妖怪による妖怪達の為の出張ブックカフェ
この前、このシーズンに食べるお菓子として落雁を頂いたのですが、グラニュー糖でできていて少しがっかりしましたよぅ^^ やはり、落雁でできている物が美味しいですねぇ!
神様がぐぉーとイビキをかく横で汐緒は上品に吊るしベーコンを一口。そして酒を一口。トトから支給されているipadで『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 箸・結城星乃』を開き、その文章に目を這わせる。
「それよりちこう寄らんぞ?」
作品を読みながら汐緒は独り言のようにそう呟く。夜も更け、夜に生きる者達の時間がはじまった。そんな者達からすればここには三つ御馳走がある。特に汐緒の隣で寝ている神様は極上の餌と言えよう。
その味見をしにきた夜を生きる者に汐緒は一括する。それで退くのは本当に下級であり、身の程を知る者。
されど、それより少し知のある者は身の程を知らない。汐緒が描いたここより入ると死地というマーキングを無視してズケズケと入ってくる。
そんな輩に心底汐緒はため息がでそうになる。
「これだから田舎の小僧どもは礼儀をしらん。わかりゃせんな。数千といくばか生きても、嗚呼。べこのかぁはかわりゃせん」
その数百を越える物の怪の類がわっと押し寄せてくる。それに汐緒はほんの少しだけ神様を差し出せばトトを独り占めできるかと思ったが、今口にしている大吟醸はこの神様が汐緒にと用意してくれた物と思い出す。
「……今回だけでありんすよ?」
物の怪達は一瞬、蜘蛛の美しい脚を見た気がした。そしてそれらは瞬時に存在を失う。百の物の怪が汐緒によって絡めとられた事を見て、はじめて学のある物の怪達は恐れおののく。
「有象無象が黙って、夜がよくなったでありんす。しかし、竜紅人のとのさん達が泊まる離れ、あちきのまよひがみたいな場所なのかや? 楽しそうでありんすな。しかし、この子等が近くに住んでいるとプライバシー問題が起きそうかや。くくっ」
葵なる謎の少女、彼女がこれからどんな風にかかわってくるやら、子でも見るような目で汐緒は読み進め、作中の夕餉にやや空腹を感じた時。
「ほんに、礼と言葉をしらんかえ? 死して……」
「お許しください! 大妖怪様」
汐緒の前で土下座する美しい女性。豪華な着物を着ている事からこのあたりで名のある妖怪なのだろうかと汐緒は怒りを抑える。
「なんでありんすか? ここにいる人間と神仙? の類の者はくれてやれんかや、このあたりの頭領ならその事を言い聞かせて……話を聞くでありんす。姫さんの名は?」
妖怪は恐る恐る頭を上げると汐緒を見て紅潮する。それに汐緒は何事かと思いながら彼女の話を待った。幾分か風の匂いを楽しみながら妖怪は話す。
「私は山童、この周辺を土地神より任されて早600年、まずは先の妖怪達の無礼、誠に申し訳ございません」
「もういいでありんす。分かったなら、あちき達にかまわんと」
汐緒はしっしとはよ去れと言うが、山童は帰らない。それに汐緒がカミナリを落とそうかと思った時、もう一つ。
「大妖怪様」
「汐緒でありんす」
「汐緒様、ここ数日の内で、とある御方が御襲名になられます。その為、皆気が立っておられ。どうか何事もないようにと……失礼を承知で」
「分かったでありんす。あちきは、別に力を誇示やそんな事をしたりせん。それで良いかや? それに今も昔もあちきは人や化生を持て成すのが仕事でありんすよ?」
そう言ってウィンクしてみせる汐緒に山童のハートは射抜かれた。トト、直伝。文学少女を殺すウィンク。人間だけでなく、妖怪をも射抜いてみせた。
汐緒は少し考えると手をポンと叩く。
「そうでありんす! ここな山で、ミッドナイト出張ブックカフェ開催でありんす。連れは食わせてやれんが、これで我慢しちょおくれりょ」
大友が持ってきた巨大な吊るしベーコンを見せ汐緒が緊張を解くと、わらわらと妖怪達が集まってくる。それを見てボウアンドスクレイプ。
「魑魅魍魎のお客様、今宵今晩この時は、お茶とお菓子に吊るしベーコンで本店オススメのWeb小説を紹介するかや! その名も人と魔妖。お客様達、妖怪みたいな存在でありんすな? そんな今よりもう少し昔の時代を思わせる。違う世界の物語でありんす。『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 箸・結城星乃』を楽しもうせと語りますりゅ」
藤瑠璃? 双竜? と妖怪達が口々に呟く。妖怪とは得てして素直である。知らない事に関しての探求心も強い。
そう。汐緒は思っていた。
「昔語りだと思って聞くでありんす……ん?」
妖怪達は各々スマートフォン、タブレットを取り出してそれを見る。今や妖怪もハイテクの波には逆らえないのである。
「正直、ドン引きでありんすが、それなら話を進めやすいかや。紫雨のとのさんがいる状況、このあちきがこの山に来た時の感じと言えば分かりやすいでありんすな?」
冗談に聞こえず、妖怪達は息をのむ。そんな妖怪達に汐緒は緑茶を入れた。セシャトからもらい受けた静岡の緑茶。
「日本一のお茶の産地でありんす。お客様方はこういったお飲み物の方が好ましいと思うかや! 沢山あるので楽しんでちょ」
薬缶で沸かした湯で次々にお茶を入れていく汐緒。そのお茶の淹れ方は本来のブックカフェで人間の客には見せる事のできない方法。それに妖怪達はほぅと見とれ、女形の妖怪はうっとりと見つめる。
「ここなお集りのお客様なら、紫雨のとのさんをどう考えるかや? 人間なら、そうでありんすな? カッコいい。強い。凄いなどかや」
ミネラルウォーターをごくりと飲んで彼らの様子を見る。しめしめと汐緒は思っていた。彼ら妖怪からすれば紫雨は恐れの対象。怖い、怖いとそこら中から聞こえてくる。そこで汐緒は言う。
「でも、そんな紫雨のとのさんが、妖怪に協力してくれたらどうかや? 心強くはないかや? そう。人間は妖怪の食糧であり、そして妖怪は人間の道具であり、そして協力だってできるでありんす。この大妖怪の汐緒を見ればわかるかや。さぁ、しめっぽい話は終わりでありんす。ここまでで作品の質問はあるかや?」
人間と妖怪の違い。それは日本人と外国人の違いのように汐緒は感じた。この質問、日本人はほとんどしようとしないが、妖怪達は次々に手を挙げる。
「ではそこの一つ目がチャーミングな姫さん」
一つ目の女形妖怪は顔を赤らめ、他の女形妖怪にやや嫉妬の目を向けながら汐緒に質問をする。
「竜と鬼と人間の童、この三人の動きを何故、叶という者は、黙っておきたかったのでしょうか?」
めちゃくちゃ、本作の核心に迫る事をいきなり聞く女形妖怪に汐緒は苦笑しながら考える。
「お客様方のその熱心な読み込みは感謝するでありんす。でも、これは物語。三人のとのさん達が違う立場で、どんな世界を見るのか、どんな事を経験するのか、そして彼らの宿命とどう向き合っていくのかを楽しむでありんす。メインの主役はほぼ決まっているかもしれないけれど、作者さんの三面を楽しむというのもオツではないかや? そして、人間の読者様より、ここなお客様は縁に関しては竜紅人のとのさんの反応、頷けるんじゃないかや?」
そう汐緒はテラーとして自分に主導権を戻して話す。今まで人間相手に紹介を行ってきたが、妖怪相手の紹介はそれはそれで難しく、そして面白い。
約束を絶対に守る特性を持つ妖怪、それは縁というものに対する想いの強さ。想いは化けるのだ。
夜もすがら、Web小説を妖怪達と読み込むなんて事、今度二度とないだろうなと汐緒は随分自分が俗世に染まった事を苦笑する。
汐緒はここで、お菓子を出した。何も手の込んでいない紅茶用の角砂糖。トトが用意していた落雁で作られた超高級な角砂糖。
「これはここで寝ている書物の神様用にあちきの想い人が用意したとても美味い砂糖でありんす。是非ご賞味あれ」
この一言は妖怪達をざわつかせるのに十分な一言だった。妖怪と神、似て非ざる者。されど、妖怪にも信仰する神がいて、嫉妬の対象であり、どれだけ望んでも手が届かない存在でもある。そんな神に本来供えられる物を今、自らが口にできると……
なんたる光栄、なんたる背徳。
ここでもう一つ汐緒はとっておきを残していた。
汐緒からすれば下々の妖怪達相手に汐緒は深々と手をつき頭を地面につける。
「あちきがこの地にやってきたのは、竜紅人のとのさんが力を開放して愚者の森に入るも同じ、どうかお許しを」
神が口にする物を食べ、大妖怪による謝罪、ここまでされたらある種の脅迫にも近い。認めざる負えない。
この山に寝泊まる一行の立場の高さ。妖怪達は静かに、そして尊敬のまなざしを向け、汐緒の話を聞く。
「療のとのさんも、竜紅人のとのさんも種族は違うけれどもこの旅は少年達に何かをあたえたでありんす。作品の彼らにできて、あちき達にできないなんて事はないかや。誇り高き妖のお客様方」
妖怪達は、別種のキャラクター達が仲良く、手を取り合っている事に頷く。そして人間という存在への畏怖。
「人間は魔妖や竜とは違い、少しばかり厄介でありんすな? なにか物事に関しての決まり事が多く、視野が狭いかや。だから人間は用心深く、あなどりがたし……そして面白いでありんすな?」
汐緒の妖怪ジョークが炸裂し、それは全ての妖怪達を笑わせる。時間は四時の半。そろそろ日が昇る頃合い。
それに朝日に弱い妖怪達はざわざわと騒がしくなる。そんな様子に汐緒は片目を瞑ると舌をぺろりと出す。
それに汐緒は言う。
「おやおや、お天道様があちき達に嫉妬して出てきそうでありんすな? じゃあここで本日のミッドナイト出張ブックカフェはお開きでありんす! またのご来店をおまちしているかや!」
そういって古書店『ふしぎのくに』直伝の礼をすると女形妖怪達にウィンクをする。朝日と共に妖怪達が住処へと帰っていくと一息ついた汐緒。
「中々様になっておるの貴様」
半目で神様がそう言うので汐緒は茶を淹れて差し出す。
「いつから見てたかや?」
「まぁ、秘密だの」
『双竜は藤瑠璃の夢を見るか 箸・結城星乃』、当方でも人気のキャラクターの汐緒さん。東京のとあるお店にいらっしゃるスタッフさんがモデルだそうですよぅ^^ 大変可愛い男の子みたいですねぇ!
そんな汐緒さんによる、妖怪さん達相手の紹介。少し面白いシチュエーションですねぇ^^
お盆にはご先祖様と一緒に本作を楽しんでみてはいかがでしょうか?




