書籍第1巻発売記念臨時SS! ④【ちょっと昔のニックとルイス】
※セリフ多し
団長の銅鑼のような声が響く。
「だから!作戦を覚えろよおおおおっ!」
耳の穴に指を突っ込んでいたニックは外してからヘラリとした。
「途中までは覚えましたよ、俺だって」
「全部覚えてから参加しろって毎度言ってんだろうが!?」
「今回もうまくいったからいいじゃないすか」
「結果はな!いずれはお前に長の付く役職を任せてぇんだよ俺は!俺だって頭使いたくはねぇんだ!楽してぇんだよ!てめえが実は頭使えるのはわかってんだぞニック!コノヤロウ!」
「なんで頭突きも得意だって知ってんすか?」
「そういうことじゃねえええええっ!?」
「団長、そんなに大声ばっか出してるとハゲますよ?」
「抜けて落ち込む所はもう全てないわ!見りゃわかんだろうがボケがああああっ!!」
*
傭兵団の新兵部に戻って来たニックは布を敷いただけの寝床に転がった。同室のルイスが武器の手入れをしつつ苦笑する。同室といってもテントだが。
「うぃ~終わった終わった。団長もしつこいよな~」
「おつかれ。それだけ期待されてるって事でしょ?羨ましいね」
「そうか?じゃあルイス、俺が団長になったらお前は副長と事務経理と営業と斥候と買い出しに決定だからな」
「なんでそんなにやらされるの!?」
「俺がやりたくないものは全てお前に任す!」
「ガキ大将か!」
「そうそう、俺はガキ大将までの男だ~よ」
小さい頃に団長に拾われ今までたくさんの世話を焼かせたが、戦力と数えられるようになってまだ数年。長が付くにはまだ経験が足りないと自覚はしている。
「長っていうなら視野の広いルイスの方が向いてると思うけどな」
「そう?ありがと。俺は弓部隊だからニックよりは戦況の見える所にいるだけだよ」
「おかげで何度も命拾いしてる。戦い以外でもお前のそつのなさは感動するよ」
「素直に褒めてくれる? 誰かさんのおかげで我ながら人当たりが良くなったよ、まったく」
「それはそれは。誰かさんに感謝だな~」
「そういうとこ!」
傭兵団は正規の騎士や兵士にはなれなかった、またはなり損なった者たちの集まりである。それでも武力は騎士団にも次ぐことが多く、依頼があれば戦争以外にも魔物退治などにも行く。戦闘依頼がなければ土木工事や耕作にも出る。
ハスブナル国が大人しくなって数年経ち、戦闘依頼は魔物退治に年々移行しているが、傭兵団の経営としては少々苦しい。
ニックとルイスの所属するこの団は略奪は厳しく禁止されていたが、それにかわる褒賞金は依頼主に貰えていた。が、畑相手となると現物支給になる方が多い。だからと別な仕事に就ける率は低い。
ニックの武器は大剣。剣と名は付くがほぼ鈍器である。装飾のない片刃の剣は団長の真似だ。団長のように使いこなすために己を鍛えた。敵の馬までも斬れるようになったニックのそのパワーで難所を越えたことも多い。新人だが団で重要な戦力である。
「拾ってもらっておいてアレだけどさ……」
「……うん?」
「こう平和だと、俺をもて余すんじゃねぇかな、とね」
「……あー、それはニックだけに限らないよ。なんだかんだ血の気の多い人の集まりだし」
「まあな。そのせいで俺とばかり組まされてルイスには悪いと思ってんだ。これでも」
「なに急に。死ぬの?」
「お前俺をなんだと思ってんだ。まあいいや。近いうちに団を抜ける」
「え!?」
「今回の魔物の大繁殖期が落ち着いたらな」
「なんで!?」
「まず団長の後釜を狙ってると思われるのが面倒くせえ。団長は俺に継いで欲しいとは思ってねえし、長を付けようとしてんのはサボリ癖を直すためだ」
「わかってるなら何で?」
「腕試しがしたい」
「……は……」
「俺は強くなったと思う。俺がただひとりでどこまで通用するのか知りたい」
ルイスは目をキラキラさせたニックに呆れた。
「いつか帰ってくる、とは言わないが、気が向いたら手紙を出すよ」
せめてにして唯一の生存報告方法にさらにルイスは呆れる。長いため息を吐き出すとゆるりと立ち上がり、横になっているニックを見下ろした。
「じゃあ、誰でも読める字が書けるようになったら出て行ってくれる?」
「あ?お前俺をなんだと」
「字の壊滅的にきったねぇガキ大将だよ!解読できる字が書けるようになったら手紙って言えこのデクノボウが!」
「ぁあ!?テメエその小綺麗な顔面今日こそ潰してやらぁっ!表に出ろルイス!コノヤロウ!」
ニックが即座に立ち上がりルイスの胸ぐらを掴んでテントから飛び出る。
「できるもんならやってみろ!今日こそその頭カチ割って辞書を突っ込んでやる!」
少し昔、小汚ない小僧たちが傭兵団に拾われて、怒声と拳骨ですくすくと育った。
力のニック。技のルイス。
それからほぼ毎日行われる二人の喧嘩に今日も頭を抱える団長。
「誰だあいつらを組ませたのは……」
「ははは、団長でしょ」
「そうでした! ……はあぁぁったく。しようがねぇガキどもめ。体ばっかデカくなりやがって」
若い二人のどちらが勝つか団員たちが賭けはじめた中を、団長は嬉しそうに袖まくりをしながら進んだ。




