第21話 お父さんがかき氷を作ってくれました
リティシア王国に夏が来た。
熱中症の危険のあるうだるような暑さになることはないが、それでも一年のうちで一番暑い季節には違いない。
よってこの季節は、皆が半袖や薄手の服を着るようになる。
ユールたちももちろんそうで、この日ユールは自宅で薄手のローブ、エミリーは半袖のワンピースを着ていた。
ガイエンはというと――
「暑い!!!」
白い開襟シャツにグレーのスラックス姿で、暑さに文句を言っていた。
「暑い! 暑いぞ!」
「お父様さっきからうるさいってば! 騎士なんだからもうちょっと我慢してよ!」
「騎士は我慢などせぬ!」
「私すごいこと聞いちゃった気がするわ……」
エミリーは呆れる。
ユールがこんな提案をする。
「だったらお父さん、氷でも用意しましょうか?」
これにエミリーが苦い顔をする。
「ユール、甘やかさなくていいって! だいたい無から氷を生み出すのはかなり魔力を使うでしょ。緊急事態でもないのにそんなことする必要ないわよ」
「うん、だから水を凍らせればいいんだ。川で汲んできて、浄化したやつを」
「あ、そっかぁ!」
ユールたちも当然水は常備しているので、魔力をそこまで消費しない冷気魔法で氷を用意することができた。テーブルの上に氷の塊が置かれる。
「おお……少し涼しくなった」ご満悦のガイエン。
「うん……ひんやり」エミリーも父と似た表情を浮かべる。
やっぱり親子なんだなぁ、とユールは微笑ましく思う。
氷を見ていたガイエンは、ふと話題を切り出す。
「お前たち、“かき氷”というものは知っとるか?」
ユールとエミリーは首を傾げる。
「やはり知らんか。どれ、ちょっと待ってろ」
ガイエンは家を出て、やがて戻ってきた。
手で回すハンドルのついた器具を持っている。
「王都ではお目にかかれんが、この町の雑貨屋にはあると踏んでおった」
「なにそれ?」とエミリー。
「まあ、見ておれ」
ガイエンは氷を器具に入れ、ハンドルを回す。
すると中から細かく砕かれた氷が出てきた。
ユールとエミリーは驚く。
「これを器に盛りつけて、果物のシロップをかける」
抜け目なくシロップも買っていたガイエン。
「できた! これがかき氷だ!」
ガイエンは二人にも振舞う。さっそく三人はスプーンで食べる。
「おいしいっ!」目を丸くするエミリー。
「ええ、とてもおいしいです! お父さん!」ユールも感激する。
「そうだろう、そうだろう」
ガイエンもかき氷を口にする。
「うまぁぁぁぁぁい! さすが吾輩、見事なかき氷だ!」
「氷を作ったのはユールで、氷を砕いたのはその器具で、シロップはお店のだけどね」
「氷のような冷たい指摘をするでないわ、エミリー!」
ガイエンもあまり自力の部分はないという自覚はあったようだ。
「でもお父さん、本当においしいです! どうしてこんなおやつを知ってるんですか?」
「騎士団として南方の国に遠征した時、そこの民に振舞われたことがあるのだ。あの時の味を忘れられなくてな……」
若き日のかき氷体験を思い出し、しみじみとするガイエン。
「お父さんはすごいですね。色々なところに行ってて、僕たちが知らないようなことをいっぱい知ってて……」
「ハハハ、おだてても何も出んぞ。ほれ、もう一杯食うか?」
「いただきます!」
しかし、かき氷を食べると当然――
「あ、頭が……!」手で頭を押さえるエミリー。
「僕も……キーンって……!」
「頭痛か。だらしがない、がっつくからそうなるのだ。うぐああああああああ!!!」
三人の中で最も頭痛に苦しむガイエンだった。
ひとしきりかき氷を楽しむと、エミリーがこんな提案をする。
「せっかくだしさ。いつもここに来てくれるみんなにもおすそ分けしない?」
「いいね、それ!」
「よぉし、はりきって作るとするか!」
その後、ユールの魔法教室に通う面々や、花屋のノナ、ガイエンの訓練を受けるゲンマたちにもかき氷が振舞われた。
「うん、おいしいよ! うちの酒場でも出そうかな……」とブレンダ。
「おいしー!」ノナも無邪気に喜ぶ。
「ハッハー、こりゃうまい! 一気に涼しくなったぜ!」
「私も氷魔法は得意だし、作ってみようかな」
イグニス、ネージュ兄妹も絶賛する。
「こりゃいくらでも食えちまうぜ!」
「氷とシロップがよく合うっすね!」
ゲンマとニックもガツガツと食べて、頭痛に苦しんでいた。
暑い夏に冷たいかき氷は大好評だった。
しかし、最も食べていたのは――
「頭痛にも慣れてきた! いくらでも食えてしまうぞ! おかわりだ!」
ガイエンだった。
「お父さん、いくらなんでも食べすぎじゃ……」
「私、この後の展開が見えてきた気がするわ」
ユールの心配やエミリーの予感は当たった。
この夜、ガイエンは大いに苦しむことになる。
「エミリー! 腹がゴロゴロする! 早く! 早く薬を作ってくれ! 我慢できん……!」
「エミリーさん、急いで!」
超特急で薬を調合するエミリー。
「あーもう! 絶対こうなるって分かってたわ!」




