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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 『放浪聖女の鉄拳制裁 著・ペケさん』
77/111

Web小説ではじめに読む入門作家とベビーカステラの別名

秋ですねぇ! 皆さん台風は大丈夫でしたか? 私はお家に帰れなくなってしまいましたよぅ! 最近の水害は重ねて申し上げますが、少しでも危ないと思ったら安全な場所で避難しましょうね!

「ええところでしょ? 次期がもうちょい早かったら、ここから淀川の花火が大迫力で見れるんですえ?」



 大阪梅田のスカイビルで中華を食べながらシアは楽しそうにそう言う。レシェフもこの高さ、近い距離で花火が見えるなんて凄くロマンチックだなと思っていたらレシェフは吹きそうになった。

 うっとりした目でシアは外を眺めている。



「ここでなぁ? 神様と一緒にご飯食べたいねん。セシャトさんは前に店に泊まりに来た時に一緒にきてんけどなぁ」



 どうやらシアは神様にお熱であるという事、レシェフは神様には会った事がないが、このシアが惚れるという事はそういう事なんだろう。どれだけ立派でカッコいいのか、想像すらつかない。



「騎士団と教会、騎士が王国側なのであれば意外と政治的な匂いを感じますね?」



 ソフィの神の奇跡とも思える一撃にてトロール騒ぎが解決したものの、その手柄は騎士団の物となる。歴史を見ても教会は常に国と対等以上の地位を確立してきた。それ故、王国直属の騎士としては教会に手柄を取られるわけにはいかなかったかとシアに言ってみた。



「そうやねぇ、この作品世界ではそこまで政治的な色濃さは感じ取られへんから、しいていえば、このアリストの街におる騎士団達のプライドと意地みたいなもんがあったんちゃうかな? だって、憲兵ばりに街守っとるんやろ? それが何もできず、偶然立ち寄った神職者に助けてもらいましたーやと、どないです? メンツどころか、町の信用がなくなってしまいますやろな」



 八角の香りがする焼き豚をシアは上品に口に運んだ。そしてこれまた上品に咀嚼してから言う。



「なんで本格中華はこの八角をいれるんでしょうね? 歯磨き粉やあるまいし」


(じゃあ何故食べたし?)


 と思ったけれど、顔には出さずにレシェフもシアが食べた物を一口。



「うっ……」

「苦手やったら、ぺっし! ぺっ」



 そう言ってナプキンを渡してくれる。それでもレシェフは断ってなんとか飲み込んだ。涙目で水をごくごくと飲みこむ。



「物語中にイベントを発生させましたね?」

「せやね。でも一話完結の体は乱していません。おのずと次のページをめくりたくなりますやろ? 気にせず食べてや! 生春巻きの次は、珍味の入った揚げ春巻きが待ってるでぇ」

「あはは、楽しんでますよ!」



 上海風焼きそばを取り分けながら、レシェフはシスター三人の食事について微笑ましくシアに話す。



「この子達、サンドイッチのような食べ物を食べる率高いですね」

「そうやねぇ、昔。海外の小汚いラウンジで食事を取った時はブリトーとか、固いチーズバーガーとか、シメか軽食目的やったんかなぁ? みたいな食べ物が多かったね。でもソフィ達はがっつりご飯を食べに来てはるんやろ? せやったら、酒場でありながら昼はレストランをしていてもおかしない。畜産も豊なんやったらシチューとか頼みそうやけど、長旅の癖が手軽に食べられる食事を好むかもしれへんね?」



 アメリカの長距離ドライバー等は片手で食べられる物も好む。もちろん運転しながら食べられるという利点。オフの日も同じような食事をしてしまうというから、ソフィ達もそうなんじゃないか、という作者外の考えをシアは語った。



「さすがにそれは……」

「でも彼女等は美味しそうに食べてはるやん……この野暮な男っちゅーのは何処にでもおんやねぇ。西の勇者、ロビンねぇ」

「今後の勉強の為にお尋ねしますけど、もしシアさんがこういう場所で絡まれたらどうされますか?」



 シアは、縦割れした獣のような瞳を大きくして、それはそれはうっとりとした色っぽく、艶っぽい表情を見せてから一言こういった。



「秘密ですぅ」


(怖いより、この人。ヤバイ人だな)


 高級中華を前にして、シアはあまりそれら料理に手をつけない。舐めるように度数の高い、白酒を飲んでいた。

 シアは着物に身を包んでいるが、青い髪の色と全くマッチしない。されど、そんなシアは別段注目されるわけでもなく、人の中に溶け込んでいる。



「レシェフさんの考えてる事、当てたろか?」

「はい?」

「ウチは聖女さんには程遠いとか、思ってるんやろぉ? それだけやのぉーて、ウチに何を見たん? 怒らへんから言うてみ」

「いえ、そんな事は……」



シアはレシェフの耳元である言葉を呟いた。それにレシェフは瞳孔が開き、そして心音が高鳴る。



「なんで……」

「ウチ、人の心が読めるねん。web小説を読んでる人の気持ちだけやけどなぁ。でも違いないでぇ。ソフィはほんまに優しい子や。でもウチは、絡んできたドブ臭い人間を許せる心は持ち合わせてへんからねぇ」



 獣が獲物を狙う時の瞳でそう言うシア、彼女はどちらかといえばイサラ先生と同じ気質の持ち主なのではないだろうかとレシェフは考えた。



「それにしても、レシェフさん。体の中にいるもう一人の子は、あんまり出したらあきませんよ?」



 自分の中にいる本物のレシェフ。それは自分に語り掛けてくる事もなく、ただただ深いところで黙っている。それでも自分には分かる。それは物語を楽しむ事ができる存在。



「シアさんのお話を聞いて、あの子。喜んでるみたいですよ? なんだか、仲良しのソフィ達と真逆でお互いを認めてるのに、素直になれない二人って感じですね」



 シアが白酒を飲む手を止めて、エビチリに手を伸ばした。



「聖女巡礼団、ほのぼのとした黄門一行みたいですねぇ。そして、この世界の治安は西成くらい悪いですね」

「シアさんそれはちょっと……」



 以前、とあるテレビ番組で問題になったその一言をレシェフが止めようとした時、シアは笑った。



「ふふふ、レシェフさんはそういうの気にしはるんですねぇ」

「そりゃ、私もこれからお客さんに作品を伝えるじゃんね……じゃなくて、伝えていきますから」



 久しぶりに方言が出てしまって恥ずかしそうにするレシェフにシアはクスクスと笑う。一体何かと思ったがシアは面白い事を言った。



「各地方、言葉違ってええですやん! 方言って可愛いですえ? ウチ等西の人間はどこ行っても言葉が変わらへんのは、ウチらが使ってる言葉が、共通語やと思ってるからです。レシェフさんも恥ずかしがらずに、使ったらいいんですえ? それにしてもここで、放浪聖女の鉄拳制裁がソフィさんだけじゃないというところが垣間見れてきましたねぇ」



 イサラ、マリアと中々の暴れん坊である。これだけ治安が悪ければ女性が武装していたり、武道に身を置いていてもおかしくはないだろう。



「なんだか、シアさんが言ってた水戸黄門や時代劇っぽいって言うのが何だか少し分かってきた気がします」



 シアは、フカヒレを一枚小皿に取るとそれを上品に食してから話した。



「かぶせって言うてね? これは演出でもなんでもよくやる方法なんよ。だから、古き良き演出と言った方がええかもね?」



 シアの話にレシェフはうんうんと頷く。ソフィ達が次に立ち寄った街、そこで一度憲兵に止められ、上職の老兵に若者が叱咤されるシーン。



「なんかこれも時代劇で時折入るシーンですよね」

「やろやろ? ペケさんの作品は創作的な基本がよう使われてるからね。これが時代劇を模倣しているんやなくて、時代劇というものはストーリラインが基本作られてるもんやねん。広い意味でいえばアニメのサザエさんとかもそやね。実は同じ話を定期的に変更して繰り返しとるしね」



 シアの話を聞きながらレシェフは吹き出しそうになった。物語を読みながら話を聞いていたレシェフ。上役の男が”こうしちゃおれん~”と言いながら町の男爵に報告しに行くシーン。これもよく見る展開である。



「ここまでくると、基本に忠実を通り越して、なんだかおもしろくなってきますねぇ!」

「そして、トドメと言わんばかりに地図にない。それも教会もない街が忽然と現れるんや。こういうのも何処かで見た事があるんですね。テンプレート、というステージに乗せながら話を読ませに行く、これも技なんやろね。ふふっ、ほんまこの人の書く話は面白いと思いません? Web小説を最初に読むならペケさんの作品が一番入りやすいんちゃうかな?」



 シアの物語の楽しませ方にまんまとレシェフがやられてしまった。物語という物の根本を考えながら、ふと笑ってしまう部分を想像させる。

 だが、この極めつけだけはレシェフは空いた口がふさがらなくなる。それをふっかけたのはレシェフだった。



「ソフィさんとマリアさんが買ったのって……」



 ベビーカステラと言いたかったのだが、シアの口からとんでもない単語が飛び出した。



「あぁ、ちんちん焼きですねぇ、昔は縁日でよく食べましたけどねぇ、懐かしいですねぇ? レシェフさん」


(えっ? 今シアさん、なんていったの?)


 西日本、というより近畿地方では十年くらい前まで、ベビーカステラをちんちん焼きとして販売している屋台があった。由来は焼きあがると、チンチンと鳴る鈴を振ったりしていたからなのだが、TPOにひっかかりそうなネーミング故か、最近その数を減らしている。



「シアさん、ベビーカステラですよね?」

「あー、そうとも言いますねぇ。黒船屋とか色々でてきてますけど、ウチから言わせればあんなん全部ちんちん焼きですぅ」



 そのお菓子の名前を連呼するシア。

 シアは少しキツい表情をしているが、まぎれもない美人。そんなシアがベビーカステラの別名を連呼する事がレシェフには耐えられなかった。

 そして……

 大爆笑。それを見たシアは白酒を一口含んでから頬杖をつく。



「ほんま、箸が転んでも笑うというのはJKの特権ですね」

『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』本作が特別にというわけではありません。全体的にペケさんの作品は何を読もうか迷った方にはオススメです。安定感と共感をアナタに感じさせてくれるんじゃないでしょうか? それにしてもベビーカステラの別名……ひどいですねぇ。

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