読みたくなる物語が持つ二つの条件
えぇ、ここで皆さんに謝罪致します。古書店『ふしぎのくに』メンバー達がインフルエンザで次々に倒れています>< 色々な事が後手後手に回ってしまっていますので何とか人員を補填しつつ乗り切りますよぅ!
トトが店番をしてくれているので、セシャトは本格的な休憩を取らせてもらっていた。そして神様とヘカが勝手な事をしない為の見張りでもある。
「カレーライスは皆さんで食べるから美味しいのですよぅ!」
二人並んでパンケーキを食べる神様とヘカにプンプンと怒りながらセシャトはそう言うが、二人はセシャトの弱点も知っている。
「セシャトさん、11月コンペ大賞作品について語るん! 丁度、二章のホワイトなんな?」
セシャトはWeb小説に目がない、そう言われると当然返すのがセシャトである。
「凄惨な事故が起きてしまいました。駆さんは、我に返ると非常に疲れてしまいます。日本人というのは世界中の人種の中でも不安に陥りやすいと言われています。但し、それ故に心的ストレスには強い傾向にあります。そんな状態でも、ハルさんの変化を見て頭が追い付かないでしょうね。そして読者の違和感がやっと物語に追いつきました」
セシャトはこういう独特な表現を稀にする。そもそも不思議な少女であると認識しているハルに対する答えが突如としてここで語られる。
なるほど、本作はそちらの物語なのかと……
「細谷守調なんな? この作品はジャンルとしてどうなるん? 本来死ぬべきだった花蓮を過去の情報から助けたん。これってSFなん?」
本作を好んで読まれる読者からすると、このシーンから期待感が大いに高まるだろう。どうなるのだろうか? 興味が尽きない。
「並行世界と並列世界の考え方であろう? これに関しては周期思想まで含めねばならないのだが大いなる矛盾というやつだの」
タイムパラドクスやタイムマシン理論に関して必ず考えられる事がある。
「神様、それはどういう事でしょうか?」
「例えば、未来から来たサイボーグが未来で世界を救う英雄を過去まで殺しに来たとするであろ? 上手くその英雄になるハズの奴をブチ殺したとする。だが、サイボーグのいる今、殺したそいつが本来の今で残した功績、また殺人サイボーグが未来から過去に来たという事実はどうなるのか? という事だの」
過去改変ができないように未来改変ができない事。起こしたのはその時点での選択が成功したというただその事実だけが残る。
「過去改変で存在しなくなる人がいるという事はどうでしょう? ドラえもん等でよくあるアレですね」
ハルという未来人が過去改変で消えてしまう事。それに関して存在する矛盾。そもそもハルという存在は今にいないハズなので、そこに彼女が出現するという事が、矛盾の理屈に入らないという事。
「普通に考えると並行世界を理屈で語るのが難しいという話だの。これは、その作品が何処に重きを置いているかなのだ。ここではギミックとしてハルという未来人が存在し、本作は並行世界理論が通用する世界観であるとう事だの。この作者が書きたい物というのは、世界観設定等ではなくて、人間の描写とその関係性みたいなものであろう?」
「ここでのホワイト、ホワイトチョコレートとかけている章ですが、作中のキャラクター、もとい主人公の駆さんは違う意味で真っ白になってしまいますよね」
上げておいて落とすという、基本から上級まで使われてきた手法がここで展開する。花蓮はどうなるのか……ハル?
いや、そんな事よりも駆という人間に関して新たな情報が入ってくる。それは今まで読者が想像していないものであると言えよう。
「盛り上げどころをよく本作の作者さんは分かっていますよね! 最初の盛り上げはハルさんという記憶喪失の少女との出会いでした。そして彼女の持つ予知能力とも思えるような情景、そこをまだ気になっている中で、そんな事を一瞬忘れてしまう、駆さんの新情報」
そこでセシャトはブラックコーヒーを一口飲んで目をつぶる。
「確かにの、数ある作品群の中からこれが受賞した理由を一つあげるとすれば、読者を離さない作り方が実に巧妙だという事だの。作品の作りこみとしては明らかにWeb小説のそれを越えておる」
神様をしてそう言わせるように、中編故と言ってしまえば元も子もないのかもしれないが、盛り上げ、そのまま灯った読書欲が収まる前に本作は終了する作りをしている。
展望台で広がる世界を見渡し、美しいなとそう思えたところで読み終わるような、そんな仕掛けが施されている。
「まぁ、そこはヘカも認めるんな? でもヘカの方が凄い作品を書けるんよ! そういう意味ではこの作者はまだまだなんな!」
そうヘカが言う言葉を誰一人として聞いてはいない。本作が何故三重奏なのか、そのあたりを章タイトルからも気にしている読者はいるだろう。
自称人気Web作家のヘカが本作を認めるように、作品の筋にブレがない。意外とこの流れを作る事がWeb小説において難しかったりする。
何故か、自作のキャラクターにどうも作者は甘い傾向にある。作者と作品のキャラクターの距離感とでもいうべきなのだろうか?
本作の作者は、そういう意味では作家である。
作品を作りのギミックとして一番大事なキャラクターとの付き合う距離感を熟知している。
「そうだのぉ、今回私がお前たちに指示したものとして、作品の面白くないところを探せという部分があったと思うが、本作はそれが極めて少なかった。粗を探してそれが見つからない。それは不安定な物語ではないという事の証拠だからの。自分は今読書をしていると思える作り、まぁ見事だの。もっとこの作品は評価されてもよい」
神様のアホ毛がぴんぴんと動く。
「ここで、ハルが三重奏を好きな理由も回答されるんけど、どう考えても駆のキャラクターはブレてないん。並行世界じゃなくて、神様が言うように並列世界にしか感じないんな?」
本作の根幹部分となる為、ネタバレをあえて回避させてもらうが、読者としては頭から最後まで駆というキャラクターに関しては、良い奴。
という気持ちは一貫して変わらないだろう。それ故に、ヘカと同じ疑問を感じる。ハルが言う事は本当なのだろうかと……
「ふふふのふ、この感動を感じさせる作風は、『カフェ・ルポゼで会いましょう 箸・帆ノ風ヒロ』等からも感じますよねぇ! なんというか、心を揺さぶる職人さんですよぅ! 帆ノ風ヒロさんは!」
神様とヘカの皿に乗っていたトトが作った巨大なパンケーキが無くなりつつあり、セシャトは戸棚から甘食を何個か取り出すと二人の皿にのせる。
「おぉ! 甘食ではないか、何故甘食かは分からんが……」
「神様も分からないん? セシャトさん、なんでここで甘食なん? チョコレートとかじゃないん? 教えて欲しいん!」
セシャトがここで甘食を出したという意味について、何か必要だからそうしたんだろうと神様とヘカは思っていたが、セシャトはほほ笑む。
そして予想だにしない事を言う。
「賞味期限がそろそろ近いからですよぅ! カレーを食べようとしたバツです。この甘食、全部処理してくださいねぇ!」
ニコニコと笑いながらセシャトはそういう。
まさかの何の意味もない選択。
本来、Web小説紹介はそれを聞く必要がある人間がここにやってきてそれを聞く為、セシャトも自分ができる限り全ての手法を使い、視覚的、感覚的、味覚的に読者を楽しませようとする。
今回は違う。
本作は、ふしぎのくにが募集し、そしてその中で受賞した作品故。ふしぎのくにのメンバーで楽しむ為。
読書自体は十数回は読み返している。そんな神様やヘカ相手にセシャトも何の気を遣う必要もないのである。
「ちょ……貴様、少し仕事が雑ではないかのう? まぁ、甘食は好きだから食うけどのぉ~」
カステラのような甘食。というかカステラと同じくポルトガルから伝わったお菓子の一つ。
「ボーロと違って不思議な事に全国区ではないんですよね! 私が、適当にお菓子を選ぶと思いますか?」
落胆していた神様とヘカの前で、湯銭したブラックチョコレートをセシャトは甘食にかける。そしてホイップクリームを付け合わせた。
「甘食の三重奏です! 甘食もこうすると素敵なデザートになるでしょう? 駆さんは頭に入ってきた情報量に押しつぶされそうになります。再び、ここで盛り上げです。私は思うのですよぅ! この作品は確かに神様が仰るように、Web小説らしからぬ完成度を誇るかもしれません。ですが、ちゃんとWeb小説読者を手放さない盛り上げを毎話、展開されます」
読みたくなる物語とはなんだろう?
究極の質問に感じるが、大きくわけて二つなのだ。
面白いか、気になるか。このどちらかを満たしていれば読者を次のページを開く、あるいはクリックする。
「なん! 読ませる作品というやつなんな? セシャトさんの言う大きく分けて二つを満たしていると思うん。無駄のない話の使い方に関してなんよ。でもこれは偶然なん! 違うん?」
セシャトはヘカが興味を持ってそう聞くのでふふふのふとほほ笑んだ。ヘカは書き手、神様やセシャト、トトにはない慣性を持っている。
「ヘカさん、Web小説の強みと弱点をご存じですか?」
「なんなん? 推敲が自分とかなん?」
「確かにそれもありますね。ですが、一番大きな強みとデメリットは永遠に作品を連載できる事です」
永遠にその作品世界が終わらないというのは、読者からすれば一つの救いのようにも感じる。そしてそれは必ず、何処かに矛盾や問題点をはらむ。
「本作は終わらせる事を根底に、いえ、本作の作者さんはその事をしっかりご理解して創作をされています。作品というものは完結して完成します。完成した物語は心をつかみます。ヘカさんが感じる、面白い、読みたいと感じる物は作者さんがそう読者さんに読んで頂きたい仕掛けそのものでしょう」
セシャトは甘食が二人の皿から無くなると再び入れる。神様がフォークで甘食を刺して大きく口をあけてから食べる。そして静かにこう言った。
「セシャト、さっきから作品考察をやたらと引っ張っておるが、その秋文という小僧、本当にくるのかの? 私はさすがに甘食ばかり飽きたぞっ! そろそろ辛食もとい、カレーライスが食べたいのだがっ!」
神様のその申し出に答える代わりにセシャトは神様の皿を甘食で満たした。
「ぬぉおおおっ! こやつ、本気で怒っておるっ!」
『不協和音の三重奏 〜今もまだ〝君〟への想いが消えなくて〜 箸・帆ノ風ヒロ』本作は気になる作り、そして面白い、上手な文章で紡がれています。その二つが読者さんがページを捲りたくなるという作りと言っても過言ではないでしょう^^ 是非とも、異世界作品等、ジャンルが被らない方も読んでみて欲しいですよぅ!




