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我が儘

メイン:アンディ

時系列:前話『高嶺の花』の後


(約1700字)




ドロードラングの食堂からラトルジン領屋敷に戻ったアンドレイとサレスティアは侍従長や侍女長に荷物を預けると二人で執務室に入った。


ハンクから受け取ったかごには夜食が入っている。残った仕事を持ち帰って来るアンドレイの補佐をサレスティアがするのも二人の日課だった。そして領地のものは侍従長が急ぎのものを中心にまとめていてくれる。


サレスティアは実家で十分に食事をしたので、アンドレイに温かいタンポポ茶を淹れる。職場ではコーヒーを飲む事が多いので家ではいつもこちらだ。


「ありがとう。ルルーの様子はどうだった?」


かごから夜食用ハンバーガーを取り出し、かぶり付きながらもペンを持ち書類にサインをし始めるアンドレイ。サレスティアは忙しい時ほど行儀の悪い夫に苦笑しながら自分の分のお茶を淹れる。


「出産後はさすがに疲れてはいたけど、今回はお乳の出もいいみたい。赤ちゃんと共に元気だったよ!……良かったぁ」


サレスティアは注いだカップを両手で持ち懐かしむように微笑んだ。そして自分の仕事机に着く。


今回ルルーは二人目の出産である。一人目は出産まで陣痛が長く掛かり、安産ではあったが母体であるルルーの方が参ってしまった。初産の気負いからか酷い貧血になってしまったのだ。そのせいか体調が戻っても乳の出は悪く、結局ルルーが子に自分の乳を飲ませられたのは産まれた直後だけであった。


サレスティアの子の乳母をするつもりもあったルルーはだいぶ落ち込んでいた。しかし、すくすくと育つマークに似た娘はそんな母親を待ってはくれず、娘に弟妹をと思わせるまで回復させた。


その二人目は男子で、こちらはルルーに似ているらしい。


「不思議だよね~」


サレスティアは書類を確認しながらアンドレイを見ずに、性別とかどこで似るのかしらねと楽し気だ。アンドレイもそんなサレスティアにほっとする。


「じゃあ、ルルーに乳母を頼めるね」


サレスティアは大きく頷いた。が、その後に間があいた。アンドレイは不思議に思い顔を上げると、サレスティアは申し訳なさそうにしていた。


「ごめんね、最初の子の乳母にはルルーになって欲しいって我が儘言って……」


それは何度も話し合った事であり、反対する理由もないアンドレイは特に気にしてはいなかった。もともと後継にはうるさく言わない祖父母であるし、誰も急かしたりはしていなかったはずだ。

だがやはり女性の方がそこは気負うらしく、どこかで赤子を見かける度にサレスティアは申し訳なさそうな顔をした。


サレスティアの方がルルーより若いし出産適齢期間に余裕がある。だが玄武がついているとはいえ出産は命懸けだ。不安は少ない方がいい。

なにより、サレスティアの願いを叶えないという選択肢はアンドレイには無かった。


「それは僕には我が儘じゃないよ」


「……アンディは私を甘やかし過ぎ」


苦笑しながら頬を染める行為がどれ程アンドレイの理性を揺さぶるのかサレスティアはまだ自覚しない。こういう時は書類を睨むに限るとアンドレイは学んだ。


結婚して箍が外れやすくなっているのはアンドレイの方である。

ある日祖父に「毎夜はやめなさい」と窘められた。祖母からの伝言だとも言われ、アンドレイはサレスティアの体調をことさらに気遣うようになった。


毎日一緒にいられる事のなんと素晴らしい事か。

子供がいる生活も楽しいだろうが、サレスティアを独占できる今も捨てがたい。アンドレイは毎日そう思っている。


「あの……相談があるんだけど……」


「ん?」


再度顔を上げれば、今度は顔を赤くしたサレスティアが両手で頬を押さえながら挙動不審になっていた。


「どうしたの?」


うぅ恥ずかしいと言いながらしばらくもだもだしていたサレスティアは、執務室に二人きりだというのにアンドレイのそばまで来て小声で言った。


「い、忙しいのは分かっているんだけど……あの、あのね……か、亀様がね……こ、今夜は……こ、こ、子種をもらうといいって……ふぎゃあ!」


アンドレイはサレスティアを抱き上げるとそのまま寝室へと向かった。


どんなに忙しかろうと、サレスティアの願いを叶えないという選択肢はアンドレイには無い。





そして十月後、ラトルジン公爵家に元気な男の子が産まれることになる。











イチャラブには少し足りないですかね…?

でもアンディの溺愛ぶりは……コレ…溺愛かな…?←(笑)


ルルーは二人目の出産になりました(^-^;


お読みいただきありがとうございます。



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