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第70話 作戦開始!

 城へ攻め入るメンバー分けは決まった。

 正門から攻め入り、城内の戦力をなるべく引きつける役割の囮部隊はゲンマ、ニックと昔からの仲間たち。スイナ、イグニス、ネージュ、ブレンダ、リンネ。

 そして、城内へ本格的に突入し、国王ら救出とマリシャス、モルテラ打倒を担う別動隊はユール、ガイエン、ティカ。

 彼らが使命を成し遂げれば、騎士団や王国軍もまともに動けるようになり、もはやクーデター一派に勝ち目はなくなる。

 しかし、失敗すればマリシャスが王になってしまい、その後マリシャスを倒したとしても、リティシアに明るい未来は待っていない。

 そして、その作戦の第一歩が今まさに踏み出されようとしていた。


 囮部隊であるゲンマたちが緊張の面持ちで、城の正門を見る。

 当然ながら兵士たちが固めている。現在はマリシャス派の兵がその任についている。

 彼らに戦いを挑み、城内の兵力を少しでも引きつけるのが囮部隊の任務。ガイエンが言ったように危険な役目である。


 緊張してきたゲンマは――


「こういう時こそ、エミリーからもらった丸薬の出番だ!」


 皆で丸薬を飲み込む。甘い味が体に染み渡り、リラックスすることができた。


「さすがエミリーさんの薬っすね!」


「ああ、ちょっと落ち着けたぜ」


 するとリンネが言う。


「ボクが行くよ」


「お前が?」


「うん、ボクが門の人たちを驚かせてみせる」


「大丈夫っすか?」


「任せて。ボクは幻術士だよ?」


 自信満々でリンネが歩いていく。

 門の兵士がすかさず、「止まれ!」と怒鳴る。

 リンネは彼らに音楽の指揮をするように手を動かす。

 すると――


「な、なんだ? モンスターか? モンスターが城に迫ってやがる!」

「本当だ!」


 その声で兵士たちがどんどん出てくる。

 リンネは後続の兵士にも幻術をかける。「モンスターを目撃する兵士」が増えていく。

 こうなると、幻術にかかっている兵士がかかっていない兵士も呼び出し、ますます兵士が外に出てくる。


「おい、援軍を呼べ!」

「この大事な時に……! 城に近づけるな!」

「どうなってんだ!?」


 結果、大勢の兵士がどこにもいないモンスターの軍勢に挑みに行くことになり、正門はがら空きとなった。


 リンネが得意げな顔でゲンマたちに呼びかける。


「さ、入って暴れよう」


 これには皆が驚愕した。一戦も交えることなく、作戦の第一段階成功である。


「今更気づいたけど……幻術ってずるいな」とゲンマ。


「マジでそう思うっす……」ニックも同意した。


 正門から城に入ったゲンマたち。

 ゲンマが号令する。


「なるべく大勢を引き付けて、ユールたちを楽にすんぞぉ!」


 彼らが暴れれば暴れるほど、別動隊であるユールたちが楽になる。


 マリシャス派の兵士たちが出てくる。ここからは幻術にも頼れない。実戦である。


「うおりゃあああっ!」


「覚悟するっすううう!」


 ゲンマとニックは剣を握り、勇ましく兵士達と攻防を演じる。


「悪しき王子に与する者たちよ……私が成敗してやる!」


 ガイエンを除けば剣術の実力ナンバーワンといっていいスイナはさすがである。舞うような動きで、兵士たちを戦闘不能にしていく。

 仮にも王国軍である彼らの不甲斐なさに、スイナは呆れた表情をする。


「ふん、明らかに鍛錬不足だ」


 彼らの奮戦を見て――


「俺たちもやるぞ、ネージュ!」


「ええ、兄さん!」


 得意の炎魔法と氷魔法で、兵士たちを倒していく。


 中には弓で矢を放つ兵士もいたが、その矢は水の障壁で阻まれる。

 ブレンダだ。


「この子たちを傷つけさせやしないよ」


 リンネの幻術はここでも猛威を振るう。

 ある兵士が“綺麗なお姉さんの幻を見せる”という幻術にかかり、哀れな姿となっている。


「すごい美人だ~!」


 柱を抱きしめる兵士を見て、リンネはため息をつく。


「ユールだったらこんなことにはならないだろうね」


 不意を突いたため今のところ優勢だが、いつまでも同じ場所で暴れていると危険が増す。


「場所変えるぞ! いいか、絶対無理すんな! 俺らの役目は兵士たちをブッ倒すことじゃねえんだからな!」


 ゲンマの号令で、彼らはすみやかに場所を移動する。その動きは統制が取れており、機敏であった。



***



 城の裏口方面には、ユール、ガイエン、ティカがいた。


「始まったみたいですね……」


「うむ、かなり激しい戦闘になっておるようだ」


「……」


「ゲンマたちを案ずるのも分かる。しかし今は気持ちを切り替えねばならんぞ」


「ええ、分かってます」


 ティカが裏口の扉の鍵に針金を入れる。


「じゃ……開けるよ」


 王城の扉だけあって、なかなか開錠に手こずっている。

 その間見張りの兵士が来たが、全てユールとガイエンの手で倒されている。


「よし、開いた! ごめん、手こずっちゃって!」


「いや、魔法で壊したら間違いなく大騒ぎになるからね。よくやってくれたよ」


「うむ、さすがエルフ族の異端児!」


「褒められてるのかな、それ」


 ティカは苦笑しつつ扉を開ける。


 ここからはスピード勝負。素早く国王救出とマリシャスたちの打倒を成し遂げなければ、囮部隊の生還が難しくなる。


「ゆくぞ、ユール!」


「はい!」



***



 王城の一室。

 クーデターの首謀者である第二王子マリシャス、宮廷魔術師モルテラ、そして傭兵団の長ジャウォックがいた。

 マリシャスは腹を立てている。


「おい、どうなってんだ!? 父上はようやく俺に王位をくれるって話になり始めてたのに、何者かが攻め込んできたって言うじゃねえか!」


「王国軍と騎士団ではないようです。彼らが動きを見せれば、私にはすぐ分かりますから」


 モルテラは冷静に返答する。


「ってことは、どこぞの馬の骨がいきなり城に攻め込んできたってことか!?」


「そういうことになりますね」


「くそっ、どこのどいつなんだ……! 俺の王への道を邪魔しやがって……!」


 モルテラがなだめる。


「落ち着いて下さい、マリシャス殿下。まだ城内には大勢の兵がおりますし、少数の賊など敵ではありません。それにマリシャス殿下も今や超一流の魔法の使い手、敵を相手に腕を振るうのも面白いのではありませんか?」


「……それもそうだな!」


 単純なマリシャスはすぐ上機嫌になる。


「ジャウォックも出撃させましょう。そうすれば賊などすぐ片付くでしょう」


「そうだな! こいつが出れば、敵が騎士団でもない限り勝てる! そしたら父上に王位を渡させて、うっとうしかった兄上を処刑して、俺が国王になるんだ!」


 有頂天になっているマリシャスを放置して、モルテラはジャウォックに命じる。


「ジャウォック、賊を討伐してきてくれ」


「分かった……」


 低い声で答えるジャウォック。

 

 城内に混乱が発生しているとはいえ、まだクーデターを起こした彼らの方が優勢である。

 モルテラは考える。この状況で自分の脅威となりえる者はだれか。

 そして、ふとかつて追放した魔法使いを思い出す。


「ユール……」


 しかし、その考えをすぐに打ち消す。


「まさか、な」


 城内の戦いはまだ始まったばかりである。

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