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第23話 最強のお父さんvs最強を目指す女剣士

 翌朝、近くの空き地でガイエンは挑戦者スイナを待ち構えた。

 防具は肩当てと胸当てをつけ、武器も真剣を用意している。

 ユールとエミリー、昨日スイナに会ったゲンマとニックも一緒だ。彼らが勝負の立会人となる。

 しかし、一向にスイナは現れない。


「ゲンマ、相手の娘はいつ来るのだ?」


「そういえば時間は言ってなかったなぁ……」


「そうっすね……」


「それではいつ来るか分からんではないか! ううむ、しかし今さら帰るのも……待つしかないか」


 待ちぼうけを食らってしまったが、幸いなことにスイナは程なくして現れた。

 長い黒髪をなびかせ、颯爽と登場する。


「あいつっす!」ニックが指差す。


 昨日敗れたばかりのゲンマも苦い顔をする。

 スイナもすぐガイエンに気づいたようで、まっすぐ近づいてくる。


「あなたが騎士団長のガイエン殿だな?」


「いかにも。吾輩はガイエン・ルベライト。リティシア王国騎士団長である」


 騎士らしく堂々と名乗る。


「私はスイナ。スイナ・キリアだ。最強の剣士を目指し、各地で敵を打ち破ってきた」


「王都では騎士団領にも乗り込んだらしいな」


「門前払いを食らったがな。しょせん騎士などエリートぶって、戦いを避けるような臆病者だということだ」


 スイナのこの言葉に、エミリーは「あの子まずいこと言ったわね」と言わんばかりの顔をする。


「よかろう。ならば吾輩が受けて立つ」


「ありがたい。あなたを倒せば、私は最強にぐんと近づける。最強を名乗ってもいいかもしれない」


「お前は吾輩の弟子であるゲンマを破っている。師匠としてはあだを討たねばならん。本気で行かせてもらうぞ」


「当然だ。本気の騎士団長を倒さねば意味がない!」


 ガイエンもスイナも剣を正眼に構える。

 しかし、スイナが構えを取るガイエンを見た瞬間、それは起こった。


 ――巨大化した。


 彼女の目には、ガイエンがまるで3メートル以上はある大男に見えた。

 彼女だけではない。

 この場にいた全員が、ガイエンが巨大に見えた。

 剣の素人であるユールですら、二人の天と地ほどの実力差を感じ取れるほどだった。


「どうした。動かんのか、それとも動けんのか」


 ガイエンが問うが、スイナは小刻みに震えたまま動かない。


「あ……ああ……」


 スイナは怯えの表情すら浮かべている。

 だが、ガイエンは容赦なく間合いを詰めていく。

 まさに蛇に睨まれた蛙。


「最強を目指している以上、当然こうなることも覚悟の上のはずだな。悪いが今からお前を全力で斬らせてもらう」


 スイナは震えている。


 見ている全員が「ガイエンはスイナを斬る」と確信できるほどの殺気だった。

 だが、「もう勝負はついてる」「そこまでしなくても」と止めることができない。止めに入れば、その者が斬られると思えてしまうほど、ガイエンの威圧は凄まじかった。

 立場上絶対ガイエンに斬られるはずのないエミリーですら、止めに入ることができない。

 ユールも初めて見るガイエンの本気で戦慄するしかない。


「むんっ!!!」


 ガイエンが剣を振り下ろす。

 力強い斬撃でスイナの肉体は真っ二つに――ならなかった。

 刃は寸止めだった。それもミリ単位の寸止め。


「あっ……ああっ……あっ……」


 スイナは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。

 ガイエンはそれを見て諭すように言う。


「お前の力量が高いのは分かる。最強を目指す気持ちも分かる。しかし、強い者に次から次へと挑むようなことをしていては、待つのは破滅のみだ。焦る気持ちはあろうが、やはり公式の試合などに出て、実績を重ねた方がよい。これが年長者としての、せめてもの忠告だ」


 剣を納めるガイエン。スイナはがっくりとうなだれた。


「しっかし……」ガイエンはユールたちに向き直る。「お前らなぜ吾輩を止めんのだ。それを期待しておったのに」


 これに見ていた者達は――


「できるわけないでしょ!」とエミリー。


「無理無理!」とゲンマ。


「止めれるわけないっすよ!」とニック。


 ユールも同様だった。ガイエンの真に恐ろしい部分を見た気分だった。


「お父さん、まだまだ僕じゃあなたには敵いませんね」


「元宮廷魔術師にそう言ってもらえるなら、吾輩も騎士団長として面目を保てたというものだ」


 ガイエンもユールを立てるように微笑んだ。


 すると、うなだれていたスイナが動く。


「ガイエン殿……」


「なんだ?」


「わ、私を……弟子にして下さいませんか!?」


 これには皆が驚く。

 しかしガイエンは、


「別にかまわんぞ」


 あっさり答える。


「よろしいのですか!?」


「ああ、ただでさえゲンマたちを教えとるし。今更一人増えても変わらん」


「かたじけない……!」


「住む場所は……ゲンマになんとかしてもらえ」


「え、俺!?」とゲンマ。


「西区域にはこの子が住めるような空き家があるだろう」


「まあ、あるけど……分かったよ、いいよ。世話してやるよ」


「ありがとう……!」


 かくしてガイエンの弟子に女剣士スイナが加わった。



***



 それからというもの、スイナは張り切って、ガイエンの訓練に加わった。


「空き地はしっかり整地しておきました! これで訓練もやりやすくなるでしょう!」


「う、うむ」


 スイナのあまりの働きぶりにガイエンも困惑する。


「ゲンマ殿たちの木剣は私が磨き上げておきました!」


「なんで俺たちにまで……?」


「私など末席ゆえ……」


「いや、いいよ! 俺らには敬語使わなくて! 俺はお前に負けてるし!」


 スイナの空回りともいえる張り切りに、男たちは戸惑うのだった。


 これを見てユールとエミリーは笑う。


「なんだかまた一人、面白い子が仲間になったわね」


「うん。それにスイナちゃんがお父さんに鍛えてもらったらきっとすごい剣士になるんじゃないかな」


「私もそう思う!」

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