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第37話 秋の味覚を楽しもう

 ユールの自宅からでも、フラットの町近くの山を見ることができる。

 木々にちらほらと紅葉が目立つ。


「山が赤みがかって、風情があるわね」とエミリー。


「うん、季節はすっかり秋って感じだね」ユールもうなずく。


 ガイエンがのしのしとやってくる。


「きっとキノコや果物もたくさんなっているのだろうな!」


「そうでしょうね」


「ったく、お父様はすぐ食べ物の話にしちゃうんだから……」


「当たり前だ! 吾輩、食べるの大好き!」


「“大好き!”じゃないでしょうよ」


 呆れるエミリー。


「僕も食べるのは大好きだよ!」


 ユールが微笑むと、エミリーは「頼むからお父様にあまり毒されないでね」と笑い返した。

 すると、ガイエンが言った。


「そうだ、山でキノコ狩りとでもいかんか!」


「ええっ!?」


「あ、僕も行きたいです!」


「ユールまで!」


 ユールも乗り気なので、ガイエンは得意げな表情になる。


「諦めよ、エミリー。二対一だ」


 エミリーはため息をつく。


「はいはい、分かったわよ。ま、私も山に行くのもいいと思ってたしね」



***



 三人はそれぞれ山歩きをしやすい格好に着替え、山までやってきた。

 普段はスカートのエミリーも、ズボンを履いている。

 さっそく三人でキノコ探しを始める。


 いきなりガイエンが白いキノコを見つけた。


「おお……これは白くておいしそうだぞ!」


 エミリーは一目見るなり、冷めた口調で答える。


「それ猛毒よ。食べたら七日で死ぬわ」


「なにい!?」


 ユールも緑色のキノコを発見する。


「あ、これはおいしそうだよ、エミリーさん」


 エミリーはやはり一目で種類を見分ける。


「死ぬほどではないけど、痙攣に苦しむキノコだわね」


「そ、そうなんだ……」


 その後も男二人は次々にキノコを見せるが、いずれも毒であった。


「なんだこれは! 毒ばっかりではないか!」


「だからキノコ狩りってのは難しいのよ。素人じゃ絶対やらない方がいいわ」


 憤るガイエンをエミリーがたしなめる。


「それにしてもエミリーさん、キノコに詳しいんだね。ビックリしたよ!」


 ユールは感心する。


「まあね。薬学の勉強でフィールドワークは沢山やったし、おかげで未知の植物やキノコでも毒の有無ぐらいは分かるようになったわ」


「へぇ~、すごいや!」


「さすが我が娘……実に毒々しい娘に育ってくれた」


「全然褒めてもらってる気がしないんだけど」


 その後も三人はキノコを探すが、食用になるキノコはなかなか見つからない。


「収穫がないな。エミリーが数本見つけたぐらいか」


「キノコを見つけるって難しいですね……」


「あら? あそこ、茂みから何か出てくるわ」


 熊が出てきた。以前ガイエンが拳で倒し、ユールが救ったメスの熊である。


「ユール、前のようにこの熊に聞いてみようではないか!」


「そうですね!」


 かつて、この熊には薬草の場所を教えてもらったことがある。

 ユールは魔法を使って熊と意志疎通をし、キノコがよく生えている場所を教えてくれないかと頼んだ。

 熊は快く穴場へと案内してくれた。


「ここ、すごい! キノコがいっぱい生えてるわ!」


 エミリーが喜ぶ。


「これはレインボーマッシュルーム、七つの味が楽しめるわ。こっちはトロケタケ、頬がとろけるほど美味しいキノコなの」


 ユールもキノコを抜く。


「エミリーさん、これは?」


「それも食べられるわ!」


 ガイエンも続こうと、茶色いキノコを引っこ抜く。


「エミリー、これはどうだ!?」


「毒キノコね」


「なぜだぁ!」


 三人はカゴ一杯にキノコを採り、山を下りた。



***



 家に帰ると、エミリーが米を炊いて、キノコとの混ぜご飯を作り始めた。


「僕も手伝うよ、エミリーさん」


 ユールが言うと、エミリーは嬉しそうに応じる。


「じゃあ、調味料を言うから、一緒に混ぜてくれる?」


「うん、分かった」


 ガイエンも身を乗り出す。


「吾輩も何か手伝うぞ、エミリー!」


「じゃあ大人しく椅子に座って、じっとしててくれる?」


「うむ、分かった!」


 ガイエンは邪魔にならないよう、じっとすることになった。


 まもなく炊き込みご飯が出来上がり、大皿に盛りつけ、三人で食べ始める。


「おいしいよ、エミリーさん!」


「ありがと、ユール」


 ユールに褒められ、エミリーがはにかむ。


「腕を上げたな、エミリー! 吾輩はエマを思い出してしまって……うっ、うっ、うっ」


「ちょっと、泣かないでよ!」


 亡き妻を思い出し涙するガイエンに、エミリーは困惑する。

 かなりの量を作ったが、三人はさして時間もかけず完食してしまった。

 食事を終えたユールがどことなく神妙な表情をしていることに、エミリーが気づく。


「どうしたの、ユール?」


「え、あ、うん……ちょっとね」


「ちょっと? 何かあるなら相談してよ」


「えぇっと、実は……故郷を思い出していたんだ」


 ユールはリティシア王国の地方の村で生まれた。それから魔法学校を卒業し、王都に上京し、宮廷魔術師にまで上り詰めたが、故郷には全く帰れていなかった。


「僕の村も、近くに山があって、秋になると紅葉が美しかったからね」


「へえ~、そうだったんだ」


 エミリーもユールの村のことはあまり知らなかったな、と思い返す。

 すると、ガイエンが言った。


「ならば、ユールの村に行くとするか」


「え!?」驚くユール。


「お前は王都に出てから、一度も故郷に帰れていないのだろう? 仕方ない部分はあるが、両親はさぞ心配していることだろう」


「それは……そうですね」


「それに、近況報告はもちろん、吾輩とエミリーもご両親と挨拶しておいた方がいいだろう」


 まさかの展開にユールは戸惑ってしまう。

 エミリーも父に加勢する。


「そうよ、ユール! 私もユールのご両親に会いたいし、行きましょうよ!」


「だけど、この町での仕事は……。僕は魔法を教えてますし……」


「心配いらん。フラットの町の人々は吾輩らがいなくなったところで、魔法の勉強や剣術の稽古をサボるようなことはせんだろう」


 ガイエンの意見にユールの心も動く。


「お前も……帰りたいのだろう?」


「……帰りたいです」


「決まりね!」


 ユールにも一度故郷に戻っておきたいという思いはあった。

 両親に報告したいことは山ほどあるし、なによりエミリーとガイエンのことを紹介したい。

 ユールは心の中で「父さん、母さん。凄い人たちを連れていくからね」とつぶやいた。

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