第67話 いざ王都へ!
ユールは町を発つ前に町役場を訪ねることにした。
今の自分はフラットの町の魔法相談役であり、王都に向かうのであれば連絡しておくのが筋だと考えた。
ハロルドは快く了承した。
「ご連絡ありがとうございます。王国の危機ですし、私からユールさんに申し上げるべきことはありません。くれぐれもお気をつけて」
「ありがとうございます、ハロルドさん」
ユールが役場から出ると、おなじみの面々が待っていた。
「よう、ユール」
「ゲンマさん!」
「王都に行くんだってな。お前を嵌めた奴が、今度は国を乗っ取ろうとしてるらしいじゃねえか」
ユールはこの時点で、ゲンマが何を言うか予想がついた。
「俺たちも連れてってくれ!」
ゲンマを皮切りに、次々に協力を申し出る。
ニックを始めとしたゲンマ団だった手下たち。スイナ。イグニスとネージュ。ティカ。リンネ。
さらにはブレンダまで――
「ブレンダさん!?」
「あたしも水魔法はだいぶ使えるようになったからね。役に立てると思うよ」
「でも……!」
フラットの町の住民は、王都の危機に立ち向かう義務など全くない。自分から危険に首を突っ込むような形となる。
「俺たちはよ、ユールたちにゃ世話になった。そんなユールを嵌めた奴が調子こいてんだろ? だったら力になりてえんだ」
「そうっす! それにそんな奴がマジで王様になったら俺らもやべえっす!」
ゲンマたちの言うことにも一理ある。もしマリシャスのような者が王になれば、フラットの町も無事では済まないだろう。
「私は元々旅をしていた剣士だ。命は惜しくない」スイナも覚悟を決めている。
「ユールさん、俺らに正しい魔法の使い方を教えてくれたあなたに恩返しさせて下さい!」
「お願い!」
イグニス兄妹も言い張る。
「オイラも絶対役に立てるって! ほら……盗賊だったし!」
「ボクも! ユールたちの役に立ちたい!」
ティカとリンネも本気のようだ。
ユールは返事をしない。やはり彼らを巻き込むことに抵抗がある。
すると、ガイエンが言った。
「よいではないか。連れていっても」
「お父さん!?」
「彼らとて一時の激情で命を張るような馬鹿者たちではないことは知っているだろう。自分の命には自分で責任を持てる人物たちだ。騎士団さえ手を焼くこの件、吾輩としても、彼らの手を借りられるのならば借りたい」
「……」
「しかし、後はお前の心一つ。彼らを巻き込まないつもりなら、堂々と宣言するがよい。吾輩の名にかけて、彼らは置いていく」
ユールは目を閉じ、数瞬の沈黙の後、目を開いた。
「決めました」
皆が黙る。ユールの決定に従うという表情だ。
「みんな、ついて来て欲しい。この件、僕としても予想以上に厄介なクーデターな気がするんだ。きっとみんなの力が必要になると思う」
おおっと声が上がる。
「だけど一つお願いしたい。決して無理はしないで欲しい。どうか死なないで欲しい。それだけは……お願いします」
「難しい注文しやがるぜ!」ゲンマが笑う。
「だけどそれでこそユール君だよ」ブレンダも微笑んだ。
***
王都に向かうのはかなりの大所帯となった。
若手騎士ケネスは大勢が来ることに驚くが、こうも言った。
「これほど戦力になって下さる方がいるというのは、もしかするとありがたいかもしれません。それではさっそく出発いたしましょう」
ある者は馬車で、ある者は騎馬で、ある者は己の足で。
ユールたちは一団となって、フラットの町を発つ。
目指すはクーデター真っ只中にある王都――




