表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/81

第21話 お父さんがかき氷を作ってくれました

 リティシア王国に夏が来た。

 熱中症の危険のあるうだるような暑さになることはないが、それでも一年のうちで一番暑い季節には違いない。

 よってこの季節は、皆が半袖や薄手の服を着るようになる。


 ユールたちももちろんそうで、この日ユールは自宅で薄手のローブ、エミリーは半袖のワンピースを着ていた。

 ガイエンはというと――


「暑い!!!」


 白い開襟シャツにグレーのスラックス姿で、暑さに文句を言っていた。


「暑い! 暑いぞ!」


「お父様さっきからうるさいってば! 騎士なんだからもうちょっと我慢してよ!」


「騎士は我慢などせぬ!」


「私すごいこと聞いちゃった気がするわ……」


 エミリーは呆れる。


 ユールがこんな提案をする。


「だったらお父さん、氷でも用意しましょうか?」


 これにエミリーが苦い顔をする。


「ユール、甘やかさなくていいって! だいたい無から氷を生み出すのはかなり魔力を使うでしょ。緊急事態でもないのにそんなことする必要ないわよ」


「うん、だから水を凍らせればいいんだ。川で汲んできて、浄化したやつを」


「あ、そっかぁ!」


 ユールたちも当然水は常備しているので、魔力をそこまで消費しない冷気魔法で氷を用意することができた。テーブルの上に氷の塊が置かれる。


「おお……少し涼しくなった」ご満悦のガイエン。


「うん……ひんやり」エミリーも父と似た表情を浮かべる。


 やっぱり親子なんだなぁ、とユールは微笑ましく思う。

 氷を見ていたガイエンは、ふと話題を切り出す。


「お前たち、“かき氷”というものは知っとるか?」


 ユールとエミリーは首を傾げる。


「やはり知らんか。どれ、ちょっと待ってろ」


 ガイエンは家を出て、やがて戻ってきた。

 手で回すハンドルのついた器具を持っている。


「王都ではお目にかかれんが、この町の雑貨屋にはあると踏んでおった」


「なにそれ?」とエミリー。


「まあ、見ておれ」


 ガイエンは氷を器具に入れ、ハンドルを回す。

 すると中から細かく砕かれた氷が出てきた。

 ユールとエミリーは驚く。


「これを器に盛りつけて、果物のシロップをかける」


 抜け目なくシロップも買っていたガイエン。


「できた! これがかき氷だ!」


 ガイエンは二人にも振舞う。さっそく三人はスプーンで食べる。


「おいしいっ!」目を丸くするエミリー。


「ええ、とてもおいしいです! お父さん!」ユールも感激する。


「そうだろう、そうだろう」


 ガイエンもかき氷を口にする。


「うまぁぁぁぁぁい! さすが吾輩、見事なかき氷だ!」


「氷を作ったのはユールで、氷を砕いたのはその器具で、シロップはお店のだけどね」


「氷のような冷たい指摘をするでないわ、エミリー!」


 ガイエンもあまり自力の部分はないという自覚はあったようだ。


「でもお父さん、本当においしいです! どうしてこんなおやつを知ってるんですか?」


「騎士団として南方の国に遠征した時、そこの民に振舞われたことがあるのだ。あの時の味を忘れられなくてな……」


 若き日のかき氷体験を思い出し、しみじみとするガイエン。


「お父さんはすごいですね。色々なところに行ってて、僕たちが知らないようなことをいっぱい知ってて……」


「ハハハ、おだてても何も出んぞ。ほれ、もう一杯食うか?」


「いただきます!」


 しかし、かき氷を食べると当然――


「あ、頭が……!」手で頭を押さえるエミリー。


「僕も……キーンって……!」


「頭痛か。だらしがない、がっつくからそうなるのだ。うぐああああああああ!!!」


 三人の中で最も頭痛に苦しむガイエンだった。


 ひとしきりかき氷を楽しむと、エミリーがこんな提案をする。


「せっかくだしさ。いつもここに来てくれるみんなにもおすそ分けしない?」


「いいね、それ!」


「よぉし、はりきって作るとするか!」


 その後、ユールの魔法教室に通う面々や、花屋のノナ、ガイエンの訓練を受けるゲンマたちにもかき氷が振舞われた。


「うん、おいしいよ! うちの酒場でも出そうかな……」とブレンダ。


「おいしー!」ノナも無邪気に喜ぶ。


「ハッハー、こりゃうまい! 一気に涼しくなったぜ!」


「私も氷魔法は得意だし、作ってみようかな」


 イグニス、ネージュ兄妹も絶賛する。


「こりゃいくらでも食えちまうぜ!」


「氷とシロップがよく合うっすね!」


 ゲンマとニックもガツガツと食べて、頭痛に苦しんでいた。


 暑い夏に冷たいかき氷は大好評だった。


 しかし、最も食べていたのは――


「頭痛にも慣れてきた! いくらでも食えてしまうぞ! おかわりだ!」


 ガイエンだった。


「お父さん、いくらなんでも食べすぎじゃ……」


「私、この後の展開が見えてきた気がするわ」


 ユールの心配やエミリーの予感は当たった。

 この夜、ガイエンは大いに苦しむことになる。


「エミリー! 腹がゴロゴロする! 早く! 早く薬を作ってくれ! 我慢できん……!」


「エミリーさん、急いで!」


 超特急で薬を調合するエミリー。


「あーもう! 絶対こうなるって分かってたわ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ