するのに持ってこいだからな」


「ありがとうございます」


 城内で最も上等な応接室に、国王たちやモルテラがいる可能性が高いと分かった。

 そして、ユールは――


「お父さん。お父さんはゲンマさんたちを助けに行ってくれませんか?」


 二手に分かれることを提案した。

 これは作戦にはないことだが、ユールは理由を話す。


「何か……胸騒ぎがするんです。お願いします!」


「分かった。お前の直感を信じよう」


 しかし、これはユールが国王救出を、実質一人で請け負うことを意味する。手強い敵がいた場合、ティカは戦力になれないだろう。


「よいのだな?」


「任せて下さい」


 ユールの力強い言葉に、ガイエンはうなずく。


「分かった、陛下たちのことはお前に託す。その代わり、ゲンマたちのことは任せよ」


「はいっ!」


 ここでユールはティカとともに、ガイエンと別れる。

 主戦力である二人が分散することは賭けだったが、これが最善だという気がしたのだ。


「行こう、ティカ君! 第一応接室だ! 僕が案内する!」


「オッケー!」



***



 一方、囮部隊も城内のエントランスで死闘になっていた。

 ついに敵の主力である傭兵部隊と出くわしたのだ。

 ゲンマも焦りの色を浮かべる。


「くそ~、強そうな連中が出てきたぜ」


「だが、こいつらを引きつければ、ユール殿らは楽になる」


「そうだな! 行くぞ、野郎ども!」


 ゲンマが傭兵の一人に斬りかかる。

 ――が、受け止められる。


「なに!?」


「俺らを腰抜け兵士と一緒にすんなよ!?」


 反撃で腕を斬られる。


「ぐおおっ……!」


 さらに、ニックも傷を負う。


「い、いでえっ!」


「ニック、大丈夫か!?」


「大丈夫っす……エミリーさんの薬塗れば……」


 傭兵団は明らかに戦い慣れしており、マリシャス派の兵士とは一味も二味も違った。


 イグニスとネージュが前に出る。


氷炎吹雪ファイブリザード!」


 兄妹の合体魔法をお見舞いする。炎と氷のつぶてが、敵を打ちのめす。


「ぐおおっ!」

「なんだこりゃ!?」

「くそっ!」


 ユールも認めた魔法だけあって、通用している。

 しかし、これだけで優位に立てるということはない。敵も怯まない。傭兵たちとて、魔法使い相手の戦いは数多くこなしてきたのだろう。


 リンネも幻術で援護しようとするが、戦いが激しく、とても幻術を出せる状況ではない。

 彼女がおろおろしていると、傭兵の一人が斬りかかってくる。


「術者っぽいな、先に潰しておくかァ!」


「きゃあっ!」


水流砲ウォーターキャノン!」


 水の塊が傭兵を飲み込む。


「うごあああっ!?」


「あ、ありがとう!」とリンネ。


「あんたみたいな子供を守るのが、あたしみたいな女の役目さ! 水障壁ウォーターバリア!」


 ブレンダが水のバリアを張り、皆に呼びかける。


「傷ついたらこっちに避難しな!」


 今や水魔法の達人といっていいブレンダは、サポート役に回る。


 そして、スイナは傭兵団相手にも互角以上に立ち回っていた。


「お前たちよりも……ガイエン殿の方が強い!」


 舞うような動きで攻撃をすり抜け、傭兵たちに斬り込んでいく。


「なんだ、あの女!?」

「つええぞ!」

「油断すんなァ!」


 スイナの奮闘を見て、ここぞとばかりにゲンマが味方を鼓舞する。


「いいかァ、絶対死ぬんじゃねえぞ! みっともなくても生き延びて粘れば、絶対ユールとおっさんがクーデターの親玉連中潰してくれるからよォ!」


 これで皆に力が入る。


 スイナの剣技、ゲンマの鼓舞、イグニス兄妹の合体魔法、ブレンダのサポート。

 苦しいが、強豪揃いの傭兵団とどうにか戦いらしい戦いになっている。


 だが、エントランスの階段から、足音が降りてきた。

 同時に、低い声が投げかけられる。


「騎士団でもない連中に何を手こずっている」


「ジャウォックさん、すんません!」


 傭兵団の長ジャウォックが現れた。

 銀髪で褐色の肌、黒い鎧を身につけ、およそ人間離れしたギラギラした眼光を宿す。

 スイナとゲンマは一瞬でその力量を見切る。


「なんだ、あいつは……!」驚愕するスイナ。


「やべえのが出て来ちまったな……」


 ゲンマの目には、ジャウォックがまるで死神のように見えた。

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