愚者の晩餐
あと数日後くらいでしょうか? 面白い物をアップする予定になりますよぅ! お楽しみに^^
本日は小説家になろうへのアクセスができず、お昼アップになってしました!
ハチ公前で人々の視線を奪う美女は誰かを待っていた。猫みたいな口をしてスマホの画面を見つめる。そんな彼女を待っていたのはこれまた整った顔をした青年。
「欄さん、待たせましたか?」
「いいえ、元ボス。それにしても、自分を呼び出してどういうつもりっすか? できれば一刻も早く逃げ出したんすけど」
欄が出会っている青年は、重工棚田の総帥。棚田クリス、当初彼の元でセシャトから金の鍵を奪うように仕向けられ、失敗。
今や彼から命を狙われる関係性であった。
「セルリアンタワーでレストランの予約をしているんだ。是非そこで」
彼は危害を加えない事を前提に、会合をもちかけた。クリスが危害を加えないと言うのであればそれは事実なんだろう。それほどまでに彼は自分の言葉に嘘をつかない。東急ホテルの最上階にあるレストランに入ると、夜景のよく見える席に通された。
「普段は居候先でジャンクフードばかりっすから、こういうの久しぶりっすよ? で、何の用っす?」
クリスは欄の問いかけに対してスマホの画面を見せた。『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』それに欄は悪寒が走る。
「この作品、実に面白いとは思わないかい? 君と木人君のようだ。さしずめ僕はカラス君かな? 君の愛してやまない場所や人を壊してしまおうか?」
欄はそんな挑発には乗らず。クリスが頼んだ食前酒を口にしながら答える。
「悪いっすね。カラスはウチの先生なんすよ」
「そうかそれは失礼したね。さて、ドブネズミのような子供の悪鬼か、うん。飼いならしがいがありそうだ。まずは綺麗にして……」
和子と東雲の仕事終えに出会った浮浪者のような子供に対してそう語るクリスに欄は静かに言う。
「最高級のコロンを身に付けても、元ボスの汚物以下の腐った匂いは消えませんよ?」
「えー! そんなに僕は匂うかい? 困ったなぁ、臭気には気を付けているんだけど、今度病院で診てもらうよ。失礼したね。レディの前で」
「手術しても消えねーっすよ。アンタのその腐った魂の臭いは」
あははとクリスは笑って同じようにシェリー酒を口にする。そしてうん美味しいと一言。
「未成年がお酒なんていいですか? 確かまだボスは十九だったんじゃ」
「僕の持つ国籍のいくつかは16から飲酒可だよ。それより、和子ちゃんは優しいね。あんな汚い子供を連れて帰るんだ。僕みたいじゃないか。それにしても『ラーテル』だなんて可愛い武器屋さんだね。この作品に出てくる動物達。どれも、君が関わっているあの書店にそっくりじゃないか」
「貴方だって武器屋じゃないっすか」
欄の言葉に、マンステールチーズを摘まみながらクリスは微笑む。
「僕も武器屋さんと言えば武器屋さんか、一本取られちゃったな。動物ってさ、獣の事じゃないか、人を殺めるような連中はもう人じゃない。ケモノだという事なのかな? この作品はさ。欄さん、君は不眠症になった事はあるかい? 僕はないんだよ。九時には眠くなってしまう」
クリスがそう言うので欄は薄く盛られたチョリソーにチーズとパインを挟んで上品に口元に送る。
「ないっすね。元ボスと同じで自分もろくでなしっすから」
「それは光栄だ。このドブネズミ君。目が弱いんだってさ。青い眼は何かとデメリットが多いよね」
「元ボスだってそーじゃねーすか」
「うん、だから僕は東洋の血を入れたんだよ。不思議じゃないか? 黒い肌が一番紫外線に強いかと思えばそうでもない。東洋の身体は神秘だと思うんだ」
「そうっすかね。自分には分かりかねるっすよ」
「いずれ君も分かるさ、そういえばホスピスと言えば僕の妹が通っているね」
欄は妹という単語を聞いて、以前誘拐もどきの児戯に付き合った事のある幼い少女を思い出した。
「自分の妹に何してるんすか?」
「勘違いしないでくれたまえ、彼女は職員として働いているんだよ。世の為、人の為に働く自慢の妹さ、今だリアルの世界でも闇医者に不認可病院は多い。この日本国ですらね。だから犯罪者が減らないんだ」
お金さえ払えば整形手術すら承る病院もまだまだ多い。彼らは警察やメディアへの報償狙いの二重取りを考えている事の方が多いのだが……
「ドブネズミ君、和子ちゃんと出会って綺麗になれてよかったね。僕はこういうとても善い人間が大好きだよ」
知っている。
元々、雇い主であるクリス。彼の正義に対する考えは真っ直ぐすぎて狂っている。だから彼は平気でこんな事を言ってのけた。
「知ってるかい? このドブネズミ君のように全力で汚れていると、逆に病気になりにくいんだ。だから、彼は彼を包む雑菌を全部殺されてしまっただろ? だから石鹸という人類史上最初に手に入れた対雑菌兵器を使って数日間半無菌の状態を作ってあげなきゃならない。言わば彼は羊水から守られていないような状態だね」
食べ物を食べる時にする話ではない。されど、欄も気にせずに運ばれてくる料理を食べる。クリスは語る事が好きだ。実によくしゃべる。そして彼は身分や立場を気にしない。差別を一切しない超聖人、もはや人間という枠組みで語れない人格構造をしている。
「ドブネズミ君。リアルにいるのであれば本当に天使じゃないか、俗世を知らず、僕はこういう従業員が欲しいね」
和子と東雲が拾った少年は、複雑な環境の下で生まれ育った、まさしく天使なんだろう。恐らくは国籍と呼ばれるような物が存在しない。そんな彼という存在を羨ましく思って悦に入りながらクリームソースに浸かったニョッキを細かく切り刻むクリスに欄は言う。
「欲しいのは従業員じゃなくて、お人形さんでしょ?」
「可愛いものだねドブネズミ君。欄さん知っているかい? 子供がいきなり沢山の情報が入ってきても大人のように脳機能障害を起こさない理由」
細かく刻んだだけで、ニョッキを口に運ばないクリスはテーブルに置いたスマホの画面を見つめて実に楽しそうに話す。それに欄は応えた。
「自分の理解できる範囲で完結させるからっすよ。それが出来ない子は実は脳機能が発達してる場合が多いっす。所謂ギフテッドっすね」
クリスは自分の欲しい回答が帰って来た事に嬉しそうにして、食べるフリだけをしたニョッキの皿を片付けてもらう。
「元ボスも白ウサギさんやオオカミさんと同じで子供っすよね?」
欄の話を聞いて実に胸がすくような顔をクリスはしてみせた。その言葉を待っていたとでも言わんばかりに……
「未成年だからね。一応」
「違うっすよ。子供の醜悪さを残したまま大人になったバケモンっすよ貴方は、元ボスは和子ちゃんにも慣れないし、ましては昴さんにもなれないっすよ。ケモノじゃないバケモノなんすから!」
ペリエを入れられたグラスを口にしてクリスはそれこそ待っていましたという顔をする。欄をして人ならざる者と比喩する男。
「いやぁ、実に欄さんとWeb小説について話すのは面白い。うん、やはり君は素晴らしい女性だよ。手放したのが実に勿体ない。欄さん、君は恋してるかい?」
唐突な質問の変化。欄がこのクリスを子供と揶揄する一つの理由がこういった会話がコロコロと変わる事。
「そうっすね。案外してるっすよ。とんでもないぶっとんだ先生との日々に恋をしてるっすね。自分の考え付く理解を超えた毎日をいつも提供してくれるっす」
クリスは少し考えてから「あれか」と珍しく不快そうな顔をしてみせた。それが欄には少し可笑しく感じる。この理解の半中にない存在ですら、あの不摂生の化身相手にはこのような感情を抱く。
「そういう、元ボスはどうなんすか? 婚約者の一人や二人はいるんじゃないんすか?」
「そうだね。僕が一つ分からない感情がそれだ、和子君が東雲君に恋するようなそんな感情を僕も味わってみたいよ」
要するにいないんだろう。仕事というか、彼は彼のしたい事に恋するタイプだ。
「真理亜さんも酷いっすね。高校生くらいからメイクの一つでもできないと、恋に失敗しちゃうっすよ」
「そうなのかい? それにしても女の子はこんなにも服に時間をかけるものかい?」
突如としてクリスが質問する。それは誰か気にかけている女の子でもいるかのように、珍しい反応だと欄は頷いて見せる。
「そうっすよ。欲しくなったら店ごと購入なんてザラっすから」
「さすがにそれは冗談だろうね。和子ちゃんと真理亜君。実にいいね。姉妹のようだ。君たちみたいにね」
先ほどから欄は気にはなっていた。この男の事だから自分のあらゆる情報程度は調べているだろうとも。
「和子ちゃんはちゃんと自分の気持ちを声に、形にしたっすね。凄いっすよ。自分や元ボスにはできねー芸当っすね。だけど、和子ちゃんと同じ事を自分も言えるんすよね。自分の今を奪おうというのなら、自分は元ボス。あなたと生存競争をする気満々っすよ」
欄には痛い程、和子の気持ちが分かる。ルールや理屈、倫理、法律。そんなものは全て投げ捨ててもいい。ようやく見つけた守りたい場所。そこに土足で入り込んでくるのなら、あらゆる手を使ってでもそれを排除する。
「恋する女は強ぇーすよ?」
それを聞いてクリスはわざとらしく青い顔をしてみせる。
「それは怖い。僕みたいな怖がりじゃ、どうしょうもできないから、君には同じく恋する乙女をぶつけようと思うんだ」
そう言って一枚の写真がついたネームプレートを差し出した。そこには漢字で書かれた名前と見覚えのある顔。
「ほんとうに、アンタはろくでなしっすね?」
「君はこの娘を殺せるかい?」
「教え子の首を捻るのなんて造作もないっすよ。無駄に金を使った事を後悔すればいいっす」
欄の動揺を隠しきれない反応にクリスは満足すると店員を呼び、小切手を渡す。
「最高の余興だった」
「はい? お客様?」
「このお店、君にあげるよ」
そう言ってクリスは今までの上品さを捨てて悪ガキのように腹を抱えてエレベーターへと歩いていく。そんなクリスがいなくなり、緊張の糸が解けた欄は、嘔吐した。
『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』本日はクリスさんと欄さんという珍しいお二人による、作品のお話となります。作者さん外の考察からお二人は作品内容を楽しみますが、クリスさんは何をしようと考えているんでしょうね! できる限り今月の紹介作品に合わせた世界観で展開していますが、本編の『星空のオオカミとネコ 箸・夜明空』は目を離せないアクションが非常に面白いですよぅ!




