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第5話 いざ田舎町へ!

 数日後、ユール、エミリー、ガイエンの三人は馬車でフラットの町に出発した。


 呼び寄せた馬車の席は向かい合うような形式になっていた。

 最初のうち、ユールは一人、ガイエン・エミリー父娘が二人で向き合い座っていたが、


「フラットの町ってどんな町なんだろ。楽しみね」


「ホントだね」


 二人が向かい合ってイチャイチャし始めたので、ガイエンが席替えを要求する。

 続いてユールとエミリーが二人、ガイエンが一人という席になったが、


「きゃっ!」


「おっと、馬車は揺れるからね。気をつけてね」


「ありがとう」


 隣同士でイチャイチャし始めたので、ガイエンが席替えを要求する。

 片側の席にユール、ガイエン、エミリーの三人がまとめて座ることになったが、


「これでは窮屈だ!!!」


 ガイエンが怒鳴る。


「いい加減にしてよ、お父様!!!」


 さすがにエミリーが怒り、結局最初の席順となった。



***



 馬車が川の近くを通りがかる。

 ガイエンの提案で一度休憩を取ることにした。


 リティシアは春を迎えており、風も暖かく心地よいものだった。


「ん~、気持ちいい!」エミリーが両手を伸ばし、背伸びをする。


「川があるから、僕は水を汲んでくるよ」


「了解!」


 ユールは容器を持って、川に向かう。


 すると、ガイエンがエミリーの元にやってきた。


「エミリー、あの若造はどうした」


「ユール? 川に水を汲みに行ったよ」


「な、な、な、なんだとぉ!?」


 青ざめ、悲鳴のような声を上げるガイエン。


「なによ、いきなり……!」


「お前は奴の境遇を忘れたのか!?」


「境遇……?」きょとんとするエミリー。


「あの若造は王子に嵌められて、苦労して上り詰めた宮廷魔術師を解任されたのだぞ。そのショック、どれほどのものかお前には分からんのか」


「そりゃショックでしょうけど……」


「そんな男が川に向かった。これがどういうことか分からんのか!?」


「だから水を汲んで……」


「そんなわけなかろう! あの若造は身投げする気だ!」


「身投げ!? アハハ、そんなわけないでしょ」


「お前は恋人の心の痛みも理解できぬのか!? くっ、なんという薄情な娘よ! 早まるなよ、若造!」


 猛ダッシュで川に向かうガイエン。

 エミリーはそんな父をただ呆然と眺めていた。



***



 ユールは川で水を汲んでいた。


「これでよし、と。あとは魔法で清潔な水にすれば……」


「早まるなああああああああ!!!」


 背後から大声と共にガイエンが近づいてきた。


 ガイエンはユールの腕をキャッチすると、矢継ぎ早に説得を開始する。


「早まるんじゃない! よいか、宮廷魔術師をクビになったぐらいでなんだ! その程度、大したことじゃない! 吾輩も若い頃は当時の騎士団長に楯突いて冷遇されたものだが、それでも諦めなかった! 人生山もあれば谷もある! だから谷に落ちてもくじけるな! 命を無駄にするな! 生きてさえいればきっといいことがある! なかったとしても、吾輩だけは貴様の味方だ! それを忘れるな!」


 ユールは驚きつつも、ガイエンの励ましが嬉しかった。


「ありがとうございます……」


「ならばよい。ところで、なぜ水を汲んでいるのだ?」


「あの、飲み水を確保しておこうかな、と……」


「……」


 エミリーの言った通り、ユールは水を汲んでいただけに過ぎない。

 早とちりしていたことを悟ったガイエンは顔を真っ赤にする。


「ああああっ! そ、そうか! それは結構なことだ! しかし、川の水はそのままでは飲めんぞ!」


「ええ、ですから浄化魔法で綺麗な水にするんです」


 ユールが呪文を唱える。

 容器内の水が目に見えて清らかになった。


「おおっ……!」ガイエンが目を見張る。


「これで飲料に適する水になりました」


「そ、そうか! ならば吾輩が飲んでみよう!」


 早とちりした恥をごまかすように、容器の水をイッキ飲みしてしまう。


「おおっ、これは格別な味だ!」


「どうも……」


 ユールは「味は普通の水と大差ないはず」という言葉は飲み込んだ。


「それと言っとくが、さっき貴様を励ましたのは貴様のためではない! 貴様が暗い顔をしていると、エミリーが悲しむ! 吾輩はそれを望まぬから励ましたのだぞ! 勘違いするなよ!」


「は、はいっ!」


 二人の様子をこっそり見に来ていたエミリーは呆れていた。


「まったく何やってるのよ、あの二人は……。だけど少しは仲良くなってきたみたいね」


 その後、いくつかの村や町を経て、一行はフラットの町にたどり着く。


 フラットの町は近くに山と川がある自然豊かな町であった。

 王都から離れてはいるが、決して規模は小さくない。


「なかなかよさそうな町ではないか」とガイエン。


「そうね。近くに山があるから、お薬の調合に使う薬草にも困らなさそうだし!」エミリーも微笑む。


 ユールもフラットの町を見て、宮廷魔術師を解任されたことに対するショックはすっかり薄れていた。新しい町に希望を見出す。


「ここで僕の新しい人生が始まるんだな……頑張るぞ!」

序章終了となります。次回から田舎町での生活が始まります。

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― 新着の感想 ―
 読ませて頂きました。エピソード5まで読みました。魔法学校在学中、ヒロインのエミリーと出会う主人公のユール。そして魔法学校卒業後、ヒロインの父親に挨拶し、交際を認められる。しかし、魔法指南中にやる気…
[一言] 団長様がカワユス
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