第61話 年末パーティーを開こう
リティシア王国が採用している暦では、冬の最中に年が変わる。
つまり、冬に年末年始を迎える。
年末には各自、家庭でパーティーなどを催すのが恒例行事である。
そして、ユールはあるアイディアを思いつき、町役場にやってきていた。
役人のハロルドを呼び出す。
「すみません、ハロルドさん。お忙しいのに」
「いえいえ。ユールさんにはお世話になっていますからね。ところで私に用とは?」
「フラットの町では、年末に催し物ってやるんですか?」
「いえ、特にそういう予定はありませんが……」
年末にこれといったイベントはないようだ。
「でしたら、せっかくの年末ですし、何かやれないかな、と思いまして……」
「夏にやったフェスタのようなことですか?」
「ええ」
ハロルドがにっこり笑う。
「面白いですね、ぜひやりましょう!」
「え!?」
ユールとしては意外な返答だった。年末の町役場は特に忙しく、あっさり断られることも覚悟していたのだ。
「意外ですか?」
「あ、いえ……」心の中を読まれたようでドキリとするユール。
「実は私も前々から年末にも行事をと思っていたんです。しかし、今まではほら……」
「オズウェルさんですね」
ユールたちに退治された悪徳領主オズウェル。彼のせいで、町の予算はほとんど吸い上げられ、財政は常に厳しい状況にあった。
「しかし、新しい領主様はこの町にもよくしてくれていますし、予算は潤沢にあるんです」
「そうなんですか!」
「だから、ユールさんが声をかけて下さったのは、ちょうどいいきっかけになりそうです」
ハロルドが思いのほか乗り気なので、ユールもホッとする。
「ありがとうございます!」
「屋外では流石に寒いですから、屋内でパーティーでも開きましょう。場所はホテルのホールあたりがよろしいかと。日時は……」
てきぱきと決めていくハロルドを見て、ユールは「この人はやり手だったのにずっと悪徳領主に抑圧されていたんだな」と感じる。
「運営に関しては我々にお任せ下さい」
「お願いします」
「しかし……」
「なんです?」
ハロルドがニヤリと、らしくない笑みを浮かべる。
「言い出しっぺなのですから、“出し物”ぐらいは考えておいて下さいね」
「は、はいっ!」
思わぬ“宿題”をもらってしまうユールであった。
***
年末パーティーの開催は、町中に宣伝された。
場所は中央通りにある、町一番のホテルの大ホール。かつてユールとガイエンが悪徳領主オズウェルを倒すために、乗り込んだ場所でもある。
ハロルドたちの尽力もあり、盛り上がるパーティーになるのは間違いない。
しかし、ユールは自宅で椅子に座って悩んでいた。
「うーん……」
「まだ何やるか決まってないの?」
エミリーが尋ねてくる。
「うん……」
ユールはハロルドの計らいで、大トリで出し物をすることになってしまった。
何をやるか全く決まっていない。
「ユールといったら魔法でしょ? 魔法でもやったら?」
「イグニス君たちも魔法で出し物をするっていうんだよ。被っちゃうし、あの二人のコンビネーションには僕も敵わないかもしれない」
「だったら魔法使いの心得について話すとか」
「楽しいかな、それ?」
「……楽しくはないわね」
エミリーはさらに案を出す。
「じゃあ、瞑想するとか!」
「いいねそれ! さすがエミリーさん! よぉし、僕の瞑想をたっぷり一時間……」
乗り気になるユール。
「冗談よ、冗談! みんなの前で瞑想してもしょうがないでしょ! 迷走になっちゃう!」
「だよね……」
シュンとするユールだった。
「他の人はどんな出し物をするのかしら?」
「お父さんは“剣舞”をやるみたいだよ」
「剣舞?」
「ゲンマさんたちも集めて、みんなで披露するみたい」
「へえ、面白そう。他には?」
「イグニス君はさっき言った通りだし、ティカ君も何かアクロバティックな出し物をするみたい。リンネちゃんも幻術を使って何かやりたいって」
「みんな、色々と芸を持ってるわね」
ユールは再び頭を抱える。
「どうしよう……」
「そんな深刻に悩まなくても。ユールは期待に応えようとしすぎってところがあるよね」
「分かってる。でも……」
エミリーが不意にユールの右手を取った。
「だったらさ、一緒にやらない?」
「へ?」
「ダーンス」
エミリーに引き上げられるような形で、ユールも立ち上がる。
「ちょっとした曲でも流してもらって……ね?」
ウインクするエミリー。
エミリーにこう言ってもらえると、ユールにも勇気が湧いてくる。
「そうだね、エミリーさん! やろう!」
エミリーの手を両手で熱く握り締めるユール。
これにはエミリーも顔を赤くしてしまった。
***
一方、ガイエンは空き地で剣舞の稽古をしていた。
「よし、だいぶ仕上がってきたぞ!」
ゲンマたちは冬にもかかわらず汗だくで、すっかりバテている。
「剣舞ってこんな大変なのかよ……」
「キツイっす~」
「当然だ。剣舞は単なる踊りではない。実戦で使える型や技をふんだんに盛り込み、なおかつそこに他人に見せる“美”を加味したものなのだ。剣舞をマスターすれば、間違いなく剣士としての実力も一段上がる!」
それを聞いて感激するスイナ。
「ということは私の剣の腕も……!」
「間違いなく上がっておる! 胸を張れ、スイナ!」
「はいっ!」
ガイエンたちも異常な盛り上がりを見せていた。
「待っていろユール! 今度の年末パーティー、主役は吾輩たちだ! フハハハハ!」
ガイエンの厳しい稽古は続く。




