第41話 古代竜の神官リンネ
次の日、ユールたち三人は隣村のネイバー村へと向かった。
隣のネイバー村までは歩いて30分ほどの距離。
古代竜を背景にお布施を受け取っているという神官が滞在しているらしいが――
「限りなく怪しい奴だ。我々でとっちめてやろうぞ」息巻くガイエン。
「そうね。私も黒だと思うわ」とエミリー。
「……」
無言で何やら考えを巡らせるユールに、エミリーが声をかける。
「どうしたの? ユール」
「うん……気になることが二つあるんだ」
「二つ?」
「一つは、神官がインチキだったとして、なんで村人はそんな簡単に騙されているのかということ」
「そういえば、そうねえ……」
ガイエンも同意する。
「普通は突然現れたそんな輩に金など払わんだろうな」
「そしてもう一つは……インチキなら、古代竜の名を悪用していることになる。何か悪いことが起きなければいいんだけど……」
不安を覚えつつ、三人はネイバー村に向かった。
***
まもなくネイバー村にたどり着いた。
距離が近いこともあり、パトリ村とそう変わらない規模と景色の村である。
村人の青年がいたので、ユールが話しかける。
「あのー、僕は隣村の者なんですけど……」
「やぁ、いらっしゃい」
「この村に古代竜を司る神官が滞在してると聞いたんですけど……」
「ああ……リンネさんのことか。ちょうど今、広場で集会やってるよ」
神官の名はリンネというらしい。
すぐに三人は広場に向かった。
広場には数十人の村人が集まっていた。その中で壇上に立ち、白いローブを着てフードを被った人物が神官リンネであることはすぐに分かった。
「今日もボクのお告げを聞くために集まってくれてありがとう」
村人たちがひれ伏す。
「さあ、古代竜様にお出でいただこう!」
リンネが両手を上げる。
「うわぁっ!」
「古代竜様だ!」
「ひええっ!」
村人たちが口々に悲鳴を上げる。
「古代竜様は猛っておられる。まだまだ君たちのお布施が足りないようだ」
再びひれ伏す村人たち。
「というわけで、並んでくれ。いつものようにボクにお布施すれば、古代竜様が怒ることはないよ!」
村人たちが並び、リンネに金を渡していく。
渡す金額はそこまでの高額は要求されていないようだが、積もり積もればかなりの額になるだろう。
こっそりと一連の流れを見ていたユールたちには、大きな疑問が生まれていた。
一体どこに古代竜がいたのだろう――?
***
ガイエンが唸る。
「どういうことだ!? 古代竜などいないのに、皆が驚いておったぞ!」
エミリーも首を傾げる。
「そうねえ……。私も目を凝らしてみたけど、見つけられなかったわ」
ユールがつぶやく。
「古代竜の正体……分かったかもしれません」
「なんだと!?」
「本当なの、ユール?」
「おそらく、あれは……“幻術”」
「幻術?」エミリーとガイエンが声を揃える。
「魔法とはまた体系の違う術で、相手に幻を見せ、惑わす術です。その昔、幻術使いは世を惑わせるとして迫害され、今ではその術を知るのはごく一部と本で読んだことがあります」
「なるほど、幻術とやらで竜の幻を見せているというわけか」
「だとしたらとんだインチキじゃない。みんな幻にお金を払ってることになるわ」
「その通り。こんなこと、絶対に止めないと!」
「うむ、あのリンネという奴を懲らしめて、金を返させねばならぬ!」
三人の意見が一致した。
「それにしてもあのリンネという男、まだ若いのにとんだ企みをしおる」
「そうですね。幻術なんて高等技をこんなことに使うなんてあまりにももったいない。彼のためにも……」
二人の言葉にエミリーは引っかかりを覚えていた。
「男……? 彼……?」
***
神官リンネは村外れにテントを張っていた。フードを取ると髪は肩までかかるくらいの銀髪であり、青色の瞳を持ち、顔立ちは中性的であどけない。年は10代半ばといったところか。
集まった硬貨を見て、一人ほくそ笑んでいる。
「よしよし、だいぶ集まったぞ。なあに構うもんか。ボクたちはずっと迫害されてきたんだからな。これぐらいどうってことない……」
そこにユールたち三人が訪れる。
「! ……なんだい、君たち?」
ユールが口火を切る。
「隣村から来た者だ。今ネイバーの村で、妙な神官がみんなからお金を巻き上げてるって聞いてね」
「巻き上げてるとは人聞きが悪いな。彼らは自発的にボクにお布施してくれてるんだよ」
「君が本物の神官なら、それも仕方ないことだろうさ。本物ならね」
「……どういうことだよ」
リンネが睨みつける。
「回りくどいことはよそう。君は……幻術使いだ」
「!」
リンネの表情が変わった。
「幻術で古代竜の幻覚を見せて、みんなからお布施をもらっている。違うかい?」
「ち、違う! ボクはそんなことしてない!」
慌てふためくように手を動かすリンネ。
「その態度がすでに答えではないか」
半ば呆れつつ、ガイエンもリンネに近づく。
「さあ、村のみんなにお金を返すんだ。さもないと……」
ユールが脅しをかけるように迫る。
「さもないと、どうするんだい?」
「さも、ないと……」
突然ユールの声が弱くなる。
「どうした、ユール!? う、吾輩も……」
ガイエンも同じような症状を覚える。
二人とも、立ち尽くしたまま動かなくなってしまった。
唯一無事なエミリーが二人に叫ぶ。
「ちょっと、二人ともどうしたの!?」
リンネが不敵に笑う。
「バカだね、ボクが幻術士だって気づいてながら、こんな安易に近づくなんてさ」
「……どういうこと!?」
「この二人はボクの幻術に捕われたんだよ。もうボクが解除するまではこのままさ」
「なんですって……!」
「可哀想だし、君だけは勘弁してあげたよ。まあ、ここで見てあげようじゃないか。彼らがボクの幻術に踊らされるさまをさ」




