人間描写と小倉秋文
ここ数日ですが、ぽかぽかと温かいですねぇ^^ 私の住む場所は線路の大幅な工事が終わりまして、山手線が少しだけ面白い事になってますねぇ^^ こういう自分の地域の昔の姿とかも以前に公開したWeb小説内で残していける事も案外素敵な事なのかもしれませんね!
倉田秋文は古書店『ふしぎのくに』へ来る途中、目の前で倒れた老人に付き添い病院に来ていた。朝から古書店『ふしぎのくに』に行くハズだったが、一日空けているので少々遅れても良いかと思って、セシャトに出してもらっていた『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』の疑似小説文庫を開いて読み始める。この作品は秋文の心を打った。
秋文はそもそも、こういった現代をベースにした小説を実は好む。大人の恋愛、知りたくなかったような大人の関係について……こういった作品を読むだけで自分も少し大人になったようなそんな気持ちになる。
ハルという謎の少女と出会った駆と花蓮。そして話が展開していくにつれ、それが中々にファンタジックなものである事も秋文好みであった。小学校の図書室ではまずお目にかかれないような本作に秋文は何度も読み返す。
「大人って大変そうなんだけど、なんだか僕等の会話みたいだな」
普段みる両親はいつも自分に優しくて、そして何でも知っている。それは秋文が関わる全ての大人がそうだ。
特に小学校の先生なんてその知識の深さと量に尊敬すらもしている。だけど、秋文も街中やショッピングモール等で大人げない大人を何度か見た事がある。
公衆の面前で喧嘩を始めるカップル。店員に大声でクレームを言う老人、秋文は小学校で似たような喧嘩を見た事があるなとそう思い出す。
「ハルちゃんは一体何を言いたかったんだろう……これはセシャトさんが言う、作者のこの時の気持ちを述べよ……だ!」
作者のこの時の気持ちを述べよ2019。
古来、国語や現国のテストにおいて、小説や創作分の文章問題を読み、作者のこの時の気持ちを述べよ。という問題が出題されていた。出題問題の文章を書いた作者の娘が父親にこの時、どんな気持ちだったかを聞いたところ、〆切の事しか頭になかったと答えたという有名な珍事件があったらしいが……
そんな屁理屈の話ではない。
作者というのは、その本文における主人公やその文節から感じる文章の伝えたい事。という意味である。
例えば、本紹介小説を読んで”この時の気持ちを執筆担当に聞けば、6作抱えてる状態で死ぬかと思った”というのがこの時の執筆者の気持ちだが、本文で伝えたい事は……
”文章の伝えたい内容を読めコノヤロー”
という事を秋文は考えているだろう。
そして、秋文は駆に自分を重ねて読んだ。もし自分が駆なら、はたして自分はどうするだろうか? これは答えのない質問。駆と同じ道を歩むという者もいるだろうし、違う道を歩むという者もいるだろう。
秋文は本作に同化した。そして感受性の強い秋文は泣いた。彼は理解してしまったのだ……どれだけ、何度も秋文は頭の中であらゆるパターンを考えた。子供である秋文が一生懸命、大人である駆の気持ちを考え、三重奏というお菓子は売っていないので、病院の売店で売っていたアルフォートを食べながら考えた。
「僕は……何度考えても駆さんと同じ気持ちになるんだ」
『カフェ・ルポゼで会いましょう 〜コーヒーとめんつゆの違いが分かる男〜』同作者の作品。秋文はこちらも実は読み終えていた。
ブックカフェといえば、セシャトにそっくりな男性。声と物語に命を乗せて紹介をするトトのブックカフェ『ふしぎのくに』で本作をオススメされた。
そして、これは11月に『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』を皆で読みあおうという布石だった事を今更になって気づいた。
しかし、秋文は自分の心が荒ぶっているのが分かる。
あの不思議な古書店『ふしぎのくに』オールメンバーが集まり、一作を楽しもうというのだ。どんな考察が、どんな感想が聞けるのか今から楽しみでしかたがない……
そんな事を考えていると、秋文が助けた年配の女性と、そのご家族と思われる人達が秋文のところにやってきた。
「ウチのお祖母ちゃんにご親切にしていただいてありがとうございます!」
「いえ、僕は当然の事をしたまでです」
大人に大人扱いされる事に秋文は慣れていなかった。大人から、こんな対等にお礼を言われるなんて今まで経験が無かった。
「何かお礼を」
大学生なのか、社会人なのか大人の男性は財布を取り出すと一万円を数枚取り出して秋文に差し出そうとするので秋文はそれを断る。
「そういうは結構です! おばあさん、元気になってよかったです! じゃあ僕は約束がありますので!」
秋文にも何か用事があった。その用事を蹴ってまで助けてくれていた事に男性は秋文にタクシー代だけは絶対に出させて欲しいとそう言われ、頭まで下げられたので秋文は男性が半ば無理やり渡してきた一万円。御釣りは取っておいて欲しいという事で秋文はそれもしぶしぶ承諾。
秋文が読んだ救急車が年配の女性を運んだ九段坂病院から古書店『ふしぎのくに』がある神保町まではタクシーで500円前後。
ほぼ丸々諭吉様が残る。
「何か、セシャトさん達にお土産でも買おうかな……やっぱり、この作品だしチョコレートかな?」
秋文は、そういえば神保町に面白いお店がある事を思い出した。キャンディーブーケというチョコレートやキャンディーを花束のように包んでくれる素敵で可愛らしいお店。丁度、残ったお金で一つ購入できそうだったので秋文はタクシーに行き場所を伝えた。
「未来ちゃんは、このお店の店内も好きそうだな」
秋文は作品の事を思い出しながら商品を選んでいた。カフェも雑貨屋もセンスがものをいうお店である。
それは古書店もそうかもしれない。秋文は未来の気持ちがよく分かった。また来たくなる。そんな魔法みたいな力がお店作りにはあるのだ。
未来という少女の誕生日会について、秋文はなんとも言えない気持ちになる。この作者の筆運びの見事な事……とでも神様やセシャトなら言うのだろうかと彼は思う。
岩見という、やや鼻にかけたキャラクターが当初出てきた。古書店『ふしぎのくに』の面々は案外彼を気に入っていたが、子供である秋文は全力で彼の事が好きではなかった。
その岩見が……気を遣っているシーンに、涙腺が緩む。
嗚呼、人というのは完全な正義になれないように、完全悪にもならないという証明のようだと秋文は感動する。
そんな秋文はゴツンと誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
謝罪する秋文、秋文がぶつかった相手は綺麗な男の人だった。無表情の女性と一緒に同じく店内を楽しそうにしていた男性は秋文の目線に合わせると頭を下げた。
「これはこれは愛らしい紳士だね。僕の方もよそ見をしていて申し訳ない。君もキャンディーブーケを?」
優しい男性だった。
そして、彼を見ると以前小学校にいた女の子を思い出した。彼女には兄がいると聞いた事もあったのでこの男性に尋ねる。
「もしかして、アリアちゃんのお兄さんですか?」
「アリア?」
「総帥、お嬢様の事です」
「お嬢様? あぁ、アレの事か……君はアリアのお友達かい?」
「はい! アリアちゃんとはよく本についてお話をしました。アリアちゃん元気ですか?」
秋文はこのかっこよくて優しい男性に少しだけドキドキしてしまう。
「メジェド、アレは元気なのかい?」
「はい、お嬢様は研究棟で……」
「うん、アリアは元気だよ! 君は……」
「秋文です。倉田秋文」
「秋文君か、とっても素敵でこの神保町に合う名前だね? おや! それはもしかしてWeb小説かい?」
幼い子供が玩具を渡されたような目でアリアの兄は秋文の持つ疑似小説文庫に触れると一瞬鋭い表情をみせた。そして速読で読み込むとほほ笑んだ。
「これは恐ろしいくらい作りこまれた作品だね! そしてこんなハイクオリティーの作品を楽しめる秋文君は文才があるようだね」
物語を楽しんでいる秋文に文才があるとアリアの兄は言った。文才とは何も巧みに文章を操る才能だけではない。文学的才能があるという意味も同時に持つのだ……ただ、作品を心から楽しめる人は文章もわりと面白い物を書く。アリアの兄はどの意味で言ったのかは誰にも分からない。
「僕に文才はないと思いますけど、この作品、本当に面白いですよね! 出てくるキャラクターが皆息をしているようです」
「うん、僕もスタッカートのようにこの作品からは鼓動を感じるよ。でも駆君は解せないね。僕なら全てを救って見せるよ。人間は古来より、ありとらゆる不可能を可能にしてきたのさ。人間は運命だって従わせる事ができる。僕はそう思うよ! だって言うじゃないか、事実は小説より奇なりってね」
ウィンクをして冗談っぽく笑う。なんだか、秋文はセシャト達。古書店『ふしぎのくに』のメンバーと話しているような気分になる。だから自然に聞いてしまった。
「未来ちゃんに関してはどう思いますか?」
「お姫様かい? う~ん、そうだね。アリアが小さかった頃に似ていてとてもリアルな表現だよ。秋文君は思ったんだろ? 大人だけじゃなくて、子供の描写も上手だなって」
「はい! そうなんです」
この人は凄いとそう秋文が思った時、アリアの兄はこう補足した。
「でもね? このくらいの幼児は意外とまわりをよく知っている。だから、もう少しあざとく描いてもいいかもしれないね。さすがにこれは秋文君には分からないよね! そろそろ何か買って店を出ようか?」
秋文は最初から目をつけていた商品を、アリアの兄は彼が購入したキャンディーブーケと、東京ドームシティで購入していたゴディバチョコレートを秋文に渡した。
「これ、僕の代わりに古書店『ふしぎのくに』い渡してくれないかな? 行きたいのはやまやまなんだけど用事ができちゃった」
秋文はこのアリアの兄も彼らの事を知っているからこんなに物語を話すのが楽しいのかと快く承諾する。そんな秋文にアリアの兄は頭を深く下げてお礼を、そしてもう一つ言伝を秋文にお願いした。
「書の悪魔を引っ張り出す準備ができたと神様に教えてあげてね」
「えっと……はい!」
秋文はよくわからない伝言を受け、そしてようやく古書店『ふしぎのくに』に参加する事ができる事に胸が高鳴った。
さて、残すところあと1話ですが、秋文さんがようやく登場ですよぅ! そしてクリスさんとお話をされましたねぇ! 書の悪魔とはあの方でしょうか? クライマックスはどんな姿を見せてくれるのか、今一度『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』を読み返しながらお楽しみいただけると嬉しいですよぅ!




