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第24話「ペットからの通知表」

 駄菓子屋の奥で邪神様と魔王は駄菓子をつまみながらお仕事中である。

 北の地方とはいえ夏は暑い。

 しかしこの駄菓子は違う、空調完備である。しかも店主である冴子さんが買い取った時点で大幅な改修工事を施しており、断熱性も最近の建物ばりに高い。それで何を言いたいかというと……駄菓子屋という一見古そうなイメージで一室を借りて働く邪神様たちだが、反面めっちゃ快適である。

 いつものように邪神様と魔王様はたまに冗談を挟みながら仕事をする。しかし、今日はいつもと違った。


「社長。お昼の準備してきますね」

「おう、いつもすまんな」

 邪神様はいつものように軽く手を振って返事をした。


「……大神さん。良かったの?」

 バイトとして業務補助をしている……勇者正の妹、あかりの友人であり、邪神様が描いたシナリオでは悪役令嬢、そんな複雑な背景を持つ女性『大神 真由美(16歳)』である。

 黒髪ロングの美少女で清楚な外見、出自も名家のお嬢様。なぜこのような辺境地域の平凡な高校にいるのか? それは名家であるがゆえ、勇者本家との交流のため編入していた。

 高い教養を窺わせる所作は名家の教育と、本来彼女が持ち得ていた『前世の記憶』から来るものである。

 そう、先ほど席を立った魔王の嫁である。

 前世も権力者の娘として生まれ、政治的な駆け引きや社交界での立ち回りを自然と身につけていた人生だった。

 だから邪神様は問う、今世もこのままでよいのか?と。


「業務のお手伝いは勉強になりますので、願ったり叶ったりです」

「……そか〜」

 神である邪神様。可能であれば同じことを続けてほしくないという思いがある。


「でも、今世は今世だよ。あいつだってそれを気にしてると思うよ。あと、おっさんだし」

「いいんです。あと、私が死んだ後のあの人を知っているので……今度こそ幸せにしてあげないと……。渋いおじさまは大好物です。あと、おじさま×おじさまも良いかと」

 えっ と呟いてほんの少し距離をとる邪神様。『若いのに……腐ってやがる』とつぶやく失礼な邪神様。


「……ええ、今度こそ」

 良いセリフを言う大神だが、邪神様の耳には入ってこない。怖いので。


「できましたよー」

 そこで救いの声が聞こえる。

 邪神様は思った『魔王、ガンバレ。そしてこっちみるな!』と。


 ジャシン ハ マオウ ヲ イケニエ ニ ササゲタ


ーータマ視点

 吾輩は猫である。名前はタマと言う。

 今は正というこの施設の主の膝の上で丸まっている。

 吾輩お気に入りの特等席だ。


「ぐるるるるるぅ」

 撫で方が上手い。良きにはからえ。

 正は吾輩の縄張りで最も気遣いのできる良い人間である。

 この男の膝の上は心地よい。もっと撫でるが良い。


「はぁ……」

 正の手が止まる。

 むむ、悩みか? 正。聞いてやろう。


「にゃぁ」

「……ああ、なんでもない。大丈夫だ」

 むむ。真面目なやつほど溜め込むのだ。

 こぼせ。愚痴を吐き出せ。吾輩は頼れるのだ。聞いてやろう。


「……はぁ、そうだな。タマに対して気を張っていても仕方がないよな」

 聞き捨てならないことを言われたような気もするが、吾輩に相談できるのは良いことだ。

 さぁ、聞いてやろう。


「なぁ」

「タマは優しいね〜」

 ふっと目を細める勇者正。


「まずは邪神と魔王だな……」

 高位存在のお方とそのお世話係の方だな。


「あいつら……何がしたいんだ? 話では『世界を崩壊させる』とか『人々に悪意を撒く』とか典型的な悪役行動を取らないんだよ! なんだよ!?『封印サービス』って?? そもそも何がしたいんだよ?? 普通に20年以上日本で社会人してるとかなんだよ!? ひょっこり顔を出した時『終わった、この世界』と過絶望感に浸った俺の感情を返してくれよ……」

 うむ。昨年高位存在のお方がいらした時は吾輩も世界終了を覚悟したものだが……まぁ、高位存在のお方の考えること、我ら矮小なる地上のものが想像しても仕方ないものだ。


「にゃ」

「……そうだな。あいつらのことは考えるだけ無駄だよな……でもあいつらが何かしたら……今でも天使様とかがたまに降臨して来るのに……うう、胃が痛い……」

 ご苦労、吾輩は頭をすりつけ少々甘えた声をあげる。正よ吾輩で癒されるが良い。


「はぁ……タマは優しいね……」

 正は胃を抑えながら吾輩の頭を撫でる。良い撫でテクである。


「まぁあいつらは今のところ無害な邪神と魔王だから……もうね、諦めてるよ。でもまだあるんだよ……タマ、聞いてくれる?」

「にゃ」

 まかせろ。吾輩がドンと聞いてやろう。


「……勇者ってなんだろうな……妹の灯が高校を卒業するまでは……と頑張ってきたけどさ……なんだよ権力闘争とか、10代の子供を巻き込むなよ……そもそも俺が勇者本家を継ぐことになったのは政府や分家の連中の怠慢を親父とお袋が被ったからだろ? なのに残された家族に対して同情はないのかあいつら……」

 むむ、吾輩には難しい話である。そしてこの話が正にもっとも負荷をかけている内容のようだ。


「……畑野さんも大臣も登場して来る味方……偉い人すぎてどう対応していいか未だわかんねーよ! 大臣は言わずもがなだけど……畑野さん、あんな感じでも民間異能関係のトップだぜ? 分家のみんな、あんな危ない人と敵対してよく持ってるよ。でもかなりストレスかけているからさ……どうなるか俺、そっちの方が怖いよ」

 ふむふむ。


「あと、分家の連中。恩も何もないんだよ。なんだ? うちの爺さん婆さん親父にお袋が命をかけて守った物や、その功績は自分のものって? 『勇者一門を守るためです』って何も知らない子供を騙すには綺麗な言葉だよ! 畑野さんや大臣が介入してくれなければ、どうなっていたことか……」

 ほうほう。撫でる手を止めてはいかんぞ。


「……もう封印の勇者とか面倒だよ……」

「にゃぁ」

 吾輩は短く鳴くと、じっと正を見つめた。


「……そうだな、短気は良くないよな。遥か昔のご先祖様から受け継いだ仕事だ。俺には次に繋げる義務があるよな……でも、少し気を抜く時間ぐらいいいよな」

 正は溜息をつくと、吾輩を撫で始める。

 良い。正は頑張っておる。存分に吾輩で癒されるが良い。


 しばらくすると、正は立ち上がって伸びをして仕事に戻って行った。

 ふむ、不満の抜きどころが大事。吾輩、大事。そういうことだ。


 正がいなくなったので定位置に戻って丸くなった。

 少し時間が過ぎると正の妹、灯がやってきた。


「にゃあ」

「……」

 相変わらず何をやっているのだ? この娘は?


「えー、今日もダメか……仕方ない」

 あかりは懐からおやつを取り出した。


「ほーら、猫まっしぐらなおやつだよー」

 舐めるな! おやつは袋から出してこそのオヤツだ! 早く出すのだ!


「ははは。タマは食いしん坊だね」

「灯、あまり意地悪するのはダメよ。あとオヤツ与えすぎもダメよ。肥満になったり、こはん食べなくなったりするからね」

 灯の横からひょっこり出てきたのは灯の友人大神。怖いメスである。

 あと吾輩完璧なバランスで食事をしておる。そこには灯りが持ってくるオヤツも含まれておる。早よ早よ!


「ジー(くれ、早く!)」

「タマはかわいいねー」


「ジー(かわいいのは当たり前である。それより早よ!)」

「……お手」

 ……下僕よ。犬畜生とお猫様を一緒にするとは良い度胸だな……。


「灯、タマが怒ってるよー」

「ああ、ごめんごめん。タマ、お茶目だよーお・ちゃ・め」

 今宵の吾輩の爪が血を求めておる……。


「……タマ様、本日の献上品でございます」

 うむ。良きにはからえ。

「あなたたちの関係性がわかったわ……」

「タマ、かわいいよねー」

 ふむ、灯よ。貴様は兄の正を見習うのだ。性格の違いはあるが、貴様には期待しておるのだぞ?


 少しの間、灯とその友人である大神の相手をしているとフロントの方に外国人集団がきていた。

 宿泊客のようだ。先日来変なダンスと呪文の練習をしていた奴らの代表が本日から宿泊するようだ。

 吾輩、貴様らにも少し期待しておる。頑張るが良い。

 たまに練習風景を視察に行くからな。準備は怠るでないぞ。……わかるな?


 その対応をしているのは正の部下たちだ。吾輩、こやつらのことが好かん。きっと正が不満を持っていた奴らの手先なのであろう。この施設運営に欠かせない人材として入り込んでいるが、忠誠心が見えぬ。しかし正はこの者どもに頼らざる得ないのだ。それも正の精神負荷となっておる。痛し痒しである。


 人間は色々あるなとこの施設を眺めていると落ち着いたのか恩知らずの従業員の1人が近寄ってきた。

 正に裕兄と呼ばれている男だ。吾輩、この男が嫌いである。

 嫌な匂いがする。正はこのような輩によく耐えられる。


「ヴー」

「タマ、今日もいい天気だね」

 吾輩の警告をものともせず、吾輩を抱き上げる正に裕兄と呼ばれている男。

 不覚! この男いつの間に!!

 吾輩に触れるために異能を使ったのか! ぐぬぬ、この男、やはり好かん。


 その後正に裕兄と呼ばれている男は吾輩で遊び続け、吾輩は終始不機嫌であった。

 次はこの手は食わぬ! 覚えておけ!!

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