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セシャトのWeb小説文庫2019  作者: 古書店ふしぎのくに
第八章 『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』
70/111

エスコート

ふふふのふ^^ 皆さんでプールに行ってきましたよぅ! 不思議な事でプールサイドで食べるカップラーメンはなんであんなに美味しいんでしょうか? 私は宇治抹茶のかき氷も楽しみましたよぅ! 浮き輪でぷかぷかと浮いてるだけで涼しいですねぇ! 夏後半も楽しく過ごしましょう!

「トト、少し俗世の話をしなさい。全書全読の神々しい神に会うのに、無知ではこの地域一帯の恥、トトの貧しい口を開く事をこのカーヤが許します」

「それは光栄の至りです。では、この数日間。神様やそのご友人達と読み明かしている作品になります『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』」



 トトの読み聞かせを聞きながらカーヤは髪をふわりと靡かせる。おそらく興味深いという事なんだろう。子供が手脚をばたつかせるような反応を見せるのでトトは少しばかりクスりと笑う。



「鵺の子供とはまた不思議なものですね」

「言葉としての鵺ですからね。この作品独自の設定ですよ」



 そうですかとカーヤはその情景を想像する為に目を瞑る。そしてトトが読み進める中で気になった一言。



「護符を口に含むというのはいささか不思議なものですね」



 一般的な護符という物は見せる為にある。それを口に含み体内から悪い気に対する耐性をつけるというのだ。

 それに関してトトは不思議そうな顔をしているとカーヤは自慢げに話し出した。



「護符とは護りの(しるし)。それを不浄な口の中に入れるとはこれいかに? と思うところですが、トトの話を聞く限りではどうもこの物語。大陸の話に近いのでしょう? あの野蛮な大陸は様々な術がある故、これも頷けます」



 トトは珍しい意見を聞いた気がした。否定からの肯定。何やら高貴な存在であるカーヤに対して感心したトトは一つ補足してみせた。



「中華系和風ファンタジーに位置します。そして口に何かを咥えたり含んだりして魔除けとするのは、実は海外ではよくあるおまじないです」



 そう言ってトトは紅茶葉を口の中に一つまみ入れる。



「そうですか、勉強になりました。ですが、それは美味しいのですか?」



 残念ながらおいしくはない。少し涙目でトトは首を横に振る。カーヤは面白そうにすると何もない手の平から小さな杯を取り出した。



「飲みなさい。この盃に注がれた水は全て、美酒に変わります」



 何もない杯に水、もとい酒が満たされる。



「僕はお酒は……」

「この美酒は酔いません。ただし、人間には飲ませられない。トトは人間ではないのでしょう? なら、ここで一度童貞を捨てなさい」



 言い方に少しばかり苦笑するが、トトは厚意を受け、片膝をついてから杯を貰った。その時、トトの中で何かが暴れるようなそんな感覚が走る。



「これは……」

「あはははは! 安心なさい。すぐに収まります。神様に作られた貴方が私の作った美酒を飲んだのです。神気と妖気がぶつかった感覚。少しは楽しめましたか?」



 驚いた。同化という現象で作品を楽しむトト達に対して、カーヤは身をもって作品を感じさせてくれる。



「強すぎる力は毒。いい事を言います。そうです! 人間は強すぎる力を持ち、日々天然自然を殺し続けていますしね?」



 気絶しそうなくらいの殺気。トトはそんなカーヤを見て笑った。自分のところにはまともな客はやってこないなと。



「荒れ狂う天災に立ち向かう。竜紅人は必死に抗う。まさに人間みたいですね? トト」

「そうですね。カーヤさんはよくお読みになられています」



 人間は天災を抑える事はできないが、常に抗い。そして人間は勝利を収めてきた。台風、地震、火山噴火。津波。カーヤは人間を嫌っている。そして同時に愛してもいるのだろう。



「人間もまた天然自然の存在ですからね」



 意図を汲み取り、カーヤは自分の杯を取り出すとその美酒を飲み干した。



「叶という方。魔妖の王。まさに荒ぶる神でしょうか?」

「そうですね。天に座する神とも言えるかもしれません」



 そう言うカーヤは一体何者なのか、作品の中のキャラクターだと言うのに、叶に対して礼を持ったように彼女は話す。

 くすっ、くすとカーヤは笑う。トトが朗読した何処に笑えるところがあるのか、彼女の言葉を待つとカーヤは上品に口角を上げる。



「人という物は騒がしく、そして賢しいものです。それは何時の世も物語の中も変わりません。いえ、この物語がよく人間を描いているのかもしれませんね。心をかざしているようです」



 紫雨と咲蘭の言い合いについてカーヤはウケたのだろう。いい大人が言い合うというシーンは珍しくもないが、子供手前というのは少しリアルかもしれない。

 トトはこういう人外。それも神様に近い存在に物語を読む際の楽しまれ方という物を記憶した。



「カーヤさん、お口に合うかは分かりませんが、よろしければ僕の方からもお茶等を出させていただければと思います」

「奉仕を許します」

「ありがとうございます」



 さて、どの紅茶を出すべきかと、トトはカバンの中から紅茶の瓶を選ぶ。フレーバーティーより、ここは素材で勝負をしようかと、アッサムを選ぶと、それをクーラーボックスの氷で水出し紅茶としてカーヤに振る舞う事にした。



「どうぞ、お口に合えば嬉しいのですが」



 片手で茶碗を持つとカーヤはそれをくいっと酒でも飲むように飲み干した。少しばかり口の中で転がしてから鼻で笑う。



「及第点ですね」

「それはよかったです。この無限の回廊。僕も去年迷い込んだ事があるんですよ」

「まよひがですか?」



 何者かは分からないが人外のカーヤはトトが迷い込んだ場所についての理解があった。そう、今や従業員となった汐緒が一人で住んでいたまよひが、あそこが叶の作った結界に似ているのではないかと思ったトト。



「神妖と……どうもこの物語の種族は不安定な存在が多く感じますね。より、人に近い。このような物語が人間の住む町では流行っているのですか?」



 これは答えにくい質問が返ってきたなとトトは苦笑。カーヤはとても純真な瞳でトトを見つめるので、トトは頷いた。



「そうですね。確かに、Web小説は流行っています。昔の人が歌合せという遊びをしていたくらいには」



 その言葉を聞いてカーヤは目を瞑って少し息を吸うと、風鈴のように幻想的な声で詠った。


”なるかみも うたえおどれや さとのこら”


 片目を開けるカーヤにトトはクスりと笑った。



「山ありて衣騙すは、夏至の君。等いかがでしょうか?」



 トトの返歌に対してカーヤは面白そうに笑うとこう返した。



「及第点ですね」



 深々とトトは頭を下げる。

 作り物とはいえ人の身でありながら恐らくは神の領域に立つカーヤに及第点を貰えたのだ。それ以上を望むのは欲が深いだろう。



「この物語を紡いだ者。文字の美しさを知っていますね。間の取り方が実に趣きを感じます」



 おやとトトは驚いた。おそらくは小説を好む者なら感じるであろう率直な意見をカーヤは述べた。

 そしてそれは人と神とが同じ気持ちになれるという事なのだろう。物語においては思慮深いトトの神様はさらに深い話をしてくれるかもしれないが、ここはトトも真っすぐに案内する事が吉と考えた。



「カーヤさんをしてそう思わせるという事は、このシーンに関しての演出は実に素晴らしいという事ですね。僕もカーヤさんと同じ気持ちです」



 カーヤはカップをトトに向けるとトトの淹れた及第点の紅茶を所望する。それを傅いて淹れるとトトは次を朗読した。

 スピリチュアルな竜紅人の心情と物語、一体彼と葵という少女にどんな関係性があるのか、ここから読み取れる事はと思うのかとふとカーヤを見た時、トトは背中が冷たくなった。



「カーヤさん」

「あぁ、いえ……」



 同化。

 カーヤは涙を流してトトの朗読を聞いていた。竜紅人の深層心理と同化したとでもいうのか? こんな短時間でありえないとトトは思うもカーヤは続きを読むように促すので、これが人ならざる神々なのかと感心する。

 本来、物語を楽しむ事に考察や感想なんてものはいらないのかもしれない。なにか、心動かすものを感じる。

 その為に物語を読むのではないかと、読書の原点を教えてくれているようだった。だとすれば……


(僕のようなテラーは不要でしょうか?)


 葵という名前に関してトトはある有名な物語のキャラクターをカーヤに話してみた。



「葵の上、ご存じでしょうか?」

「いいえ」



 嗚呼、これは知っているなとトトは表情にこそ出さないが理解する。本作のスペルじみた作風とカーヤの感性は非常に相性がいいらしい。



「世は良い物が集まり世界と人ができたといいます。そして悪い陰の気は下に溜まり、それは陰陽として円を描き世界を作りました」

「そうですね。人と私たちのような存在との関係性によく似ています」



 何処で出す?

 ここか、今かとトトは考え、ふと気づいてしまった。自分はカーヤの手の上にいると、であれば出し惜しみする必要もないかと……



「葵上は、後付けで読者に名前を付けられた事が分かっている最古のキャラクターになります。いわば彼女は陽炎、見えているのに存在しないキャラクターなんですよね。それは竜紅人さんが葵さんを忘れていたという事に近いかもしれません」



 見ているのに存在しない。

 この表現もまたカーヤからすれば及第点だったのだろう。再びトトがタブレットに目を移して読み始めるのをカーヤは優しく手を当てて止めた。



「カーヤさん?」

「トト、そろそろ連れて行きなさい。十分余興は楽しめました。そろそろ神様を待たせるのは無礼にあたるでしょう」



 カーヤの言葉にトトは深々と頭を下げると胸に手をあてた。



「かしこまりました」

『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 著・結城星乃』皆さんはどのキャラクターがお好きですか? 私たちも部署によって人気キャラが左右されますねぇ^^ 会話文の巧さも良いのですが単純にキャラクターものとしても本作の魅力は沢山ありますよ! たまには何も考えずに作品を楽しむ。というのも読書の一つですねぇ!

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