第27話 お父さんと合体必殺技を作ろう
イグニスとネージュ兄妹が新しく開発した合体魔法を見せたいという。
ユールは了承し、空き地で披露されることになった。
「行くぞ、ネージュ!」
「ええ、兄さん!」
二人が同時に呪文を唱える。
「氷炎吹雪!」
炎のつぶてと氷のつぶてが、吹雪のように発射される。
ユールはシールドを張り、これを受け止める。
「どうでした!?」とイグニス。
「よかったよ。息ピッタリで、魔力もちゃんと練られてて安定していた」
「やったぁ!」ネージュが喜ぶ。
「ハッハー、ここまで上達できたのも、ユールさんのおかげですよ」
「いや、やっぱり君たちには才能があったよ。これからも頑張って!」
二人は満足し、挨拶をして去っていた。彼らを見送ったユールは独りごちる。
「合体攻撃か……あの二人がちょっと羨ましいな」
***
自宅に戻ったユールは、エミリーにそんな願望を打ち明ける。
「合体攻撃?」
「うん、二人を見てたらちょっと羨ましくなっちゃった」
「あの兄妹、仲いいものねえ。二人のどっちかとユールがやってみるってのはできないの?」
「合体魔法はよほど相性がよくないとね……。いくら血が繋がっててもできるものじゃないし、あの二人は本当に天賦の才に恵まれてるんだと思う」
「あなたが基礎から教えたがったわけだ」
エミリーは自分の両手を見る。
「私も魔法を習ってたら、ユールと合体魔法を撃つこともできたのかも」
「合体だとぉぉぉぉぉぉ!?」
突如ガイエンが割り込んできた。
「許さんぞ、二人とも! 二人で……合体など!」
驚くユール。ため息のエミリー。ガイエンはそのままユールの胸倉をつかむ。
「ユールよ、どうしても合体したくば……この吾輩を死体にしてからにせい! さあ、吾輩に魔法をブチ込むのだ!」
暴走する父にエミリーが薬草を投げつける。
「あいたっ!」
「落ち着いてよ、お父様! こっちはそんな話してないわよ!」
「そうなのか?」
「二人で協力してやる、合体攻撃の話をしてただけよ!」
「な、なんだ……それなら早く言わんか」
「言う暇もなかったでしょ」
ここでエミリーにあるひらめきが思い浮かぶ。
「そうだ、ユール。お父様と合体攻撃してみたら?」
「お父さんと? だけどお父さんは魔法を使えないよ」
「別に合体攻撃は魔法と魔法じゃなくてもいいでしょ?」
「確かに……」
ユールは目からウロコが落ちた気分だった。
魔法と剣での合体攻撃。これまでこの二つは完全に分けて考えられていたので、試みた人間もいないはず。
ユールとしては是非やってみたくなったが、ガイエンは――
「面白そうではないか、やろう!」
意外にも乗り気だった。
魔法と剣の合体攻撃など初めての試みなので、何が起こるか分からない。二人は山に向かうことにした。
***
フラットの町近くの山。かつてユールとガイエンはここでキュアリー草を探したり、土砂崩れを食い止めたりしたことがある。
高さ二メートルほどの岩を見つける。
「ユールよ、あれに合体攻撃を試してみようではないか」
「そうですね」
しかし、二人ともこう思っていた。
あんな大きな岩で試すほどの技になるかなぁ、と――
多分すごくしょぼい技になるんじゃないかなぁ、と――
とはいえ今更そんなことを言い出せるはずもないので、二人ともどこか気まずい笑みを浮かべながら準備を始めた。
「じゃあお父さんがあの岩に剣を振り下ろすのに合わせて、僕が雷魔法を落としますね」
「分かった」
ガイエンが剣を構える。ユールも意識を集中する。
おそらく上手くはいかないだろうが、やるからには真剣にやる。
ふと、ユールが言う。
「あ、そうだ。お父さん、せっかくだから名前を決めません?」
「名前か……よかろう」
技名というのはバカにならない。名前をつけることで、その技を出すという意識が高まり、威力の向上も狙えるという研究結果も出ている。
「ユール、お前がつけろ」
ガイエンに言われ、ユールが少し考えてから答える。
「“サンダーナイトメイジソードアタック”というのはどうでしょう?」
とっさだったので「雷」「騎士」「魔法使い」「剣」「攻撃」をくっつけただけの技名になってしまった。
「少し長い気がするぞ」
「ですよね」
ユールも自覚していた。
しばらく二人で話し合い、ガイエンが一つの名前を提案する。
「“ジンライ”というのはどうだ?」
「ジンライ……ですか?」
「うむ、とある異国では素早く動くことを“疾風迅雷”と言うそうなのだが、このフレーズが妙に頭に残っておってな」
ユールは大賛成する。
「いいですね、ジンライ! 気に入りました!」
「本当か? 忖度していないか?」
「してませんよ!」
ユールもまさしく本音であった。“ジンライ”という言葉の響きを気に入っていた。
「ではやるか」
「はい!」
改めて二人とも意識を集中し、ガイエンが岩めがけて駆け出す。
上段に構えた剣を振り下ろす。
同時にユールがその剣にドンピシャで雷を落とす。
雷をまとった刃を、ガイエンはその勢いのまま岩に叩きつける。
むろん、技名を叫びながら。
「ジンライッ!!!」
轟音が響いた。
後ろにいるユールも思わず目をつぶってしまうほどだった。
目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
「い、岩が粉々に……!」
ガイエンも驚いている。
「こんな威力になるとは……!」
二人とも高レベルの魔法と剣の使い手で、なおかつ息ピッタリだったからこそできた芸当だった。
しかも、二人とも体が覚えている。もう一度再現しようと思えば、確実にできてしまうだろう。
ガイエンは神妙な顔つきで言った。
「この技は危険すぎるな」
ユールもうなずく。
「はい……人にやっていい類の技じゃないですね」
「こいつを使うのは本当にいざという時だけにしようではないか」
「そうですね。それが一番です。教え広められるようなものでもないですし」
せっかく合体技を編み出したユールとガイエンだったが、ジンライは封印しようという結論に達した。魔法と剣を熟知した二人だからこその答えだった。
家に帰った二人をエミリーが出迎える。
「あ、どうだった? 合体技はできた?」
二人とも「ダメだったよ」「そう甘くはないな」と答える。
しかし、その表情はどこか満足げだった。
エミリーは首を傾げる。
「……変なの」




