第40話 故郷での日々
ユールたちはパトリ村にしばらく滞在することになった。
とはいえのんびりしているのも性に合わない三人は、積極的に村のために働くことにした。
ユールはある村人から頼みごとをされる。
「ここを畑にしたいんだが……どうにも土が硬くて……柔らかくできるかい?」
これを聞いて、力強くうなずくユール。
「うん、任せておいて!」
ユールは地面に両手を置いた。
「我が魔力よ……土の中へ潜り、うごめけ!」
地中にユールの魔力が行き渡り、振動する。
たちまち、周囲の土は柔らかくなった。
「ありがとうユール! これでここも畑にできる!」
「どういたしまして……ん?」
ユールは土から這い出してくる一匹のモグラを見つけた。
その尻尾をつまむ。
「ごめんごめん、驚かせちゃったね」
ユールはそのモグラを遠くに運ぶと、逃がしてやった。
……
ガイエンは村の中で暴れ馬に遭遇していた。
「……む」
馬がガイエンに向かって突進する。
しかし――
「ヒヒン……」
ガイエンの一睨みで大人しくなってしまう。
「なかなかいい馬ではないか。よっと」
ガイエンはたちまち乗りこなしてしまう。
「おお、すごい!」
「さすが騎士団長様だ!」
「あっさりと!」
ガイエンは馬を撫でる。
「ストレスが溜まっておるようだ。どれ、少しばかり走らせてやるとしよう」
「ヒヒーンッ!」
水を得た魚、馬を得た騎士団長である。凄まじいスピードで村中を駆け抜けた。
……
エミリーはほくほく顔であった。
「この村はフラットの町以上に、貴重な薬草を手に入れられるわね」
薬師としての本能が騒いでいるようだ。
「あら?」
エミリーは道端にうずくまっている村娘を発見する。
「どうしたの?」
「足を蛇に噛まれてしまって……」
「蛇?」
彼女の近くには緑色の蛇が這いずっていた。
エミリーはためらいなくその蛇を掴む。
「ん~、よかった! これは毒がない蛇だわ! 塗り薬を塗っておけば大丈夫!」
エミリーが作った軟膏を塗ると、村娘の傷の痛みはたちまち癒えていった。
「ありがとうございました……」
「どういたしまして! あ、そうだ。よかったら、このお薬あげるわ!」
「いいんですか!?」
「ええ、エミリー印の塗り薬、怪我したらすぐに使ってね!」
「はい!」
村娘の目には、エミリーが女神かなにかのように見えたという。
***
一週間も経つと、元々の住人であるユールはもちろん、エミリーとガイエンもすっかりパトリ村に馴染んでいた。
ガイエンとロニーは父親同士、酒を酌み交わしている。
「ロニー殿、今夜も飲もうぞ!」
「ええ、ガイエン様!」
エミリーもセレッサから料理を教わっている。
「ユールはね、子供の頃はお芋をふかしたのが大好きだったのよ」
「へぇ~、この味受け継いでみせます!」
ユールはこれを聞きながら「エミリーさんにもふかし芋を作ってもらえるなんて最高だ」と内心で拳を握った。
しかし、いつまでも故郷を楽しんでばかりもいられない。
ユールは今、フラットの町の『魔法相談役』であり、ずっと町を留守にするわけにはいかない。
「父さん、母さん。僕たち、もう数日中にはここを発つよ」
これに最も過敏な反応を示したのは、ガイエンだった。
「な、なんだとぉ!? もっとゆっくりしていこうではないか!」
「お、お父さん……すみません」
一方、ロニーとセレッサは穏やかに返事をする。
「お前にはお前の仕事があり、人生があるからな。俺たちのことは心配するな」
「そうよ。私たちは笑ってあなたを送り出すわ」
ユールはもちろん、ガイエンも感動してしまう。
「なんというできたご両親よ……!」
「お父様ができてなさすぎなのよ」とエミリー。
両親には心置きなく出発しろと言われたが、ユールとしても心残りはある。
「だけど、せっかく村に帰ってきたし、最後に一仕事していきたいんだけど……」
「だったら気になることがある」ロニーが切り出す。
「気になること?」
「すぐ近くにある隣のネイバー村に、怪しげな神官が滞在しているそうなんだ」
「神官?」
「この地方には昔から竜が眠っているという伝説があるだろう」
「うん、古代竜様が地中深くに眠ってるっていう……」
「なんでも、その神官は『自分は古代竜を司る神官で、古代竜様の怒りを鎮めるためにお布施がいる』などと言って、村人にお布施をさせているそうなんだ」
ユールは顔をしかめる。
「なんだか……すごく怪しいね」
「そうだろう」
その神官が本物ならまだしも、限りなくうさん臭い。
ガイエンが話に乗ってくる。
「よしユール、明日にでも吾輩らでネイバー村に向かおう。その神官とやらを調べて、詐欺師のような輩だったら吾輩らで懲らしめてやるのだ」
「そうですね!」
ユールたちはパトリ村を発つ前に、隣村の怪しい神官を調査することになった。




