書籍第4巻発売記念臨時SS!③【雨】
お嬢とアンディ
(約800字)
しとしとと、雨が降る。
「雨か……」
「雨だね」
窓にうつる私の隣にアンディが現れた。雨音に馴染む穏やかな声に癒される。
次は何を話すのか、じっと待つ。
「ん? 僕に何かついてる?」
あ。
また背が伸びたみたい。
私だって去年より育ったのに、ちっとも追いつかない。
出会った時は女の子のようにも見えたのに、声はとっくに低くなった。でもこれからもっと低くなる。
「ううん。いい声だなぁと思って」
あ。
アンディは照れると、まず目尻が赤くなる。
それに気づいたのはいつだっけ。
「……お嬢はいつも突然口説いてくるね」
目尻の次が耳。
常時ポーカーフェイスな王子は顔色が簡単には変わらない。
「え? 今の、口説いて……た?……かな?」
「ふっ……ううん、僕が勝手に口説かれただけ」
あぁ。
赤いの消えちゃった。残念。
もう一回見たいなあ。
ドロードラングにいる時はポーカーフェイスも崩れがちだから、またチャンスはある。
「……そんなに見られても何もないよ?」
あ。
この、しょうがないなぁ、っていう表情が好き。
レシィにもサリオンにも子供たちにもよく見せる。
お願いが可愛くて、断りきれない時の顔。
お兄ちゃんの顔。
「ふふっ」
いいものあったよ、アンディ。
「今度はなに?」
「ふふふ、内緒」
ああ。
空気が優しい。
甘やかされる。
気持ちいい。
あ。
耳が赤くなった。
今、私、なんかしたっけ?
「アンディが赤い」
「……そう?」
「なんで?」
「…………内緒」
ちぇ、内緒かあ。
「嘘。お嬢が可愛いから」
う。
その言葉と笑顔のセットはまずい。
「はは、真っ赤」
「うぅぅ、勝てない〜」
「これだけは負けない」
恥ずかしくて、窓越しにアンディを睨もうとしたら。
私の真っ赤な顔が目の前に。
よけいに恥ずかしい。
でも。
「可愛い」
小さく小さく呟かれたそれは。
外の雨音に負けず。
私まで届いた。
だから、雨の日は嫌いじゃない。




