第91話 祭りが終わって
「はあっ、やっと終わった」
ようやく、二日間に渡った、文化祭が終わった。
僕は今、家でソファに体を沈めていた所である。
「それにしても、疲れたなあ〜」
肉体的にもだけど、どちらかと言えば、精神的に疲れた。
タダでさえ、メイド姿で晒し者になっているのに、メイドとしての接客を心がけないとイケナイので、神経を使うのだ。
「ふう〜」
僕が一息付いて休んでいると、台所から姉さんが居間に来た。
「ゆうくん、ご苦労様♡」
姉さんは、そう言って、僕の労をねぎらう。
「はあ、ホントに疲れたよ」
「ふふふっ、でも、ゆうくん、ゆうくんのメイド姿は似合ってたね♪」
微笑みながら、そう言う姉さん。
「でも、あんな恥ずかしい姿は二度としないから」
「あ〜あ、ホントに似合ってたけどねえ。
いいもん、バッチリと、ゆうくんのメイド姿は取ったんだから。」
僕は姉さんに、そう言ったけど、しかし、姉さんは僕に、そう返した。
しまった! 姉さんは携帯に、撮っておいたんだったけ。
「へへへっ」
次に、姉さんは携帯を取りだし、僕の目の前に突きつける。
画面には、僕がメイド服を着て、腕を交差させながら、トレイを持って立っている姿が写っている。
「そうだ、これを、父さん母さんの所に送ろうかな♪」
そんな、トンでもない事まで言い出した。
うわ〜、止めてよ、恥ずかしいよ〜
「きゃっ! 何するの」
そう思うと同時に、僕は姉さんの携帯をひったくろうとした。
「ちょっと、ゆうくん、止めてよ!」
「姉さん、携帯を貸してよ!」
何としても、証拠を隠滅しなければ。
そう思いながら、僕は、姉さんの携帯を何とか奪おうとした。
「キャッ!」
「うわっ!」
そうやって、二人がもつれると、バランスを崩しながら、二人ともソファに倒れ込む。
「んん〜」
「てててっ」
それから、僕が顔を上げる。
すると、二人がお互いの顔を見合わせる形になった。
丁度、僕が姉さんを押し倒す様な形で、ソファに倒れたのだ。
そして、僕が顔を起こしと、お互いの顔を見合わせる様な位置になったのである。
「・・・」
「・・・」
二人は、お互い見合わせながら、動かなくなった。
姉さんが僕を、僕は姉さんを見た状態で、全く動かない。
・・・
しばらく、そうしていると。
「(そ〜っ)」
なぜか、僕の顔が姉さんに近づき出したのだ。
しかも、視線は、姉さんの唇に釘付けになっている。
「(ええっ! 何で〜)」
僕は、心の中で、そう叫んだ。
全く、自分の意志で動いている訳ではない。
体が、勝手に動いているのである。
しかも、段々近づいてきている内に、なぜか、姉さんが目を閉じたのである。
「(姉さん、どうして〜)」
だが、それでも、姉さんの顔に近づくのが止まらない。
あと少しで、僕の唇が姉さんの唇と、くっ付こうとしたしていた。
そして、ついに・・・。
「チュッ♡」
・・・姉さんのホッペにキスしたのだ。
後、少しの所で、自分の意志で軌道修正したのである。
「(あ〜、危なかったなあ〜)」
僕は、最悪の事態にならなかった事に、安堵した。
・・・
それから僕は、自分の行為を誤魔化す様に、姉さんの上から姉さんを、抱き締めた。
すると姉さんも、僕の背中に腕を廻して、抱き締め返した。
「(はあ、何とか、この場は誤魔化せたが、これからどうしよう?)」
姉さんから離れれば、先ほどの事を、尋ねられるのは確実である。
しかし、”体が勝手に動いた”と言っても、通用しないだろう。
そうして、僕は、姉さんを抱き締めながら、何とか、言い訳を考えていたのだった。




