第92話 どうして、あんな事を
それから、しばらく姉さんを抱き締めて誤魔化していたが、流石に、姉さんも苦しくなったのか、
「ねえ、ゆうくん、退いてくれない・・・」
と言ってきた。
それを聞いて、僕は慌てて姉さんから離れる。
「・・・」
「・・・」
僕が姉さんから離れたが、姉さんは頬を赤く染めながら俯くけど、しかし、僕に何も言っては来ない。
だが、僕も姉さんに言うべき言葉が、浮かんで来ないのだ。
二人とも、そんな感じだったので、その後もしばらくの間、無言のままで過ごした。
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「(はあっ)」
風呂から上がった僕は、部屋のベッドの上に寝転がっていた。
そして、心の中で、溜め息を付く。
姉さんの方はと言うと、すでに入浴を済ませ、いつもの様に僕が髪を乾かす。
しかし、その時でも、二人はやはり無言であった。
・・・
「(しかし、何で、あんな事をしようとしたんだろう?)」
僕は、そんな事より、居間での、自分の行動について考えてみた。
普段、姉さんの方から、額やホッペにキスをするが、僕の方からは殆どしない。
それが、自分の方から、しかも、唇に口付けをしようとしたのだ、
なぜ、そんな事をしようとしたのか、僕は、その理由を考えてみた。
・・・
僕と姉さんは、今まで、とても仲がいい姉弟で、いつも隣にいるのが当たり前のつもりでいた。
だけど、高校に入学して、その関係が揺らいでいるのだ。
僕は、姉さんが他の誰かの物になる事なんか、考えていないし、姉さん以外の女の子が隣にいる事なんて想像していなかった。
しかし、最近、それを意識しなけらばならなくなっていた。
僕は、それを防ぐ為に、姉弟の関係を越える事を求めたのか?
自分の心だけど、全く見えない自分の心を考えると、そんな推測しか思いつかない。
「う〜ん〜」
そんな風を考えながら、僕は、ベッドの上で唸っていた。
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「はあっ」
私は、ベッドの上で座り込みながら、溜め息を付いていた。
それは、居間での事を思い返していたからだ。
ゆうくんともつれて、ソファに一緒に倒れ込み、その後、ゆうくんと見詰め合ってしまった。
それだけなら良いが、何とその後、ゆうくんが私の唇にキスしようとしてきた。
しかし、それよりも驚いたのは、私はそれに気付きながら、目を閉じて、ゆうくんを受け入れようとしたのだ。
結局、直前でホッペにキスされたのだけど、その後、私はその事に付いて、ゆうくんに尋ねる事が出来なかった。
・・・
「なぜだろう・・・」
私は、ゆうくんがキスしようとしている事に気付いていたが、それを拒まなかった。
それどころか、それを受け入れてさえいた。
そうしたら、どうなるか分かっていたにも関わらず。
「もし、そうなったら・・・」
もし、ゆうくんとキスしたら、もうただの姉弟では居られないだろう。
まさか、私は、その事を望んでいた?
「う〜ん〜」
そんな事を考えると、私はベッドの上で、頭を抱えながら唸っていたのであった。




