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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 『放浪聖女の鉄拳制裁 著・ペケさん』
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キャラクターから見る設定の仕掛け

随分最近涼しくなってきましたね! あと各地の水害がなんだか年々凄くないですか? 日本は亜熱帯系の気候に変わろうとしているんでしょうか? 春や秋が短くなるのはなんだか物悲しいですね。

 古書店『おべりすく』に帰ると、アヌが酒に酔って寝落ちしたので、バストがタクシーを呼んで連れて帰る。



「じゃあお先っす。レシェフさんもおやすみなさい」

「気つけて帰りや!」



 シアはそう言ってレシェフを連れて母屋でコーヒーを出してくれる。やや熱すぎるその珈琲に口をつけながら、シアはゆっくりと語る。



「ソフィってちょいちょい言葉遣いがやんちゃやね」

「そうですか?」

「せやねぇ、ウチならまだしも聖女さんなんやったら、もう少し丁寧な言葉遣ってもええんとちゃいます?」



 ソフィ、彼女はやや上からくる。そもそも、説法をする側なのでそれでもいいのかもしれないが、シアはそんな細かいところを指摘した。自分の好きな作品がディスられたかと思ったレシェフだったが、気づいてしまった。



「あっ……ソフィの言葉って自分主体なんだ……」



 にやりと笑うシア。神に仕えし女官であれば、”お”やめなさい。と言ってもいいだろうし、女神シル様がお許しになると言ってもいいかもしれない。

 だが、女神シルの名において許してあげます。と発言する。許すのは当然ソフィである。そういう事からソフィという女性について、やんちゃであるというシアの読みは的外れではないだろう。



「有限の不死、ほんまこの作者。ベタ設定の使い方上手いですねぇ」



 自らの強化の力に耐えられない身体を自動回復という裏技で維持する。それはまさに、致命傷を受けても瞬時に回復するという事。疑似的な不死身、作中でも無敵とソフィが言われる所以である。異常なまでの火力、ソフィの自動回復を越えるダメージを通せばこの理屈は覆るかもしれないが、それは不可能に近いのだろう。



「ベタな設定って、ソフィの能力ですよね?」

「そやね。それもあるけど、ウチが思うのは盗賊のガルツが死の淵で会心するところやね。圧倒的、というか常識を超えた力の前に、考えが180度変わるって、これはある種の諦めを与えてるんやね。それって現実世界でも普通にある事やん? だからベタな設定をしっかり使いこなすのが、上手いとウチは思います」



 これが古書店『おべりすく』の店主シア。セシャトとは違った読み込みで物語を語り紹介する。



「華奢な女の子が、盗賊を退治できる程の力はない。もちろんソフィも本来はない。それを、説明しうる道具が色々揃った状態やから、ツッコミどころがないという点も面白いやろ? まぁ、読者がややこしくなった今やからという話でもあるんですけどね」



 シアは語る。例えば怪力の女の子が出てきたとしよう。少し前であればそういう設定という一言で片付いていた。むしろ、それが斬新でありまたチャームポイントであったかもしれない。されど、今は少しばかり理屈っぽい読者が多い。それ故、楽しませる為にもある程度の仕掛けを用意しておく必要がある。



「という事は、ペケさんの作品は新しいんですか?」

「どやろな。新しいというより、順応力が高いんちゃうか? この『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』を例にとると、クエスト型とでも言えばええかな? 問題が起きる、解決策を提示。この繰り返しで物語を進めていく傾向にあるやろ? それは戦闘だけじゃなくても一般的な場面でもやね? 広範囲を描写せーへんかったらこの書き方の汎用性は高いんよ。名前は伏せるけど、2000年代のラノベにも見られた手法やね」



 ペケさんの作品は極めて、見やすい空間、範囲内を語る作品が多い。読者の想像しやすい範囲内なのかもしれない。コミック的要素が強い事は間違いない。



「ウチの悪い癖やねぇ、性格上主導権を握りたくなるねん。これがセシャトさんや、愛しの神様やったら、ウチに何点かツッコミ入れて、主導権取りにきはるんやろうけどね」



 レシェフは名前は聞いた事のある東の古書店店主。このシアと同等、あるいはそれ以上のテラーである事。



「セシャトさんってどんな方なんですか?」

「う~ん、そやな。あざとくて、甘いもんが好きな面白い人やで、そんな事より、レシェフさん。レリックつけたないか?」



 ソフィが腕につけているガントレット・レリック。本作において聖女が鉄拳制裁を行う為に最大のギミックである。それをつけたいかと聞かれれば……



「つ、つけたいです!」



 古書店『おべりすく』は物語において様々な奇跡を起こすと聞いていた。まさか、作品の道具を……とレシェフが生唾をごくりと飲むと、シアは奥からなにかを持ってきた。それはまごう事なきガントレット。されど、ソフィがつけている物ではない。



「な、なんですかこれ?」

「これか? 誰やったかな? 女子高の先生が作った対魔本用封印デバイス。カリ・ユガや。似たようなもんやろ。ほらつけてみぃ!」



 シアがそう言ってレシェフの手にそのガントレットを取り付ける。その瞬間、レシェフの人間ではない方の人格が覚醒した。



「なんだ……女狐か、酷く嫌な物をつけてくれるじゃないか? ボクをこんな人間の身体に入れ込んで、何がしたいんだい?」



 シアの表情が鋭くなる。その表情を見てレシェフは面白そうに笑う。「ん?」と言いながら手に持っているスマホの画面を見つめる。



「『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケ』か、女狐の君も甘味妖怪も、そしてこのペケさんもそんなにWeb小説が大事かい?」

「あたりまえやろ? アンタも愛知の片田舎で同じ事すんねん!」

「ボクが? そうだねぇ、例えばこの聖女さん。人を治癒するにあたってのタブーを上手く利用していると思わないかい? とかかい?」



 シアは睨みつけながらチッと舌打ちする。気に入らない相手。なのに、彼女は自分と同等のスキルを持っている事。



「せや、マリアの治癒は決して悪いものじゃなかったんやろ。ただ、その治癒者の自然治癒に身を任せる。またはそれを大幅に強化するようなもんやったんやろ。せやけど、ソフィのはちゃう。魔法。あるいは女神シルの奇跡やな。失われた部分まで創造してまう……」



 治療魔法というよりは蘇生と創造。回復系の魔法における矛盾を上手く飛び越える描写を読み取った。



「例えばこのソフィ、彼女の舞うイラストを見ているとジプシーみたいだよね?」

「は! アンタっ……」

「だから、放浪……ってつくんじゃないの? えぇ? もしかして女狐は気づかなかったとか? 嘘だぁ!」



 小ばかにするレシェフにシアは下唇を噛む。そんなシアを見てレシェフはいたずらな表情から一転して真顔になる。



「こんな神の奇跡を起こす聖女サマでも死者は生き返らせられないのな? この文章ウケルー! 哀しみは死者の魂を惑わせるだってサ」



 よく、地縛霊や幽霊。等と言われるものがある。残念ながらその存在は見つかっていないが、それらは人の想いや、恐怖や噂によって作られる。そう、死しても尚、彼らが語られる事はそこに縛られるという事。結果として死者の魂と惑わせると言えるだろう。

 レシェフはやや馬鹿にしたようにそう言ったが、少しだけ辛そうな顔をする。その意味をシアは知っていた。



「ウチ等は忘れたらアカン、せやけど未練を残したらアカンねん」



 カリ・ユガをつけた指でシアの額をデコピンする。



「何すんねん!」

「あーあ、女狐と話すの飽きたから、宿主とこうたーい!」

「ちょ、まちぃ!」



 レシェフが倒れるのでそれを慌ててシアは抱きとめる。目を覚ましたレシェフは先ほどまでの攻撃的な雰囲気は失われていた。



「シアさん……あの子が出てたんですよね?」

「せやね」

「どんなお話をされていたんですか?」

「しょーもない話やで、そんな事より、続き話しましょ」

「はい。そういえば修道女さん達は、わりとしっかりした物を食べますよね? だいたいお布施等から食料を蓄えていたりしますから」



 中世等のリアルな資料を元に読み解くと、一般的に修道女の食事は贅沢な食事とは言わないが、飢える事のないような慎ましい食事を行うと考えられていると思う。

 だが意外と質素倹約といよりは豊かな物を食べていたらしい。

 飢える者への施しも行う為、普段食べる物と別にパンに穀物に肉にワインにチーズと保存の効く物を備蓄していたりする。



「でも、旅をしているソフィさん達って、作中にもあるように保存食を食べてるんですよね?」

「そやねぇ、だからマリアは喰いしんぼキャラというのも、案外よく考えられてるんかもしれませんね。どうせ食べるなら美味しい物をってウチらと感覚が近いですね」



 シアが楽しそうにそう言ってお店の時間を見ると随分夜更けになっていた。そこまで話し込んでしまっていた事にクスクスと笑うとシアは言う。



「ちょっとお腹すきませんか? なんかお腹に優しい物でも作りますよ?」



 大丈夫です!

 と言おうとしたレシェフだったが、お腹がぐーっと鳴ったので恥ずかしそうに「お願いします」と言うとシアは人懐っこい表情をして、振袖をまくった。



「よっしゃ、シア姐さん特性のおうどん作ったるさかいまっててくださいね?」



 ふんふん♪とシアの鼻歌が母屋の給湯室から聞こえてくる。しばらくするとカツオだしのいい匂いが母屋にかおる。



「はい、おまちどうさん! おあげさんがええ味してますよぅ!」



 大阪名物、きつねうどん。甘い厚揚げと薄口しょうゆのダシが食欲をそそる。シアと向かい合ってレシェフはそれを食べる。



「いただきます!」



 レシェフはふーふーと冷まして食べている間にシアは、仮眠所のベットメイク。なんだかレシェフはこの古書店『おべりすく』にいると、田舎の祖母の家に来ているような錯覚に陥る。楽しい人達に教わるWeb小説紹介研修。

 優しくて美人なシアとの日々。楽しくて楽しくて腕につけているカリ・ユガの事も忘れて考えた。

 明日もまたみんなでWeb小説について語りたいなと。

『放浪聖女の鉄拳制裁 箸・ペケさん』最新話では、また可愛らしい方が登場されていますねぇ! ペケさんの画くありそうで、ある。されど、ペケさんにしかえがけない物語を9月は一緒に楽しみましょうね! 少し面白いものを今準備中ですので、是非読者さんもペケさんも楽しみにお待ちいただければ幸いです!

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