洗濯場より愛を込めて
メイン:洗濯婦のケリーおばさん
時系列:お嬢の結婚式(本編:続続55話 怒涛です。)
(約1300字)
『こっちも生きてる! マーク、荷車に乗せるわよ!』
その幼く甲高い元気な声は、私の体と一緒に意識を引き上げたのさ。
*
「む~り~ぃぃ! うあああああ~ん!」
領民総出で準備をして待ちに待った結婚式に、お嬢は私らの予想を遥かに上回る大泣き。
服飾班が気合いを入れ過ぎて目が充血するほどに張り切って作った純白のドレスにお嬢の涙がどんどんこぼれ落ちる。
領民の結婚式には「せっかくだから派手にね!」といつも楽し気に裏方を仕切る癖に、自分がされる方になると途端に子供のようになるんだね。
「あっはっは! 泣いちまったね~!」
「ほんと、花嫁があんな大泣きするのを初めて見たよ!」
「さすがは我らがお嬢だ! あっはっは!」
ご領主の結婚式だからと領民もおめかしした。と言っても手近にあった花を、女は髪に飾り、男は胸元に挿す簡素なもの。
そんな普段着で参列しても、お嬢もその旦那になるアンドレイ王子も喜んでくれる。よく出来た子たちだ。
そう。私から見れば孫のようなお嬢は、小さい頃から呆れるほどによく動いた。
平民にすら禁忌と知られる黒魔法。それで作ったイヤーカフ。姿も見えない所に離れた場所の人と話ができると説明を受けた。
慣れるまでは毎日使うと聞いたはずが、その会話の最中にお嬢はいつも洗濯場に現れた。姿は見えないはずじゃなかったのかい。
今日の調子はどう? 不具合はない?
目的地までのついでに寄っただけよ~。いい天気ね!
ちゃんと休憩してる? ハンクさんの新作お菓子ね、あとで御披露目だって!
毎日洗濯場に現れる領主なんているのかね。一日に二度は来て、一人ずつ何かを喋って行く。どんなに忙しくても毎日一度は必ず顔を出す。
ねぇねぇ、ちょっとさ……なんとな~く淑女に見える方法を一緒に考えて……
何だって淑女の勉強が一番辛そうなのかね。生粋の平民がそんな方法を知るわけないじゃないか。頑張んな。
ご!ごごごごめんなさいいいい!!
促進魔法で種から花を咲かせるのはいいけどね、何だってその上を転がり回るんだい。せっかく新調した服に変な染みができちゃうだろう?
「ふふふ、あのお転婆がようやく淑女になったと思ったけどね~」
「クラウスさんと現れた時の涙が乾いちまったよ、ふふっ」
「せっかくの花嫁おめかしが台無しだぁね、あっはっは!」
貴族と関わる事がなかった私たちにだって、お嬢ほど表情がクルクル変わる貴族様はいないとわかっている。
けれど。
その表情の豊かさに甘えた。
孫のような歳の子供に甘えてしまった。
あの小さな体は、これでもかと、私たちを甘えさせてくれた。
お嬢。
どれほど感謝されているか、わかっているかい?
どれほど愛されているか、わかっているかい?
その小さな体は、私たちを抱えてもビクともしなかった。
惚れたね。
その幸せでぐずぐずな泣き顔も惚れ惚れするよ。
お嬢にそんな顔をさせる事ができて誇らしい。
お嬢。
ずっと一緒にいて欲しいけれど、嫁に出すことができて嬉しいよ。
幸せにいておくれ。どこにいても。
平穏を過ごす事がどれだけ私たちの幸せかを、迷わない貴女に逢えて。
私たちは、私たちらしく生きられている。
だからお嬢。お嬢がどこにいても。私らはここにいるよ。
何かあったら、いつでも頼っておいで。
はー、久しぶりに贅沢キャラを投稿できました。
お読みいただき、ありがとうございます(●´ω`●)




