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第92話 どうして、あんな事を

 それから、しばらく姉さんを抱き締めて誤魔化していたが、流石に、姉さんも苦しくなったのか、



 「ねえ、ゆうくん、退()いてくれない・・・」



 と言ってきた。


 それを聞いて、僕は慌てて姉さんから離れる。




 「・・・」


 「・・・」




 僕が姉さんから離れたが、姉さんは頬を赤く染めながら俯くけど、しかし、僕に何も言っては来ない。


 だが、僕も姉さんに言うべき言葉が、浮かんで来ないのだ。


 二人とも、そんな感じだったので、その後もしばらくの間、無言のままで過ごした。




 *****************




 「(はあっ)」



 風呂から上がった僕は、部屋のベッドの上に寝転がっていた。


 そして、心の中で、溜め息を付く。


 姉さんの方はと言うと、すでに入浴を済ませ、いつもの様に僕が髪を乾かす。


 しかし、その時でも、二人はやはり無言であった。



 ・・・



 「(しかし、何で、あんな事をしようとしたんだろう?)」



 僕は、そんな事より、居間での、自分の行動について考えてみた。


 普段、姉さんの方から、額やホッペにキスをするが、僕の方からは殆どしない。


 それが、自分の方から、しかも、唇に口付けをしようとしたのだ、



 なぜ、そんな事をしようとしたのか、僕は、その理由を考えてみた。



 ・・・



 僕と姉さんは、今まで、とても仲がいい姉弟で、いつも隣にいるのが当たり前のつもりでいた。


 だけど、高校に入学して、その関係が揺らいでいるのだ。


 僕は、姉さんが他の誰かの物になる事なんか、考えていないし、姉さん以外の女の子が隣にいる事なんて想像していなかった。


 しかし、最近、それを意識しなけらばならなくなっていた。


 僕は、それを防ぐ為に、姉弟の関係を越える事を求めたのか?


 自分の心だけど、全く見えない自分の心を考えると、そんな推測しか思いつかない。



 「う〜ん〜」



 そんな風を考えながら、僕は、ベッドの上で(うな)っていた。




 ******************




 「はあっ」



 私は、ベッドの上で座り込みながら、溜め息を付いていた。


 それは、居間での事を思い返していたからだ。


 ゆうくんともつれて、ソファに一緒に倒れ込み、その後、ゆうくんと見詰め合ってしまった。


 それだけなら良いが、何とその後、ゆうくんが私の唇にキスしようとしてきた。


 しかし、それよりも驚いたのは、私はそれに気付きながら、目を閉じて、ゆうくんを受け入れようとしたのだ。


 結局、直前でホッペにキスされたのだけど、その後、私はその事に付いて、ゆうくんに尋ねる事が出来なかった。



 ・・・



 「なぜだろう・・・」



 私は、ゆうくんがキスしようとしている事に気付いていたが、それを拒まなかった。


 それどころか、それを受け入れてさえいた。


 そうしたら、どうなるか分かっていたにも関わらず。



 「もし、そうなったら・・・」



 もし、ゆうくんとキスしたら、もうただの姉弟では居られないだろう。


 まさか、私は、その事を望んでいた?



 「う〜ん〜」



 そんな事を考えると、私はベッドの上で、頭を抱えながら唸っていたのであった。



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