第69話 作戦会議
レスターから話を聞き、クーデター側の戦力も分かってきた。
現在城を占拠しているのは、マリシャス派の兵士、彼が引き込んだ傭兵団、そしてモルテラが作り出した人形兵士。
このうち、マリシャス派の兵士はそこまで恐れる存在ではない。元々素行が悪かった兵士たちを、マリシャスが「俺が王になったら近衛兵にしてやる」などの甘言で引き込んだのだろう。
人形兵士も、役割は監視がメインであり、さほど強いものではないようだ。
となると、敵戦力で最も警戒すべきは傭兵団ということになる。
レスターは傭兵たちをこう評価する。
「大陸中の戦地を渡り歩いてきた者たちのようで、かなりの手練れです。彼らの主力は傭兵たちと言ってもいいでしょう。特に彼らを率いる傭兵団のリーダーは、恐ろしい使い手のようで……」
「それほどなのか?」とガイエン。
「はい、騎士級……あるいはガイエン団長とも張り合えるレベルかと」
一同に緊張が走る。
敵にガイエンに近いレベルの使い手がいることは確かなようだ。
レスターは続ける。
「それと首謀者のマリシャス殿下ですが、彼も侮れない存在になっています。モルテラ殿から魔法教育を受けて、かなり高位の魔法を扱えるようになっており、マリシャス殿下に倒された近衛兵も多いようで」
単なるバカ王子と思われたマリシャスが、いきなり威力の高い魔法を放ってきたら、大抵の人間は油断していて倒されてしまうだろう。
「マリシャス様……」
かつてマリシャスを教育していたユールとしては複雑な心境である。
ガイエンが議論をまとめる。
「敵戦力は分かった。あとは吾輩たちがどう城に攻め込むか、だな」
ユールたちの人数は40人程度、今のままでは数の上では全く勝負にならない。
「城内の敵をどうにかして外に出して、少数で一気に国王陛下を救出し、モルテラさんたちを倒すしかありませんね」
「その通りだ。電撃的な作戦が必要になる」
ユールの提案にガイエンも同意する。
城内の戦力を外に出すのは、囮の部隊が必要になるが――
「だったらそこは俺らがやるぜ!」
ゲンマが名乗りを上げた。
「俺らが正面の門で騒いで暴れりゃ、敵は『なんだこいつら』って感じで出てくるだろ! その隙にユールやガイエンのおっさんがどっかから入って、一気に片をつけてくれよ!」
「そうっす! 俺らじゃ城入っても迷っちゃうし!」
息巻くゲンマたちに、ガイエンは念押しする。
「大勢の敵を相手することになる、最も危険な役目だぞ。死ぬ可能性もある。本当によいのか?」
「俺らみてえな奴らはそう簡単に死にはしねえって! なぁ、みんな!」
ゲンマの仲間たちが声を上げる。
もはやいっぱしの戦士団のような風格だ。
「フラットの町の自警団の最初の仕事が、国のピンチを救うことだなんてやりがいがありすぎるぜ!」
「ならば私もゲンマ殿につこう」
スイナも名乗り出る。
「俺らもそうするよ」
イグニスとネージュもゲンマたちにつくことになった。
「じゃ、あたしも」
ブレンダもゲンマにつくという。今や彼女の水魔法は十分頼りになる。
「ボクも!」とリンネ。
「おいおいリンネ、お前は戦えねえだろ」ゲンマは難色を示す。
「いや、囮って役目はまさにボクのための任務といっても過言じゃないよ」
「そうかぁ?」
リンネも囮部隊に加わることになった。
電撃作戦の要となる別動隊は、ユール、ガイエン、ティカの三人となった。
城内に詳しく、単独で高い実力を誇るユールとガイエンは当然として、鍵開けが得意なティカも必須である。
「よろしくお願いします、お父さん」
「お前と肩を並べて戦えることに喜びすら感じるぞ、ユール」
「よろしくね、ティカ君」
「うん、鍵開けは任せといて!」
作戦がまとまると、エミリーがユールに近づく。
「ユール……私は足手まといになっちゃうから、ついていけないけど、気を付けてね」
「ありがとう、エミリーさん」
「あとこれ……」
エミリーから傷薬と心を温かくする丸薬を手渡される。
「みんなにも傷薬と丸薬を渡すから、傷を受けたら使って! 傷口が熱を持ったりするのを防げるから!」
ひとりひとりに薬を手渡すエミリー。
そして、ユールの胸に拳を当てる。
「頑張って! バカ王子をやっつけちゃって!」
「うん!」
二人を見て、リンネも微笑んでいる。
ティカが声をかける。
「あれ、嬉しそう。リンネってユール兄ちゃんが好きなんじゃないの?」
「うん、好きだけど……ボクはエミリーも好き。あの二人が仲良くしてるとボクも嬉しくなるんだ」
「ふうん、リンネっていい奴だな」
「ありがと……。じゃ、耳触ってもいい?」
「なんで!?」
リンネに耳を触られ、たじろぐティカ。
やり取りを眺めていたゲンマとニックが呆れていた。
「何してんだあいつら……」
「年も同じぐらいだし、いい仲になりそうっすねえ……」
いよいよ戦いが始まる。ユールが皆に呼びかける。
「じゃあみんな、行こう! 王国を取り戻すんだ!」
作戦は決まった。
王国を救う、自分を嵌めた者たちに借りを返す、尊敬する人や仲間たちとの共闘。
ユールにとっては、あらゆる意味で重要な戦いの幕開けである。




