第62話 フラットの町・年末パーティー
年末パーティー当日。
会場となるホテルのホールには大勢の町民が集まっていた。
テーブルには数多くの料理が並べられ、バイキング形式で好きな料理を楽しめる。
まずは町長のムッシュが挨拶をする。
「皆さん、ようこそ来てくれました。今日はユール君の提案で、このようなパーティーを開くことができました。まずは彼に盛大な拍手を!」
拍手をされ、照れるユール。
ゲンマとニックが「いよっ!」「ユール最高!」などと囃し立てる。
「ではここから先はしばしみんなで楽しんで下され」
しばらくは食事と雑談タイムが続く。
ユールはエミリーを始め、知り合いたちと談笑する。
やがて、役人のハロルドが司会となり、場を取り仕切る。
「それでは皆さん、せっかくのパーティー、出し物を披露してくれる方々がおりますので、順番に披露してもらいましょう! どうぞ!」
まずはイグニスとネージュの魔法使い兄妹。
ユールの元で修行し、腕を上げた二人がどんな演目を披露するのか。
「ユールさん、俺らの魔法で被害が出ないよう、念のため気を配ってもらえますか?」
ユールはうなずく。
以前のイグニスなら、自分の魔法に絶対の自信を持っていたので、こんな言葉は出なかっただろう。
氷魔法が得意なネージュが、氷の結晶を散らばらせる。
さらにそこへイグニスが炎魔法で、極小の炎を結晶にくっつける。
キラキラと輝く幻想的な光景が出来上がった。
「おお……!」
「綺麗……!」
「素敵!」
師であるユールも思わず見とれてしまうほどの出来だった。
演目が終わり、ユールは師匠としてコメントを求められる。
「二人とも魔力がよく練り上げられていて、安定していましたし、炎魔法と氷魔法の美しさを存分に発揮した出し物だったと思います。僕も万が一のためにすぐにシールドを張れるよう準備していましたが、安心して見ることができました。今後の二人のさらなる研鑽に期待します」
「ユールらしいコメントだわ」とエミリーは微笑む。
「真面目かよ!」ゲンマも突っ込んだ。
続いてエルフの少年ティカ。
「みんな、この町に来た時は泥棒してごめん! だけどオイラを受け入れてくれてありがとう! だから一生懸命やります!」
身体能力を生かし、跳び上がって空中で何回転もするなどの技を繰り出す。
技を成功させるたび、歓声が上がる。
「ユール、あれできる?」エミリーが聞く。
「僕にできると思う?」ユールが返す。
さらには玉乗りをしながらのジャグリングまで披露する。
「やるじゃねえかよー!」
「見直したっすー!」
ゲンマたちが場を盛り上げる。
ラストは玉の上でバク転という大技を披露し、フィニッシュ。
拍手喝采を浴びた。
「へへ、みんなありがとう」
ティカも満足そうな表情を浮かべた。
三番手は幻術士リンネ。
「みんなに幻術をかけるよ。ボクの両手をじっと見て……」
会場にいた全員に幻術がかかる。
「あっ、綺麗な雪景色!」
「ホントだわ!」
「すごい……!」
リンネは幻ではあるが、地平線の彼方まで広がるような、美しい銀世界を披露した。
皆がしばし恍惚とした表情になる。
「はぁ、はぁ、はぁ……こんなところかな」
さすがにかなりの魔力を消耗したようだ。
リンネもまた拍手喝采を浴びた。
「リンネちゃん、楽しませてもらったよ。腕を上げたね」
「ありがとう、ユール!」
リンネはとびきりの笑顔を見せた。
いよいよガイエンの出番である。
甲冑姿のガイエンが、ゲンマ、ニック、スイナ、他の大勢の弟子たちとともに前に出る。
「これより剣舞を披露いたす! ゆくぞぉ!」
ガイエンがきびきびとした動きで、剣を振り、勇猛な舞いを披露する。
剣の腕はガイエンに次ぐスイナも、さすがのキレである。
ゲンマたちはぎこちない部分こそあるが、乱れぬ動きで、ガイエンの剣舞についていっている。
「おお~……!」
「さすが騎士団長様!」
「ゲンマたちも成長したな」
町民からも称賛の声が上がる。
ガイエンがすごいというのはもちろんだが、かつてゲンマたちは“ゲンマ団”を名乗り、町民にとっては悩みの種ともいえるチンピラ集団に過ぎなかった。
それが今や、町のために戦い、こうして剣舞を披露できるまでになっている。
皆が感慨深いものを感じていた。
「はっ!」
ガイエンが剣を掲げる。
他の者たちも呼吸を合わせ、同じように剣を掲げる。
拍手と歓声が湧き上がる。
ゲンマたちは息が上がっており、スイナも汗を浮かべている。
しかし、ガイエンは至って平然とした顔をしている。これはスタミナだけでなく、体を効率的に動かす術を身につけていることがあるのだろう。
いよいよ大トリ、ユールである。
ユールはエミリーと共に、ホールの壇上に上がる。
元宮廷魔術師にして現魔法相談役のユールのことだからすごい魔法を見せるのだろう、という期待の眼差しが注がれる。
ユールは前もって町の音楽家に曲を流すよう頼んでおり、楽器で穏やかな曲を流してもらう。
そして、ユールとエミリーは踊り始めた。
二人もそれなりに練習はしたが、ユールは決して上手ではない。
エミリーにエスコートされ、どうにか踊っている。
最初、人々は「魔法を見せてくれると思ったのに」と期待外れともいえる感情を抱いた。
ところが――
「なんか……いいな、この二人」
「とても絵になってる」
「上手ではないけど、味があるっていうか……」
懸命に踊る二人の姿が、人々の心を打ち始める。
皆が二人のダンスに夢中になり始める。
ユールとエミリーのことが好きなリンネも、うっとりしている。
「へぇ~、リンネは二人のことが本当に好きなんだな」
ティカが声をかけると、リンネは「うん」と嬉しそうにうなずいた。
ガイエンは――
「くっ……!」
「おっさん!?」
「ガイエン殿!?」
両目から涙を流していた。驚くゲンマたち。
「エマと初めてダンスホールに行った時のことを思い出す……。吾輩もダンスなんか踊れぬから、ああやってエマにリードしてもらったものだ……」
エミリーとユールの姿が、ガイエンには亡き妻エマと自分の姿に重なったようだ。
司会を務めるハロルドもにっこり笑う。
「ユールさん、実にあなたらしい素晴らしい出し物でしたよ」
……
ダンスを終えた二人に皆が駆け寄る。「よかった」「感動した」と声をかける。
喜ぶエミリーとはにかむユール。
ガイエンが近づいてくる。
「ユールよ……」
「お父さん……」
「見事なダンスだった」
「ありがとうございます!」
「しかし、吾輩たちも見事な剣舞だったと思うので、ここは引き分けということで手を打たんか?」
「もちろんかまいませんけど……」
「別に勝負なんかしてなかったでしょ……」呆れるエミリー。
ユールとガイエンの出し物勝負は引き分けとなった。
年末パーティーは大盛り上がりで幕を閉じ、フラットの町はいつになく明るい雰囲気で年越しを迎えることになるのだった。




