第64話 エミリー&ノナのお薬
自宅にて、エミリーがノナに薬作りを教えている。
すり鉢で懸命に薬草を練り合わせるノナ。
「あとはこの薬草を練り合わせれば完成よ」
「うん!」
ゴリゴリと音が鳴る。
「もっと力を込めて~」
「うん!」
エミリーが指で、薬草の練られ具合を確認する。
「うん、この粘り気よ! バッチリ!」
「できたー!」
ユールとガイエンがやってくる。
「どうしたの、エミリーさん?」
「何ができたのだ?」
エミリーが説明する。
「ノナちゃんがついに自分で傷薬を完成させたのよ」
「ノナちゃんすごい!」
「やるではないか!」
ユールもガイエンも、小さな薬師ノナを褒め称える。
「えへへ……」
ノナも喜んでいる。
「この薬、実際に効果あるわよ。ちょっとした傷や火傷ぐらいなら、だいぶ早く治せるわ」
エミリーの言葉に、ガイエンがユールを見る。
「ならば薬を試さねばなるまい。吾輩がユールを怪我させてやろう」
「ええっ!? ま、待って下さい。お父さん……」
「フッ……冗談だ」
「冗談に聞こえませんでしたよ。今の眼光は……」
恐るべきガイエンジョークであった。
「基本的な薬だけど、この薬が作れるようになれば、だいぶみんなの役に立つことができるわ。もちろん、お母さんの役にもね」
「うん!」
ノナは嬉しそうに笑った。
エミリーの教え子であるノナも、薬師として逞しく成長していたのである。
***
ノナが帰った後、エミリーが薬を作っていた。
「エミリーさんも薬を調合してるの?」
「うん」
「どんな薬?」
「ずばり……性格を変える薬よ」
ユールとガイエンは同時に叫ぶ。
「もういいって!」
「もうよい!」
「アハハ……息ピッタリね」
二人が息ピッタリになるのも当然だった。
ユールもガイエンも、かつてエミリーの薬で酷い目にあっている。ユールは強気になりすぎて暴走し、ガイエンは逆に弱気になりすぎた。
さらには作り手であるエミリーも自分の薬で開放的になりすぎて、服を脱ぎ出すという事態になった。
「でも、今度は本当に大丈夫だから! 三人で飲みましょ!」
エミリーが二人に白い丸薬を手渡す。
「今までの事例からいって、三人とも暴走する気しかせんぞ」
「その時はその時ですよ。みんなで一緒に暴走しましょう」
後ろ向きな覚悟を決め、ユールとガイエンは丸薬を口に含んだ。
それを確認するとエミリーも飲んだ。
「これは……甘いな」と丸薬を口の中で転がすガイエン。
「そうですね、お菓子みたい。美味しいや」
ユールも感想を述べる。
「でしょ~」
エミリーも得意げな表情だ。
ユールが何かを感じる。
「あ、なんだか心が温かくなってきたような……」
「吾輩もだ」
「もしかして……これがこの薬の効果?」
「そうよ」
「いい薬ではないか。どんな成分を入れたのだ?」
「ほとんど植物由来の糖分よ。あとほんの少し、心を高揚させる成分を配合しただけ。ユールが言った“お菓子”ってのがほぼ正しいわね」
「え、そうなの!?」
「ふうむ、これがほとんど菓子とは驚きだ。効果を実感できる」
エミリーがしみじみ語る。
「私もノナちゃんに薬の知識を教えながら気づいたのよ。薬は本来“飲んだ人の自己治癒力をサポートする”ぐらいのものだってこと。弱気な人を強気にしたり、強気な人を弱気にしたり、そういうことをしようとすること自体が薬の用途から逸脱してたわ」
反省するエミリー。
「ある日、ノナちゃんがこんなことを言ったの。『食べておいしい薬があったら元気になりそう』ってね。そこでこんな薬を作ってみたのよ」
甘くて、ほんの少しだけ心を元気にする作用の入った薬。
「エミリーさんもノナちゃんから色んなことを教わってきたんだね」
「成長したな、エミリー!」
二人に褒められ、エミリーも「まあね~」と照れる。
三度も失敗したエミリーの「性格改善薬」であったが、どうやらようやく真の完成となったようだ。




