第53話 ユール、モテ期!?
本格的に冬がやってこようというある日、エミリーが自宅で歓喜の声を上げた。
「できたーっ!」
「何ができたの……? まさか……」
「また変な薬か!?」
ユールとガイエンは不安そうな顔をしている。
「違うわよ! まあそう思われても無理はないけど……」
「それで、何ができたの?」
「ジャン!」
エミリーは赤いセーターを取り出した。
「毛糸の……セーター!」
「そういえば、時折部屋にこもって何かをしておったな」
エミリーはユールにセーターを手渡す。
「じゃあ、はいこれ! 本格的に寒くなる前に出来上がってよかったわ~」
「ありがとう……!」
ユールも嬉しそうに受け取る。
ガイエンはニコニコ笑顔でそれを見つめる。
「着てみていい?」
「もちろんよ」
ユールがセーターを着る。サイズはピッタリ合った。
「すごい……!」
「よかったぁ~、バッチリね!」
毛糸の感触を確認し、温かそうにするユール。
ガイエンはニコニコ笑顔でそれを見つめる。
「それをローブの下にでも着てれば、寒い冬もバッチリよ!」
「本当にありがとう、エミリーさん!」
見つめ合う二人。
ガイエンはニコニコ笑顔でそれを見つめる。
「さっきから妙にニコニコしてるわね、お父様。なんで?」
「だって……吾輩にもあるんだろ?」
「ないわよ」
「なにぃ!?」
エミリーの返事にガイエンは愕然とする。天国から地獄に突き落とされたような表情をしている。
「なぜだ……なぜ吾輩にはないのだ!?」
「だってさすがに二着作るのは無理だし、お父様は寒さに強そうだし……」
「そんなことはないぞ! 吾輩は寒さが唯一の弱点といっても過言ではなくてな……」
「とにかく、諦めて。お父様にはまた何か作ってあげるから」
「うう……」
恨めし気にユールを睨みつけるガイエン。
「これは……僕がもらったセーターなんで! サイズも合わないですし!」
愛する恋人からもらったセーターである。ユールとしてもここは譲れない。
「それじゃさっそく、これを着て出かけてくるよ!」
「行ってらっしゃ~い!」
エミリーの甘い声を背に、ユールは出かけるのだった。
***
ローブの下にエミリーのセーターを着て、歩くユール。
「うん……全然寒くないや」
満足そうに微笑む。
すると――
「あ……ユール!」
「リンネちゃん」
リンネと出会う。彼女もこの時期は厚着をしている。
「もう町には慣れた?」
「うん。スイナやみんながよくしてくれてるから……」
「そうか、よかった」
「それでね……」
「ん?」
もじもじしているリンネ。
やがて、勇気を振り絞ったように、麻袋を差し出す。
「これ……!」
ユールは受け取り、「開けていいのかな?」と許可を取ると、袋を開ける。
中には白いセーターが入っていた。
「これは……セーター!」
「うん、ボクが編んだんだ。ヘタクソだけど……」
確かにエミリーのセーターに比べると、作りに粗いところがある。
リンネは続ける。
「ボクはユールがエミリーを好きなのも知ってる。エミリーがユールを好きなのも……。ボクはそんな二人を邪魔したくない。だけどボクもユールのこと、好きだから……。もし迷惑だったら捨てていいから……」
複雑な自分の想いを語る。
自分を古代竜から助けてくれたユールが好き。女友達であるエミリーも好き。二人が恋人同士なのも知っている。
だが、ユールにセーターを編まずにはいられなかった。
ユールも彼女の想いを理解し、それを受け取る。
「ありがとう、リンネちゃん。捨てるだなんてとんでもない。喜んで受け取るよ」
「うん!」
リンネはホッとしたのか、嬉しそうに走り去っていった。
しばらく町を歩いた後、自宅近くに戻る。
そこへブレンダから声をかけられる。
「おーい、ユール君!」
「ブレンダさん!」
「もしよかったら、これ受け取ってくれない?」
「これは……セーター?」
なんと三着目のセーターだった。色はブルー。
「王都に比べてこの町は寒いだろうし、ユール君には魔法を教えてもらったり、お世話になってるからね」
「ありがとうございます!」
快く受け取るユール。
「じゃあね。エミリーちゃんとガイエンさんにもよろしく」
ユールは頭を下げ、ブレンダと別れた。
***
家に戻り、ユールはさらにセーターを二着もらったことを報告する。
「モテるわね、ユール。こりゃ私もうかうかしてられないな」
言葉とは裏腹に、恋人が慕われていることにエミリーは嬉しそうだ。
一方ガイエンはというと――
「うぬうう……モテ期か!? お前はモテ期なのか!? ユール!」
「いや、モテ期だなんて……」
「モテ期なのかぁぁぁぁぁ!!!」
「あー、もううるさい!」
エミリーがぴしゃりと叱りつける。
「そういうお父さんもずいぶんモテたんじゃないんですか?」
ユールが尋ねる。
「ああ……モテた! 女子からプレゼントをもらうなどしょっちゅうだった」
へぇ、とうなずくユールとエミリー。
「しかし、全て突っぱねていた。本当は嬉しかったのに……バカなことをしたものだ」
「ホントよ! 妙な意地張らずにもらっておけばよかったのに!」
「うぐぐ……」
エミリーの指摘に、何も言えないガイエン。
ユールはふと「若い頃のお父さんか、見てみたいな」という思いを抱いた。




