書籍第2巻発売記念臨時SS! ④【女子会】
ベッドの上にはたくさんのお菓子に可愛らしいデザインの茶器。
それだけで、無性に楽しくなってきたの。
「やった!フルーツタルトがある!」
「ハンクさんが張り切ってくれましたよ」
「明日お礼言わなきゃ! エリザベス姫、このタルトはおすすめです」
「こちらのプリンの容器も見てください。鍛冶班渾身の小さいガラスの器です」
「ふおおっ!お猪口サイズ!」
「このトレイは土木班の試作で、竹を並べて繋げたものですって」
「竹?」
「端材加工での実験だそうです」
「うわっ!軽い!」
「ですよね! 今夜はエリザベス様がいらっしゃるから銀食器でと思ったんですけど、やっぱり可愛い食器たちも見てほしくて!」
「まあ、こんなに薄いのに本当に軽いわ……!」
「これいいわね、何に使えるだろう?」
「そんなこたぁ今夜はいらないんですよ!恋ばなしましょう!こ い ば な!」
王都で医師見習いをしていると紹介されたリズが叫ぶと、ルルーがそっとお茶の入ったカップを差し出してくれた。私の隣のサレスティアもカップを受け取ると姿勢を改めた。
何台かをくっつけた大きな大きなベッドの上で、車座になるのは寝間着の若い侍女たちとサレスティアと私。私にとっては初めての女子会。寝間着だとぱじゃまパーティーと言うとか。ドレスでも制服でもない姿で誰かとお茶をするなんて初めてでドキドキする。
「そうだった! エリザベス姫は12時には帰るからね、では乾杯!」
「「「 乾杯~! 」」」
「うまい!タルトうまい!はいリズさん!王都での進捗どうぞ!」
「日々仕事に追われて想定以上に出会いがありません!ゼリーのこのフルフル感!好き!はいお嬢どうぞ!」
「私!? チーズケーキをこの時間に食べる背徳感!たまらん!特にありません!」
「はあ!? うわプリンうまぁっ!! 婚約者がいるのに何もないってどういうこと!?」
「だってまだ子供だよ!アンディは優しいけどぶっちゃけ政略だからね、何もなくていいの!」
「恋人が欲しい女の前でのその発言!許さぬ!!」
「ぎゃー!はははははっ!くすぐり禁止にゃーっ!あははははーっ!!」
「エリザベス様、どうなさいました?」
「に、賑やかなのね……」
「あぁ、お嬢とリズが絡むといつもこんな感じです。それより今王都で流行しているものって何ですか? お嬢やルルーに聞いてもパッとしなくて」
「ライラは理想が高いのよ」
「だってトエルに良いものをプレゼントしたいじゃない」
「トエルさんはライラからなら何でも喜ぶわよ」
「それでもびっくりさせたいの! エリザベス様、男性への贈り物はどんなものが喜ばれますか?」
「ええ!? えぇと、そうね……お父様にはペンやタイピンが喜ばれたわ」
「うわ、どちらもクラウスさん以外に使い道がないヤツ」
「やっぱりタオルがいいよ。作業の時に使えるし」
「実用的過ぎて、刺繍をしても華やかさが足りなくない……?」
「たおるというと、あのフワフワした生地の? え!作業用!?」
農地見学の時に手を拭くのに使い、とても気持ち良くて驚いた。アレが作業用!?
「そうなんですよ。タオルもお嬢の発案で、作るのに少し手間というか糸を多量に使うため、売り物にするにはちょっと値が張るので領地限定なんです」
「お風呂上がりにタオルを使うのがとても気持ちいいんですよ!」
「騎士団とか大量発注してくれないかな……」
「そうなると織り機がもっと欲しいわ」
「タオルに刺繍でも良いじゃない。お嬢だってアンディにあの刺繍をプレゼントしたのよ?」
「あ!アンディの栞!見た?綺麗だったわよね!」
「そうそう!あの押し花栞を見たチムリさんとネリアさんが硝子花瓶を作れないか試行錯誤してるらしいよ」
「え、なにそれ素敵!」
「押し花?アンドレイが?」
「そうなんですよ~!手作りでお嬢が実用的に使えるものを用意するなんて、私らはキュンでした!」
「キュン?」
「二人とも可愛らしいなぁと、胸キュンです」
あのアンドレイが押し花を手作り……確かに少しキュンとなりそう……
「でもそうか、やっぱりタオルか~」
「そんなに悩むなら、必殺の『私がプレゼント♡』にしなよ」
「え、それはどういうことですの?」
「文字通りですよ。使い時は付き合いたての頃だそうですって」
「え……と」
「それをやっちゃったから皆に聞いてるの!」
「「「「「 きゃあ~~!♡♡♡ 」」」」」
真っ赤になったライラを他の女子たちが囲んで質問攻めにしている。小声のところはよく聞こえず、とても気になるけどそこまで踏み込めずにいたら、隣にインディが移動してきた。
「赤くなったエリザベス様も可愛らしい」
「からかわないで……」
「うふふ。好きな人がいる女の子は皆可愛いんですよ?」
好きな人……との間には色々なものがあり、報われないと理解していても諦めることもできない。自然とうつむく。
「ここで、その思いを吐き出していいんですよ」
修道院のシスターのような声音に、インディを見つめてしまった。
「私はまだ恋をしたことはないですが、こうして見ているととても楽しそうで羨ましいです。誰かを特別に思えるって素敵です」
ライラたちを見つめ、そして私ににっこりと微笑むインディ。その笑顔がトラントゥール先生と重なり、頬に熱が。
「ふふふ。エリザベス様の思い人はどんな方ですか? 家庭教師をしているんですよね?」
叶わないのなら何も口にしてはいけないと思っていた。
余計なことは喋らない、王家の者としてそう教育されてきた。
「女子会は、何でも口にしていいところです。たとえ叶わない望みだとしても、叶ったら、という夢を見られるところです」
インディを見つめる。と、人差し指を唇の前に持ってきたインディは茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「女子だけの秘密です」




